【香港特別行政区基本法第23条可決】

<可決された「23条」。ご家庭に1冊いかがでしょうか(笑) (香港電台)>


2024年3月19日、香港立法会は「維護國家安全條例草案(=国家安全維持条例)」第3読会の採決を行い、89票の全会一致で可決し、香港基本法第23条の現地立法が正式に完了した。基本法第23条は可決され、23日に官報に掲載され、発効の運びとなる。

反対票も棄権もなし。ものの見事に全会一致 ©端傳媒

1997年7月1日の祖国回帰から、実に26年8か月19日。最大の懸案事項にして最も難関だった「国家安全保障の抜け穴」が、ようやく埋まることとなり、香港はまた新しい段階へと進んだ。それこそ返還前から小生は「これは早急にやり遂げないと、必ず大きな混乱が起きる」と思っていたが、あれやこれやと、案の定だったね。一旦は「お流れ」となってしまったが、立法会を建制派が独占し、国安法が目を光らせるこの時代、事は想像以上にスピーディーに進み、あれよあれよのうちに、日の目を見ることになった。時代は変わったもんだ。

50万人デモで一度はお流れになった23条

2003年のことを振りかえれば…。02年、当時の中国国務院副首相銭其琛は、「中央政府は香港政府が基本法第23条をできるだけ早く施行することを望んでいる」と述べた。この発言を受けて、香港政府は「實施基本法第23條諮詢文件(=基本法第23条の施行に関する諮問文書)」を公布し、当時の香港行政長官の董建華(C.H.トン)が法案制定の推進を開始。反逆、国家転覆、国家分裂などの犯罪に対する3年間の諮問期間に入った。

諮問期間中、当時の保安局長だった葉劉淑儀(レジーナ・イップ)は、複数の大学のセミナーに出席したが、彼女の発言は物議を醸し、出席者が大声で反対のスローガンを叫ぶなどして、度々中断された。最終的には公務多忙を理由に、少なくとも3つの専上院校(日本の私立大学に相当)のセミナーをキャンセルした。こういう態度が、ただでさえ23条に不信感を抱いていた市民の反発を拡大させてしまう。同年12月には6万人が23条の立法に反対するデモが開催され、立法化反対の市民から19万筆の署名も集まる。完全に貧乏くじ引いて「悪者」にされたしまった葉劉淑儀は、ちょっと気の毒ではあったけどね。もうちょっとやり方あったんちゃうの?とは思うな…。

今回、一番ほっとしているのは、このおばさんかもよ(笑)。新民党議員の事務所開きで祝辞を述べる葉劉淑儀(レジーナ・イップ)

しかし、香港政府は03年2月14日に「國家安全(立法條文)條例草案=国家安全保障(立法規定)法案」を官報に掲載し、同月26日に審議のため立法会に提出した。「民間人權陣線(民陣)」は7月1日に「反對23條立法」を掲げた大型デモ(七一大遊行=7.1デモ)を開催。50万人以上の市民が参加したと発表した。当時、祖国回帰以来、最大規模のデモとなった。まあSARS感染拡大で溜まっていた鬱積を晴らす「健康ウォーク」みたいな一面もあったけど(笑)。

50万人のデモを大喜びで報じる翌日の『蘋果日報』
50万人のデモ。見物に行ったけど皆さん、和気藹々とウォーキングを楽しんでいらっしゃった ©東方日報

デモの規模に驚愕したのかどうかは知らんけど、7月5日、董建華行政長官は譲歩し、公益的抗弁事由の追加や警察の家宅捜索権の取り消しなど、草案の一部条項を修正することを提案したが、反対のうねりを沈静させるには至らなかった。 9月5日には、董行政長官が法案の撤回を発表。まずSARSで疲弊した経済を改善し、市民と十分に話し合い、法案を制定する前に合意に達することを約束し、23条立法スケジュールは破綻した。 04年7月22日、「国家安全保障(立法規定)法案」は立法会の任期満了とともに完全に失効した。

