<やっぱり任達華(サイモン・ヤム)には、こういう役どころがピッタリやわ~。もうめっちゃカッコよくて、迫力あって、怖いのよ~~!>
2週続けて尼崎は「塚口サンサン劇場」に赴く。来週も行くんやけどね(笑)。例の「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」を観るため。この日はその名もズバリ『黑社會(邦:エレクション 黒社会)』。今風に言えば、「反社会勢力」を描いた映画であるが、これこそ「香港ノワール」の神髄というもんで、撃ち合い、殺し、裏切り…。想像できる限りの裏社会のあれやこれやが盛り込まれている。小生の大好きな香港映画のジャンルの一つである。そう言えば、周潤發(チョウ・ユンファ)主演で『黒社会』って映画あったよな…。あちらは邦題こそ『黒社会』だが、原題は『我在黑社會的日子』(1989年)で、監督は黃泰來(テイラー・ウォン)。我が家にレーザーディスクがあるが、今となっては再生のしようもなく…。レーザーディスクをDVDかBRにダビングしてくれるとこあるみたいやけど…。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
黑社會 邦題:エレクション 黒社会
港題『黑社會』 中題『龙城岁月』
英題『Election』 邦題『エレクション 黒社会』
公開年 2005年 製作地 香港・中国
言語:広東語
香港電影分級制度本片屬於第Ⅲ級,18歲以上人士收看(=18禁)
評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):杜琪峯(ジョニー・トー)
監制(製作):羅守耀(デニス・ロー)、杜琪峯
動作指導(アクション指導):黃志偉(ウォン・チーワイ)
編劇(脚本):游乃海(ヤン・カイホイ)、葉天成(イップ・ティンシン)
配樂(音楽):羅大佑(ロー・ターユー)
攝影(撮影監督):鄭兆強(チャン・シウキョン)
剪接(編集):譚家明(パトリック・タム)
主演(主演):任達華(サイモン・ヤム)、梁家輝(レオン・カーファイ)、古天樂(ルイス・クー)、張家輝(ニック・チョン)、張兆輝(エディ・チョン)、林雪(ラム・シュー)、林家棟(ラム・カートン)、王天林(ウォン・ティンラム)
演出(出演):邵美琪(マギー・シュウ)
「Ⅲ級片」である。すなわち18禁。90年代くらいまでは、それは概ねエロ映画を指していた。昨今は、エロいⅢ級片はほとんど見かけなくなり、過度の暴力シーンや流血シーンのある映画がⅢ級指定されることの方が多い。だから大物俳優が「芸能生活で初めてのⅢ級片出演!」なんてこともしばししば。この作品も裏社会を描いているから、当然ながら暴力も流血もすさまじい。粗口(広東語スラング)も飛び交う。そういう香港映画が大好物なんですよ、小生は!
《作品概要》
2年に一度行われる香港最大のマフィア「和聯勝」の会長選挙。冷静沈着なロクが次期会長に選ばれるが、組の稼ぎ頭で、選挙に敗れたディーとの間で、会長だけが手にすることが出来るという「龍頭棍」の争奪戦が始まる。勝利を収めるのは冷徹さか、情熱か?超一流の権力者に求められるものとは? <引用「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」公式サイト>
「300年前、忠誠を追求した秘密結社「洪門(天地會)」の者たちは、「反清復明」を唱え、清王朝と戦い、明王朝の再興を目指し、国家のために戦った英雄であった。300年後の現在、天地血盟を誓ったはずの洪門の者たちは、利益を追求し権力を争うだけで、人々を苦しめる黒社会集団に過ぎない。時間はすべてを変えた。「樂少(ロク)」はついに主導権を握ったが、権力闘争は果てしなく続くだろう…。」
ってな内容のナレーションが映画のラストに流れる。盧海鵬(ロー・ホイパン)によるこの「語り」は次作の『黑社會以和為貴(邦:エレクション 死の報復)』の冒頭に受け継がれるのである…。事程左様に、そもそもは「反清復明」を目的とする政治的秘密結社だった「洪門」とも呼ばれる「天地會」だが、現在、その多くは中華圏で黒社会と総称される「反社会勢力」に変貌した。本作に登場する組織「和聯勝」は、もちろん架空の組織だが、なんか似たような、聞いたことあるような…。まあ、和だの、聯だの、勝だのという字は、黒社会組織の名称でよく使われる。
その「和聯勝」は2年に一度の会長選挙を実施。任達華(サイモン・ヤム)が演じる樂少と、梁家輝(レオン・カーファイ)が演じる大D(ディー)の二人が候補に挙がる。どっちも5万人の構成員を率いるトップに立つことを望んでいる。投票権を持つ組織の「叔父輩(長老グループ)」もまた、私利私欲のために樂少派と大D派が密かに争っている…。
長老グループのリーダー、というか組織全体の相談役的存在の鄧伯(トウ叔父)を、王天林(ウォン・ティンラム)が穏やかに好演。王晶(バリー・ウォン)監督の父親で自身もまた映画、ドラマの監督である。その体格から、映画の中でも抜群の存在感。「BIG BOSS」とはこういう人のことなんだろな、って感じ。
