【睇戲】南方小羊牧場


シネヌーヴォで始まった「台湾巨匠傑作選2024」。サブタイトルが<君は王童(ワントン)を観たか!>とあり、王童の「台湾近代史三部作」が上映される。劇場初公開となる『無言的山丘(邦:無言の丘)』、『稻草人(邦:村と爆弾)』の二作と、以前観て感心した『香蕉天堂(邦:バナナパラダイス)』のほか、陳玉勲(チェン・ユーシュン)、楊德昌(エドワード・ヤン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)、陳坤厚(チェン・クンホウ)の主要作品も上映されるという贅沢なラインナップ。もちろん全部観れれば、それに越したことはないんだが、なんせ貧乏暇なし。過去に観た作品や、どうしても時間が合わない作品は見送らざるを得ない…。

というわけで、まずは《特別上映》という位置づけの『南方小羊牧場(邦:狼が羊に恋をするとき)》から観る。監督の侯季然(ホウ・チーラン)が「巨匠」かと言えば、まあそれは違うわけだけど、ちょうど公開時期が重なったんで、上手く乗っかることができた、ってところか(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

台湾巨匠傑作選2024<特別上映>
南方小羊牧場 邦題:狼が羊に恋をするとき

台題『南方小羊牧場』
中題『大野狼和小綿羊的愛情』
英題『When a Wolf Falls in Love with a Sheep』
邦題『狼が羊に恋をするとき』
公開年 2012年 製作地 台湾
言語:普通話、台湾語
上映時間:85分

評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):侯季然(ホウ・チーラン)
編劇(脚本):楊元鈴(ヤン・ユエンリン)、何昕明(ホー、陳慶祐(チェン・チンヨウ)
監制(プロデューサー):李耀華(リ・ヤォホァ)、劉蔚然(リュウ・ウェイラン)
制片(製作):廖士涵(リャオ・シーハン)
攝影(撮影):周宜賢(パトリック・チョウ)
剪輯(編集):李棟全(リー・トンチェン)、江翊寧(チェン・イーニン)
配樂(音楽):王希文(ワン・シーウェン)
視覚特效(視覚効果):雛志盛(ゾウ・ジーション)、陳志豪(チェン・ジーハオ)
動畫(アニメーション):蘇文聖(スー・ウェンション)
美術設計(美術):蔡珮玲(ツァイ・ベイリン)

主演(主演):柯震東(クー・チェンドン)、簡嫚書(ジエン・マンシュウ)、郭書瑤(グオ・シューヤオ)、陸廷威(ルー・ティンウェイ)
演員(出演):蔡振南(ツァイ・チェンナン)、張書豪(ブライアン・チャン)、謝欣穎(ニッキー・シエ)、林慶台(リン・チンタイ)、聶雲(ニエ・ユン)

上で載せた2種類のポスター。最初のが台湾版でタイトルが『南方小羊牧場』。二番目が大陸版でタイトルが『大野狼和小綿羊的愛情』。この違いは、「南方小羊牧場」が台北の予備校街「南陽街」を意味することから、台湾の人なら「ああ、南陽街を舞台にした映画か」とわかるけど、台湾以外では「は?どういうこと?」ってなるから、タイトルを変えたんだろう。確かに英題も、大陸タイトルと同じような意味になっている。面白いね、こういうの。邦題も大陸題寄りながらも、ちょっとずれてる。映画の内容とかけ離れてはいないけどね。面白いね、こういうのって。

下の画像を見てわかるように、「大野狼」はコピー店の店名。男主人公の阿東が住み込みでバイトする店。狼の被り物を被って宣伝活動をする。隣が女主人公の小羊。ま、そんなことから、大陸題、邦題、英題の方が、よく映画の中身を表してるかな。

作中、何度も子供であふれる「南方小羊牧場=南陽街」のシーンがある

ちなみに、何故に南陽街が「南方小羊牧場」なのか? 台北駅の南側の南陽街に、未来に向かって勉学にいそしむ子供たちが、小羊のごとくわちゃわちゃと蠢いているから。このネーミングのセンス、もう一つやな(笑)。

本作は、2012年秋の台湾公開後、日本では「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013」での長編コンペティション部門、「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2014」(東京)、「台湾映画祭2015」(福岡)と相次いで上映されたが、一般公開されないまま長らく〝幻の傑作〟となっていたところ、「それなら自分たちで劇場公開しよう!」と、おなじみ<台湾映画同好会>が買い付けて、台湾現地公開から12年後の今年、ようやく劇場公開にこぎつけた。いやもう、この熱意たるや!

主役の柯震東(クー・チェンドン)、簡嫚書(ジエン・マンシュウ)

《作品概要》

「予備校に行くね」――メモを残し、恋人のイーインが姿を消した。落ち込むタンが彼女を捜しにやってきた のは台北駅近くの予備校街<南陽街>。タンはひょんなことから印刷店店長に拾われ、住み込みで働くことに。 近隣の予備校から依頼されるテスト用紙の印刷に明け暮れる日々、タンはとある予備校の原稿に羊のイラスト が描かれていることに気が付く。羊のイラストを描いていたのは「必勝予備校」のアシスタント・シャオヤン (小羊)だった。働きながらイラストレーターを目指す彼女は、海外留学してしまった元カレの帰りをこの街 で待っていたのだ。<引用:『狼が羊に恋をするとき』公式サイト

