<領銜主演、すなわちこの映画の「大看板」に名を連ねる張家輝(ニック・チョン)。確かにそれにふさわしい活躍ぶりだったが、並びが任賢齊(リッチー・レン)、陳慧琳(ケリー・チャン)に次ぐ三番手なのは、ちょいと気の毒…>
「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」も、あっという間に近場のシネマート心斎橋での上映が終わってしまい、途方に暮れていたら、ご親切なる塚口サンサン劇場が上映を開始してくれたんで、ホイホイとお隣の県は尼崎くんだりまで出かけてきた。ちょっとくたびれますね、この歳になると(笑)。そしてそして、少し遅れて京都の出町座でも始まるので「日程が合わず、見逃してしまった!」などという言い訳はできませんね(笑)。この日観た『大事件(邦:ブレイキング・ニュース)』は、杜琪峯(ジョニー・トー)作品の常連さんに交じって、陳慧琳(ケリー・チャン)が出演。さてさて、どうなりますことやら…。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
大事件 邦題:ブレイキング・ニュース
港題『大事件』 英題『Breaking News』
邦題『ブレイキング・ニュース』
公開年 2004年 製作地 香港・中国
言語:広東語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):杜琪峯(ジョニー・トー)
監制(製作):杜琪峯、曹彪(ツァオ・ピャオ)
動作指導(アクション指導):元彬(ユン・プン)
編劇(脚本):陳慶嘉(チャン・ヒンカイ)、葉天成(イップ・ティンシン)、銀河創作組(ミルキーウェイ創作部)
配樂(音楽):鍾志榮(チュン・チーウィン)、張兆鴻(ベン・チョン)
攝影(撮影監督):鄭兆強(チャン・シウキョン)
剪接(編集):David Richardson
領銜主演(主演):任賢齊(リッチー・レン)、陳慧琳(ケリー・チャン)、張家輝(ニック・チョン)
主演(出演):張兆輝(エディ・チョン)、許紹雄(ホイ・シウホン)、林雪(ラム・シュー)、尤勇(ユウ・ヨン)、丁海峰(ティン・ハイフォン)、李海濤(リー・ハイタオ)
特別演出(特別出演):任達華(サイモン・ヤム)、邵美琪(マギー・シュウ)
《作品概要》
香港の市街地で、警察と銀行強盗団による銃撃戦が発生。激しい攻防戦が続くなか、犯人に銃を向けられた、ひとりの警察官が両手を挙げて命乞いをしてしまう。偶然にも、その瞬間を現場に居合わせたTVカメラマンが捉えていた。さらにCID(重犯罪特捜班)のチョン警部補は、ユアン率いる犯人グループを取り逃がしてしまう……。<引用「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」公式サイト>
陳慧琳(ケリー・チャン)の結婚が2008年だったから、この映画が公開された頃が歌手としても女優としても絶頂期だったと思われる。香港はもちろん、日本でもドラマや映画出演もあったらしいし、日本語でCDも出してるらしい。「らしい。らしい」と言うのは、この時期の小生は香港で楽しい日々を送っていたから、日本の芸能事情は今一つわからんのだよ(笑)。とにかく、港日を股にかけての大活躍だった陳慧琳が、「チーム杜琪峯」とも言うべき俳優陣に混ざって、どんな化学反応を起こすのか、そこも注目しながら観た。
この作品、「香港ノワール」と言うよりも、いかにも香港らしい「娯楽作品」って感じ。なので小生の★マークも自然と多くなる(笑)。結構、楽しませてくれた。そして「ノワール」色は薄かったけど、しっかり「漢の絆」が描かれていたのも、「看板に偽りなし」ってところでよかった。
*ご注意!この先、大いにネタバレあり!*
「ネタバレ御免!」と宣言したところで、この作品はずいぶん前に公開されたもので、多くの人は「久しぶりに観た!」ってところだろうから、わざわざ断る必要もないんやけどね(笑)。ま、そこは「気は心」というやつです。