法案の撤回を発表する董建華行政長官(当時) ©i-Cable=放送当日の画面

異例の超高速可決

2022年5月8日、香港特区政府第6期行政長官選挙に当選した李家超(ジョン・リー)は、当選演説で「適切なタイミングに基本法23条の立法作業を推進する」と表明した。「やっぱりそう来たか」と。確かこれまで就任にあたってこれを明言した行政長官はいなかったと思う。歴代行政長官の中で、もっとも強硬派のジョンさんのことだから、当然と言えば当然。すでに国安法で民主派も完全に骨抜きにされた今となっては、きっとさっさと完了させるんだと思っていたが、それでも2年ばかりかかった。結構、根回しとか準備をきっちりやったんだと思う。03年の董建華時代は、それがあまりにも不十分だったんだろう。

今年1月25日、李行政長官は立法会の対話型質疑応答に出席し、議員らと23条の立法について議論した。李長官は、23条立法推進の過程で「解說隊(説明チーム)」と「反駁隊(反論チーム)」を設置すると述べた。前者は経済界、メディア、在港外国総領事、外国商工会議所などへの説明を担当し、後者はネット上の「敵対勢力」に対処する。締めくくりのスピーチでは、23条の立法は「早ければ早いほど良い」という点で、議員と政府の間で合意が得られたことをうれしく思っていると述べた。

李行政長官は立法会の対話型質疑応答を終え、満足気な表情で議場から退出する李行政長官

てなわけで、今年1月30日から1か月間の公開諮問が始まった。

「さっさとやるからね!」と李行政長官

諮問文書は9章からなり、国家の安全を守るための香港の憲法上の責任と対処すべきリスクが詳述されている。以下は主要な5項目。

・叛國及相關行為(国家反逆罪および関連行為)は、現行の犯罪条例を改善し、英領時代からの「時代遅れ」の部分も削除、改正。国家の安全を脅かしたり、個人が域外勢力の訓練を受け入れたり参加したりするなど、警戒する必要がある反逆行為や関連する行為が含まれる。
・叛亂、煽惑叛變及離叛、以及具煽動意圖的行為(反乱、反乱扇動、反乱扇動、扇動目的の行為)については、「犯罪条例」を整備し、「反乱扇動罪」の対象を拡大することを推奨。国家主権、両岸統一、領土保全を危険にさらす、あるいは重大な内乱、さらには重大な内乱につながる「暴動」行為、または中国国内での深刻な内乱や武装衝突に対処するために「反乱」罪を導入することが提唱されている。
・竊取國家機密及間諜行為(国家機密の窃盗とスパイ活動は国家機密)を定義し、「国家機密の不法取得」「国家機密の不法所持」「国家機密の暴露」など、国家機密保護に関連する罪を創設することを提案。 「スパイ活動」については現行の「官方機密条例」を改善し、域外勢力が域内代理人を通じて虚偽または誤解を招く情報を公表させて香港特区の事務に干渉すること、また域外諜報機関に参加または支援、あるいは域外諜報機関から利益を受けることを禁止する。
・危害國家安全的破壞等活動(国家安全保障を危険にさらす妨害行為などの活動)については、コンピュータや電子システムを通じて国家の安全を危険にさらす行為を対象とする新たな犯罪が追加される。
・境外干預及組織從事危害國家安全的活動(域外の干渉や国家の安全を脅かす組織活動)に従事して域外干渉に協力したり、不正な手段で国や香港特区の政務に干渉したりすることを禁止する「域外干渉」罪の創設を推奨。香港特区の選挙、立法および司法当局の決定、ならびに中央または香港特区と外国または中国のその他の地域との関係を損なう行為を禁止する。

まあ、普通に暮らしている限り、全く関係ありませんな。日本に暮らす日本人で「もう怖くて香港に行けない」と嘆いている方を結構多く見受けるが、「アナタ、そんな重大なことしてるんですか、凄いですね~!」と、逆に尊敬するわ、いやホンマに。と言うことなので、どうぞお気軽に香港旅行してください(笑)。

こちらが「公開諮問文書」 ©South China Morning Post

特区政府は2月29日に新聞稿(プレスリリース)を発表し、保安局に寄せられた1万3,147件の意見のうち「98%以上が肯定的な内容で、立法提案が大多数の市民に支持されていることが示された」と報告した。 93件の反対意見のうち、10件以上は「海外の反中組織や海外逃亡者」からのものだった。と言っても、こういう報告を真に受ける市民はいないだろうけど(笑)。