現地公開年の2012年は、柯震東(クー・チェンドン)が『那些年,我們一起追的女孩(邦:あの頃、君を追いかけた)』でデビューした翌年のこと。実際、これが映画2作目である。デビューから2作連続で主役とは、まさに「大型新人現る!」という様相だったわけで、返す返すも、もっと早く公開されるべきだったと、残念に思う。もっとも、柯震東自身は2014年に大陸で大麻吸引の容疑で逮捕されたわけで、そんなこともあって〝幻〟となってしまったのかもしれない…。

本作では、『那些年……』の勢いのまま、若くてまだおぼこさも残る柯震東を観ることができる。ファンには「目福」のひとときだろう。

予備校生がこんな楽しい日々を送っていいのか! なんかムカつく(笑)

何かとツッコミどころの多い作品ではあった。まず、予備校生のクセに彼女と同棲生活を送るって、どういうことなんや?と(笑)。その「予備校へ行く」とメモを残したまま、帰ってこなくなった彼女を謝欣穎(ニッキー・シエ)。謝欣穎もこれが映画出演3作目。監督の侯季然(ホウ・チーラン)の作品では、本作の2年前に『有一天(邦:One Day いつか)』に出演している。最初に消えてしまったんで、チョイ役みたいな感じ。終盤に出演シーンがあるが、これまたすれ違いの人…。配役としてはちょっともったいなあと思った。当時はまだ「これからの人」だったからかな。

「彼女、帰ってけーへん…。夢ちゃうん?」と何度も頬を叩いてみても、それは現実

実際の女主役は、南陽街の「必勝補習班(必勝予備校)」のアシスタント、小羊(シャオヤン)を演じた簡嫚書(ジエン・マンシュウ)。初めて見る顔。こののち、2017年に『雖然媽媽說我不可以嫁去日本(邦:ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど)』で主役を張るんだが、タイトルが長ったらしいので未見(笑)。今作では、ちょっとヘンなところのある役だが、時代に男主人公の柯震東が演じる阿東(タン)には、なくてはならない人へとなっていく。そんな過程で起きる、あんなこと、こんなことを描いた作品である。そう言えば、先日観た『成功補習班』も舞台は南陽街で、予備校の名称は題名そのままに「成功補習班」だった。必勝だの、成功だのと…(笑)。

映画の中で時々、羊のアニメーションがポコッと出るのだが、あれはどうなんだろう? 「こういうの、いいね」と思う人もいるだろうし、「ああ、また余計なことを」と思う人もいるだろう。小生はどっちかと言えば、後者かな。この頃からかな、台湾や香港の映画で、アニメが話のつなぎ的に使われるようになったのは。今もあるね。当たり前になったのかな…。そのイラストは、必勝補習班のテスト用紙に、生徒の息抜き的に描かれたもので、小羊が描いている。イラストには「1314」。ラジオ大阪の周波数ちゃうよ(笑)。これ、「一生一世(イーサン・イースー)」と発音が似ていることから、愛の告白のメッセージとしてSNSで使われる数字の並び。もちろん、小羊がこれを書く意味があるわけで…。

阿東が住み込みバイトで働くことになった印刷屋のおやっさんを、蔡振南(ツァイ・チェンナン)が演じる。本業は歌手ながら、映画やTVドラマの出演数も非常に多い。小生的には『缺角一族(邦:欠けてる一族)』思い出す。時折、台湾語が混ざるのだが、相手は普通話で返しているのが、生活感があっていいなあと感じた。町工場のおやっさんという雰囲気がよく出ていて、よかった。

印刷屋と言っても、実態は予備校街のコピー店なんだけど(笑)。コミカルな役どころだが、なかなかどうして、人の「情(じょう)」をわきまえた、いい人物である

登場人物で忘れてはならないのが、南陽街の女性たちが行列を作る焼き飯屋のあんちゃん(演:陸廷威/ルー・ティンウェイ)。典型的なマスク美男ですな(笑)。彼が南陽街で商売を続けるには、ワケがあって…。そう、恋愛で傷ついた口である。男子としては、その気持ち、わかるな~って理由でね、それが。そこ、つらいよなという物語。大き目のマスクで、顔の半分以上を隠す気持ち、理解できるわ、小生は…。ま、それは置いておいき(笑)。

基本的に、こういうあんちゃんって、黒いタンクトップ着てるねww

南陽街の学生たちが紙飛行機飛ばすなど(この背景は小羊にアリ)、色々詰め込まれているけど、いずれも、そう心に響くものではなく、ぼ~っとスクリーンを眺めているという時間が長かった。

しいて言えば、監督の侯季然(ホウ・チーラン)が上述の『有一天(邦:One Day いつか)』に続いて、どんな映画を撮るのかというのが観たかったので、それはまあ、よかった。全く違うテーストなので、「へ~、こういうの撮るんや~」と意外に感じた。また、若き日の柯震東(クー・チェンドン)や謝欣穎(ニッキー・シエ)を観られたのも、よかったかな…。結末は、推して知るべし(笑)。

って言うと、元も子もないが、結構ツボだったのは、終盤、「予備校へ行く」とメモを残して「失踪」した阿東の彼女と阿東が、南陽街の雑踏で再会するシーン。ここでも彼女は「予備校に行くね」とにっこり笑って、また阿東の前からさっさと雑踏に消えていく…。あのシーンはツボったなぁ…。「うぉい!また行くんか~い!」って感じで(笑)。

《受賞など》==================================

■第15屆台北電影節
・最優秀全体技術賞:『南方小羊牧場』

■第50屆金馬獎
2部門にノミネート

■第7屆亞洲電影大獎
2部門にノミネート

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【南方小羊牧場】官方正式預告片

(令和6年10月10日 シネヌーヴォ)

『雖然媽媽說我不可以嫁去日本(邦:ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど)』


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