張家輝(ニック・チョン)演じるチョン警部補(原語では「恆=ハン」って言ってた)が率いる重案組(重犯罪特捜班)一行は、任賢齊(リッチー・レン)演じる元(ユエン)をリーダーとする大陸窃盗団を一網打尽にすべく、アジトのビル付近で張り込んでいたのだが、一味の一人に巡回中の警官が職質したことをきっかけに、真昼間の市街地で警察vs窃盗団の大銃撃戦が始まる。冒頭からワンシーン、ワンカットの迫力満点の大銃撃戦である。のっけからやってくれるから香港映画、大好き! この間にすでに何百発の銃弾がぶっ放されたことか(笑)。これだけで結構おなか一杯になるんだが、いやいや、始まったばっかりやで。
この窃盗団、なかなか強敵で、対峙した警官が「降参!」とばかりに両手を挙げて命乞いしているのが、取材中のテレビが全港に流して市民は「なんやねん!警察!ディ~ウ!」ってことで騒ぎに。「ディ~ウ」(笑)、まあ広東語わかる人だけ笑ってww。まあねえ、降参する警官の気持ちもわからんではない。撃ち殺されたらそれで最後。俺でも「堪忍してください!」って言うたと思うわ(笑)。でも、それじゃあかんのですな、警官は…。
大陸窃盗団の首領を任賢齊。これは良いですな。普通話は問題なし。役のためにそうしたのかどうかは知らんけど、ボサボサのヘアがいかにも、って感じなのもよろしい。ちょっと細く感じたのも、これも役作りで減量したのかな、これまた知らんけど(笑)。
市民の信頼を取り戻すべく、我らが香港警察の打った手は「犯人逮捕までをライブ中継する」というもの。発案者は陳慧琳が演じるレベッカ警司。「それ、おもろいやん!」と賛同したのは、レベッカの父親と因縁浅からず…、という雰囲気がある警務處副處長の黃Sir(演:任達華/サイモン・ヤム)。しかし、この浅からぬ因縁っていう設定は、果たして必要だったのかなぁ…。などと思ってしまうほど中途半端ではあったな。
しかし、任達華という役者は、今更ながら関心するけど、何をやってもピシッと決まるね。黒社会の大御所から市井に生きる無名の市民まで、何でも来いやね。最近、特に任達華を観る機会が多いから、余計にそう思う。今回は警察のナンバー2役で、まあなんとも制服の似合うことよ!
さて、この逮捕劇(まさに劇!)を警察がライブ中継し、それを各メディアが放送するという手法、いかにも「SNS前夜」という感じがする。Twitterの出現が2006年、Facebookはこの映画公開年の2004年、YouTubeが2005年、Instagramは2010年と、今や誰もが何がしかのSNSアカウントを持っているという時代から見れば、隔世の感ありありだ。携帯電話自体が「ガラケー」が普通だった時代。世の中はまだまだ「テレビの時代」だったのだ。野球や相撲の中継をスマホで観ることも多い小生だが、ようやくmixiのアカウントを持って喜んでいた時代。そんな時代にあって、画期的な手法だなと思う。小生なんて仕事そっちのけで茶餐廳に入り浸ってテレビ観てただろうな。まあ、実にかわいらしい香港市民ですよ(笑)。杜琪峯、よく考えついたな…。
逃走した窃盗団一味が身を隠したのが、佐敦(Jordan)のあの塊のようなアパート群。あそこも昔は「海辺」だったのに、今はそんな面影すらないね…。犯罪者一派が隠れるにはもってこい、そして映画的にも「画になる」場所。元らはビル内に手榴弾などでトラップを仕掛けて、恆たち重案組の到来を待つ。逮捕劇中継の警察と真っ向対決の姿勢を見せる。警察はPTU(いわゆる藍帽子=ブルーベレー)を投入して、住民の避難を誘導するのだが…。
このビルの8楼E室に住まう葉さん(演:林雪/ラム・シュー)一家に窃盗団が身を隠す。図らずも人質となった葉さん自体はオロオロするばかりの小市民だが、お子さんたち、とくにお兄ちゃんが勇ましい。「おい!ネットをつなげ!」と指図されても、「悪者の手伝いは嫌だ!」と言い切る。レベッカと交信する元、ちょっとレベッカに惚れたのかな…。
実はビル内には、大陸スナイパー二人組も身を隠していた。この二人がこれまた警察と派手な撃ち合いを始める。スナイパーのリーダー格、張春を尤勇(ユウ・ヨン)。大陸俳優だが、香港映画でもちょいちょい見かける顔。非常に渋い役者である。『赤壁(邦:レッドクリフ)』での劉備役が印象深い。悪人同士、意気投合とまではいかないものの、乗りかかった船って感じで、こちらも葉さんのフラットに。葉一家もたまったもんじゃない。「あー、もうどうしよ~~」って泣きたくなるような葉さんを林雪が好演。いつも胡散臭い役が多いけど、こういう役どころもちゃんとやりますよ(笑)。窓から宙吊りにされたりと大変だったけどね。一方の元と張春は二人で楽しく料理なんぞやって、みんなにふるまう。対抗して警察は、現場の警官隊やメディアに超高級な弁当を配る。ドキドキ感の連続の中、ちょっと和むシーン。