特区政府は3月7日に新聞稿を発表し、保安局と律政司(法務官)はここ数日間「休むことなく全速力で作業」し、香港基本法第23条の草案を完成させたと報告した。

3月7日、駐港米国総領事館前で米国の23条批判に対して抗議する市民団体。勝手な印象にすぎないかもしれないが、建制派のデモって、中高年のご婦人が目立つような… ©端傳媒

3月8日、草案が官報に掲載された。政府新聞稿は、李家超行政長官の談話として「『プロセスを完了する』ため、立法会で特別会期の招集を検討するよう示唆した」と伝えた。草案を「一日も早く」完成させるという、強い意志を感じるではないか! 頼もしいやん!

新聞稿発表からわずか18分後! 立法會秘書處(立法会事務局)は、立法会議長の梁君彦(クリスティン・リョン)が「議事規則」に従い、直ちに特別議会を招集する決定を下したと発表した。草案が公報されてからわずか3時間後の午前11時、立法会は2読会の審議が中断されるまで、1読会と2読会を開始した。立法會法案委員會(立法会法制審議委員会)も同日午後、各2時間の会議を2回開催し、草案を細かく審議した。

地元紙『明報』は、立法会が政府官報に掲載された同日に法案を初読するのは異例で、2002年以降の年次予算の歳出法案を除いて、他に前例はない、と速報した。同速報は関係者の話として「全国人民代表大会の香港代表や中国人民政治協商会議のメンバーの多くが、7日の全人代と政協に出席するため北京に滞在していたが、急遽香港に戻り、翌日の1読と2読に出席する準備をした」ことを伝えた。「こっち(北京)はええから、早よ戻れ!」って北京の偉い人から言われたんやろね(笑)。

立法會議事規則委員會(立法会議事規則委員会)主席の謝偉俊(ポール・チェ)は、『明報』に対し「官報掲載と同じ日に立法会が法案の1読を開催したことは、記憶にない」と述べた。立法会が法案審議のため、臨時の議会を召集するのは極めて異例で、当局は今回は「一刻を争う」という認識を対外的に示したかったのだろうよ。 03年に第23条立法の推進を担当したが、失敗した葉劉淑儀(レジーナ・イップ)も、このアプローチは珍しいと述べた。彼女はまた、03年当時は草案の協議と議論の時間が長すぎ、各界からの「活発な意見」が多くの不必要な不安を引き起こしたと指摘。当局が草案をスピード感を持って立法会に提出することに同意した。

3月14日には立法会法案委員會が約一週間にわたる検討会の末、審議を終了。終了後は《維護國家安全條例草案》のたたき台を手に、律政司司長(法務官)の林定國(ポール・ラム)と保安局局長の鄧炳強(クリス・タン)を囲んで記念撮影。いずれも「やり切った感」ある表情 ©端傳媒

そして3月19日。立法会は基本法23条に基づいた草案に関する2読を再開した。地元メディアは、立法会は2読会と3読会で草案を可決する可能性があると、相次いで報じた。

午前から午後にかけて行われた2読では、立法會法案委員會(立法会法制審議委員会)の議員が1人5分程度の持ち時間でそれぞれ発言した。 発言した議員のほとんどは2019年の反逃亡犯条例に端を発した「暴力破壊活動」に言及し、「暴力的破壊行為」と「カラー革命」が香港を混乱に陥れ、法改正が「不可欠」になったと述べた。さらに、多くの議員が西側諸国は独自の国家安全保障法を有していると述べ、今回の立法作業を危惧する西側諸国に反論した。

03年の失敗を悔いている葉劉淑儀

印象的なのは、やっぱりこの人の発言。現在は新民主党党首で港島西區議員である葉劉淑儀。「2000年代初頭に23条立法が成功していれば、14年に『雨傘行動』は起きなかっただろう」と語った。 葉劉氏は「『雨傘』は外国メディアによって美化されているが、実際には香港の社会秩序を破壊し、政府の政策を覆すために一部の外部勢力によって実行された活動であった」と指摘した。ホント悔やんでいるよな、この人。

