【毒書の時間】『つまらない住宅地のすべての家』 津村記久子

<大体こんな感じの住宅地ちゃうかな? 想像の範囲やけど…。念のため、画像と本文及び紹介した作品は関係ありません (photo AC)>


時々読みたくなる津村記久子。調子が合うと言うか、リズム感が小生と似ていると言うか…。なんかわからんねんけどね(笑)。

今回読んだのは、NHKでドラマ化された『つまらない住宅地のすべての家』。このタイトルがもう、バリバリで津村記久子って感じがする。しませんか?するでしょう? 表紙カバーに描かれた家並みからして、ホンマ「つまらない住宅地」って感じがする。「なんかおもろい本入ってないかな~」という具合に「定点観察」する大型書店では、単行本が長らく平積みになっていて、そうなると買うか買うまいかと逡巡してしまうのだが、ご多分に漏れず、今回も逡巡してるうちに、文庫化されて「めでたし、めでたし」である(笑)。――一体、何がめでたいのか?

『つまらない住宅地のすべての家』 津村記久子

双葉文庫 ¥748
2024年4月13日 第1刷発行
令和6年5月18日読了
※価格は令和6年5月20日時点税込

物語は、まず「つまらない住宅地」に並ぶ10軒の家庭の紹介から始まる。この間、巻頭の「つまらない住宅地」の地図と各家庭の住人紹介のページを何度も往復する。ここにもしおりを挟んでいたほど(笑)。

それぞれに問題を抱えている。中には問題と言うよりも「犯罪」を企てている者もおり、この大柳家の望なる一人暮らし男子は要注意だと思っていたら、ドン突の三橋家もDVになりかねない計画を夫婦で練っている。ちょっと心に問題のある息子が原因だ。かと思えば、子供をおっぽり出して、好きな男との逢瀬に生きがいを見出す母親という不幸な姉妹がいる矢島家などなど、「つまらない住宅地」のわりには、抱える問題は決してつまらないとはいかない。

そんな中、女性横領犯が脱走したというニュースに、他の誰よりも正義感に燃える男が一人。父子家庭の丸川家の父、明である。自治会副会長でもある彼は、自警団結成を各家庭に呼び掛ける。そんな父を冷めた目で見る息子の亮太。まあそうだよな。「おっさん、なんでそこまでしゃかりきになる?」ってところだろう。小生が亮太の立場でも、絶対そう思う。「正義感に燃える」と言うより、浮足立っているのだ。なんか面倒くさい野郎だ。

ただ、小生は登場する住人たちの中で、このおっちゃんのことが気にかかる。その理由が終盤になって「あ、そういうわけか!」とわかって納得。中年男子に割とよくあるパターン。決してドラマでイノッチが演じていたからではありません(笑)。

まあこんな感じで、各家庭と住人のことが綴られ、そこに逃亡犯の女、日置昭子のことも挟まれてくる。最初はこの「つまらない住宅地」に逃げてくる昭子を描く物語かなと思っていたが、どうやらこの物語は「つまらない住宅地」に暮らす人々の物語なんだと、段々とわかっていくようになる。「最初からわかれよ!」と突っ込んでくる方もいらっしゃると思うけど、小生、大体こういうのに気付くのが遅い方なんで、笑って許して(笑)。

じゃ、脱走中の女、日置昭子は何やねん? となるが、これがまたうまいことここの家庭の一つと重大なかかわりと言うか、因縁と言うか、そういうのがあって、これが彼女が横領を重ねた要因にもなっている。まあ、一種の復讐とでも言うか。それにしても浅はかな罪ではあったな…。

そして日置昭子、実は上述の冷めた目で父を見る丸川亮太の友人とは、いとこだという関係。そこから発展する、昭子と「つまらない住宅地」の面々の対峙…。物語は時に意外性を帯びながら進展してゆくが、最後は穏やかな着地を迎える。この進め方がなんとも心憎いし「上手いなぁ」と感心する。

近隣の人間関係が希薄だったり、家族同士が冷えた関係だったり、ともすれば犯罪になりかねない問題を抱えていたり…。それはどの町にもどの家庭にもあることなのかも知れないし、だからこそ「つまらない住宅地」と言うことなのだろうけど、それを逃亡犯出現という異常事態が、問題を解決に向けて一歩前進させてくれるという結果を導いた。「つまらない住宅地」は見た目は相変わらず「つまらない住宅地」だけど、少しは温もりもある住宅地になったのではないだろうか…。

ちょっと前の本だけど、しつこく(笑)いまだに平積みで売れ線作品の模様。津村流の「お仕事小説」。ハローワークの人が、めっちゃ親身で優しい。こういう人、おらんと思うけど(笑)。

 


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