ビルの中での撃ち合いや爆発で、ようやく張家輝と部下の海(ホイ=演:許紹雄/ホイ・シウホン)が前に出てくる。ここまは、どうしても任賢齊と陳慧琳の映画って感じがぬぐえなかったが、「張家輝だって”領銜主演”なんだからもっと扱い大きくしろ!」なんて思ってたから一安心(笑)。別にファンでも何でもないんだが、この時代、どうしても任賢齊と陳慧琳が揃うとねぇ…。許紹雄は今回も定年を控えた刑事役。おまけに腹を下しやすいという、トホホなおっさんだが、ここの銃撃戦では骨のある一面も見せていた。
ライブ中継と言っても、一部始終を流しているわけでなく、警察が勇敢に窃盗団と向き合っているという「印象操作」を編集して流しているわけで、銃撃戦や爆破で警察が撤退を余儀なくされているという事実はカットされている。この操作を警察公共關係科總督察、簡単に言えば警察広報部長のグレース(演:邵美琪/マギー・シュウ)が行っていたのだが、窃盗団は葉さんの家のPCを使って、警察のネットワークに侵入し、この「印象操作」を覆す…。窃盗団リーダーの元、料理は上手いしネットの方もイケるし、強盗はするわ銃のテクもいいし…。ダークヒーローなんだが、ちょっとアピールが弱いんよな、任賢齊では…。小生は張家輝と逆でもよかったんじゃないかとも思うが、あくまで「個人の感想」です(笑)。
ラスト間近。ついに元とレベッカは遭遇するの。この場面、元がレベッカを難なく射殺できたはずなのに、元は空に向かって一発放ち、追ってきた恆に逆に射殺され、一連の警察による「ドラマ」は終焉する。後日、ドラマのヒーローとして称賛される恆だが、小生にはどうにも浮かない表情に見えた。やっぱり重案組の手で窃盗団をお縄にしたかったのかな、と思うと、レベッカにかき回されてしまった感は否めない…。
さて<漢の絆>だが、やはり窃盗団とスナイパー二人組。とりわけリーダーの元と張春の絆だろう。最後に、お互いがお互いの目的を果たそうとするが…。その結末は…。やっぱ、この「やるせなさ」とか「切なさ」というのが、この度の企画上映のキモやね。
何分、20年前の映画なんで、いくらデジタルリマスターとは言え、ザラツキ感があるのは致し方なし。それでも杜琪峯らしく全体の色調は青っぽく仕上がっている。そもそも、張兆輝のシャツが青いのよ(笑)。また、先週観た『放・逐』でも指摘したけど、「人間の並べ方」「人間の配置」が絶妙。今作は特に一発撮りの銃撃シーンや狭いビルの通路での爆破など、煙や炎の立つシーンが多かったが、配置に抜かりはなかったように思う。その辺は役者も心得ているのだろう。
陳慧琳も「拒絶反応」を起こすことなく、チーム杜琪峯によく馴染んでいたように見える。ま、小生が心配するようなことはないよな(笑)。
印象深いのは何と言っても、張家輝の熱血刑事ぶりだろう。元々は警察官で警察学校創業時には重案組志望だったから、映画とは言え「念願叶った」というところ。警察辞職後は1990年にATVと契約。その後はTVBに。「ちょいちょい見かける顔」程度だったが、2004年、TVBとの契約を終了して映画に本腰を入れたのは正解だろう。銀河影像との出会いも大きい。それがちょうどこの頃のこと。ここから彼は本格的に俳優として大きく花開くわけで、上り調子に差し掛かろうとする張家輝の勢いを感じ取ることができる作品でもあった。
まあ、そんなことで、今回も画像点数で誤魔化す、内容の薄っぺらなレビューでした(笑)。
《受賞》
■第11屆香港電影評論學會大獎
・推薦電影:『大事件』
■第10屆香港電影金紫荊獎
・十大華語片:『大事件』
■第24屆香港電影金像獎
4部門でノミネート
■第41屆金馬獎
・最優秀監督賞:杜琪峯
・最優秀編集賞:David Richardson
他4部門でノミネート
■第34回シッチェス・カタロニア国際映画祭
・最優秀監督賞:杜琪峯
■第7屆長春電影節
1部門でノミネート
大事件 – Movie Trailer
(令和6年建国記念の日 塚口サンサン劇場)
<漢の絆>もいいけれど、コミカルな作品も多いのが杜琪峯のいいところ!
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。