また現在の立法会で唯一「非建制」の立法会議員、狄志遠も、23条草案の早期可決の支持を表明した。

この日、立法会議場周辺には多くの警察官が配備され、不測の事態に備えた ©報道者

午後6時30分、立法会議員全員が無記名投票で修正案を可決し、3読に入り、6時54分、立法会議長の梁君彦(クリスティン・リョン)を含む89人全員がが賛成票を投じた。特区政府が草案を官報に掲載し、立法会が最初に草案を読み上げた3月8日から、3読会を通過した3月19日まで、要した日数は11日間だった。

「維護國家安全條例草案」が立法会第3読を通過し、李家超(ジョン・リー)行政長官が演説し、立法会議員全員と集合写真に収まった ©端傳媒

草案通過の際、保安局局長の鄧炳強(クリス・タン)は「百感交集=万感胸に迫る思いだ」と述べ、「ついに23条の誕生を見ることとなった」と語った。鄧局長は、2019年の「暴力破壊行動」の影響について改めて言及し、国安法の施行が明らかなプラスの効果をもたらし、23条の必要性について市民の理解を得ることができたとも。いやいや、ちゃうて。言いたいことあっても言いにくい空気が香港を覆ているのよ。そこは、あなた方が理解しておく必要はあるかと思うけど…。

条例可決後、李家超(ジョン・リー)行政長官は立法会議場に入り演説した。李長官は「今年は習近平国家主席の『總體性國家安全觀(全体的な国家安全保障構想)』の制定10周年にあたる」と述べ、この条例は「国と中央政府からの信託に応えるもの」だと語った。

また李長官は立法過程を遣り回した梁君彦立法会議長に対し、「朝の起床時から夜の就寝時まですべての時間を23条に費やしてくれた」と謝意を表した。さらに、法制審議委員会が9日から7日まで7日間ぶっ通しで条項を検討してくれたことにも感謝した。李長官は「この歴史的な仕事に心を込めて取り組む」という「団結」に励まされたとも述べた。

同氏はまた、立法プロセス全体が賢明であり、審査プロセスは「香港を統治する愛国者」の最高の価値を反映しており、23条からなる法案の「神聖な使命」を完了したと述べた。

李長官は最後に、この法案の完成は「26年8か月以上香港を悩ませてきた問題」の「終結」を意味し、これからの香港は「全速力で経済の発展に向けて前進でき、市民はより良い生活、より良い収入、より良いケアを受けることができると指摘した。

23条で裁かれるとどうなるか?

我々一般市民が普通に暮らしている限り、縁もゆかりもない23条だが、「もう怖くて香港へ行けない!」と恐れている方々が、お気軽に香港へ旅行できるように、「これこれのことをすると、こうなりますよ」の一覧を紹介しておく。

※二読会終了時点で明らかになったもの ©獨立媒體

反乱罪、反逆罪は最高で終身刑。なお、いずれの刑期も「懲役刑」ではなく「禁固刑」なのでご安心を(笑)。怖がってる人は、ここに列挙されている罪状の日本語訳くらい簡単にできるようなご立派な方たちだろうから、一々訳さないけど、どう考えても一般人には縁のなさそうなことばかり。また、23条は香港現地の法律であり、他の場所に送られることはない。

結局はこうなるのよ。これが「返還」というもの

2023年7月1日、50万人が繰り出したとされる「反對23條立法 七一大遊行」に登場した董建華行政長官と葉劉淑儀保安局局長の張りぼて。この「ヘタウマ」具合がいかにも香港(笑) ©香港01

まああれですわ。香港社会が第 23 条に反対し、50万人が「反對23條立法」を掲げて街頭に繰り出した「七一大遊行=7.1 デモ」は、その後の多くの市民参加型大型民主活動のはしりとして、特筆すべき出来事ではあったが、そのために2014年の「雨傘行動」や19年の「暴力破壊行動」など、度々、社会の大混乱を招くきっかけともなった。あれから21年、香港特区政府は中央政府による香港國家安全法=国安法を施行し、選挙制度を「改善」し、「愛国愛港」人士による統治を実施したが、さらに香港自前の国家安全維持条例を成立させた。しかし、社会はもはや03年当時とは大きく変わり、抵抗を生み出すメカニズムを完全に喪失してしまっている。小生からすれば「ほら、言わんこっちゃない」「自業自得よ」というハナシなんだが…。

 


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