樂少が選出されたことに、大Dは当然のことながら大きな不満を抱く。歴代会長に引き継がれる「龍頭棍」を樂少に渡さないよう前会長の吹聴(演:王鍾/ウォン・チュン)を脅す。長老の一人、龍根哥(演:余袁穩/ユー・ユェンイン)とその手下の官仔森(演:洪羅拔/ロバート・ホン)を捕える。二人を木箱に閉じ込めて、山の上から何度も転げ落とすという残虐な手段を講じる大D。やることが凄まじいね、こいつ。要はヘロイン取引で組織に富みをもたらしているのは、この自分だ!という思いからなんだが、そういう「ビジネス」を良しとしない、叔父輩が樂少を推したということへの恨みつらみである。もちろん、叔父輩の中には大Dのビジネスにより、懐を温めている連中もおるわけで…。ついには、新しい組織「新和聯勝」を起こすなどと言い出す。一方の樂少は、あくまで冷戦沈着に事態を見ており、大Dに対して動きを見せることはない。
この木箱に詰められ山から落とされる官仔森にはジミー(演:古天樂/ルイス・クー)という若い手下がいる。大学に通い、「まともなビジネス」を勉強する寡黙な若者である。最終的には、樂少に無事に「龍頭棍」が渡るよう協力するのが、次作では、こいつが…。ま、それは次作のお楽しみってことで。
結局、こうした大Dのやり過ぎが、ついに警察を動かすことになる。
樂少は樂少で「龍頭棍」を本土に持ち込ませ、大Dの手に渡らぬように画策する。追う大D一派。ここで「龍頭棍」を無事に守ることに尽力するのが、大D一派の一人で大埔地区で幅を利かす大埔黑の手下、東莞仔(演:林家棟/ラム・カートン)や九龍のトップの一人、高佬の手下、大頭(演:林雪/ラム・シュー)、さらには大D一派である魚頭標の配下のスナイパー、飛機(演:張家輝/ニック・チョン)といった面々である。特に大頭の血まみれになりながらの奮闘ぶりが印象深い。いつの間にか、孤立化していく大D…。
「大Dに勝ち目無し」と見たのか、若い「有望株」が次々と樂少派へなびいてゆき、ついに争いは幕を閉じる。
新たなスタートを切る「和聯勝」だが、尖沙咀エリアを縄張りとするライバルの「新記」を潰したい。「新記」のボスをおびき出して、樂少と大D二人がかりで麻袋をかぶせて殴る蹴るの末に消すことに成功。これで「和聯勝」は香港一の歓楽街を手中に収めることに。有頂天の大Dだが、どこか冷めた表情でそれを見る樂少の視線が気になっていたら…。
やはり樂少にとって大Dの存在は常に懸念材料だった。協力体制にあるものの、依然として彼を脅かす可能性を秘めていることには変わりはなかった。そんなある日、樂少親子と大D夫婦で釣りに出かける。のどかな一日のように見えたが、大Dは隙があった…。いや、隙がありすぎだろう。もしかしたら、大Dが樂少を殺るつもりだったのかもしれない。とすれば、樂少はそのことを常に頭に入れていたということになる。この辺の人物の差だな、結局は。
夫婦の遺体を埋めるところを見てしまった樂少の息子君のショックたるや、帰りの車の中での表情が物語っている。この子の将来にも大きく影響しそうで、他人さんの子供ながら、心配でならない。
さて、衝撃の幕切れとなった本作だが、もう一つの幕切れシーンがある。とにかく検閲がうるさい本土で、「殺人犯がのうのうと罪を逃れる」幕切れはNG間違いなし。ましてやタイトル『黒社会』なんてありえない話。そこで本土版では、映画タイトルは『龍城歲月』と改題。樂少が大Dを殺害するまでは同じだが、待ち伏せしていた警察に一部始終を目撃され、その場で警察に逮捕される。そして殺人罪で起訴されるという展開に。このように本土の映画では「公安(警察)は犯罪を決して見逃すことはない!」という筋でなければならない。シンガポール、マレーシアも本土と同様の基準で、検閲がうるさいので、本土版が公開されている。
本作は、任達華と梁家輝のダブルの主演だったわけで、実際、金像獎では二人で「主演男優賞」を争ったのだけど、梁家輝に軍配が上がった。役どころで有利だったかもしれないが、あの大Dは任達華ではピンとこないわけで、そのへんの配役の妙もまた、杜琪峯作品の見どころの一つだ。
《受賞》
■第58回カンヌ国際映画祭
パルム・ドールにノミネート
■第25屆香港電影金像獎
・最優秀作品賞:『黑社會』
・最優秀監督賞:杜琪峯(ジョニー・トー)
・最優秀脚本賞:游乃海(ヤン・カイホイ)、葉天成(イップ・ティンシン)
・最優秀主演男優賞:梁家輝(レオン・カーファイ)
他6部門でノミネート
■第12屆香港電影評論學會大獎
・最優秀作品賞:『黑社會』
・最優秀監督賞:杜琪峯
他2部門でノミネート
■第42屆金馬獎
・最優秀オリジナル脚本賞:游乃海、葉天成
・最優秀音響効果賞:莫美華(メイ・モク)、羅柏禹(チャーリー・ロー)
他9部門でノミネート
《黑社會》Election 香港版預告
(令和6年2月18日 塚口サンサン劇場)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。