<題名にもなっている「夜明駅」。右側が日田彦山線だったが、すでに線路は撤去されているのが寂しい(photo AC)>
先日読んだ『ふるさと銀河線 軌道春秋』の第二弾。今作も、前作同様に鉄道を絡めた短編集となっている。
タイトルになっている「駅の名は夜明」だが、「夜明駅」は実在する駅名。鉄オタなら、誰もが知る駅だろう。ただし、小生は鉄オタではないが知っていた(笑)。このロマンティックな名前の駅は九州にあり、日田彦山線(全線単線・非電化)と久大本線(全線単線・非電化)がクロスする駅として知られていたが、「平成29年7月 九州北部豪雨」により、日田彦山線、久大本線は甚大な被害を受け、添田~夜明、夜明~日田の鉄道線としての復旧は叶わず、代替として今夏より、添田~夜明・日田(久大本線)がBRT(バス高速輸送システム)による「ひこぼしライン」として復旧することが決定した。
日田彦山線BRT ひこぼしラインでは、彦山駅~宝珠山駅間の線路敷地を「専用道」に整備すると共に、添田駅~彦山駅及び宝珠山駅~日田駅間については、地域住民の生活圏に近い「一般道」を走行する。なお、久大本線は全線で復旧している。
『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』 髙田郁
双葉文庫 ¥792
『軌道春秋』シリーズの第二弾。基本的には短編2編がワンセットの連作の形になっている。
釧路本線北浜駅のことかと思うが、この駅を巡る二編のうち『子どもの世界 大人の事情』が印象深い。物語の最初に描写されているビートルズの名曲の一つ、『From Me To You』で始まる毎日放送の朝のラジオ番組「おはよう川村龍一です」は、大阪で奉公していた若き日の、小生の目覚まし時計代わりだったから。洋楽畑のDJとして活躍していた川村龍一が、朝6時半スタートの番組のDJを務めるので、結構驚いたものだ。OP曲はさすが川村龍一という選曲だった。同番組に本書にあるような、リスナーが希望する旅行をプレゼントするようの企画があったかどうか、記憶は定かでないが、とにかくラジオには色んなリスナーから、色んな手紙が寄せられる。番組で取り上げられた手紙には、文章では伝わり切らない背景、それぞれの人生や物語があるということを、『子どもの世界 大人の事情』を読み、改めて感じた。
表題作『駅の名は夜明』は辛かったなぁ…。とにかく辛かった。役所って、杓子定規なところあるよな…。それで傷つく人も多いだろうな。奧さんの介護に疲れた俊三さん、介護保険制度が始まったのはいいが、介護を受けるには自己負担金も払わねばならないことを知って、絶望。奧さんとともに死に場所を探す旅に出て、行きついたのが「夜明駅」。締めで「この夫婦は生きる道を選ぶはずだ」と少し期待していた。
次の話『夜明の鐘』で、老夫婦は死を選ばなかったことがわかり、ほっとしたけど、その後はどんな生活を送ったんだろうと、気になる。そらそうよ、こんなこといつ何時、自分の身に起きるかわからんよ…。
全体的に、きっつい境遇を生きる人たち、辛い思いを抱えた人たちの話が多かったけど、それこそ「夜明け」を感じさせる終わり方をしているので、暗澹たる気持ちにはならないが、その後も気になる…。「この後、どないしはるんやろ」って感じでねえ。
最後の話『背中を押すひと』は、なんか自分と父親の関係に似ていて、「うちのおっさんも、もう少し物わかりがよければねぇ」などと、苦笑しつつ読む(笑)。でもまあ、父親と長男の関係って、こんなものよね、大体は…。
いつか夜明駅で、夜明けを迎えたい。北浜駅で流氷の海を見たい。北浜駅が舞台の『途中下車』、「目的地に行くために必要な途中下車もあるさ。疲れたら、降りていいんだよ」「次の列車は、必ず来るからね」に勇気づけられる。そう、生きている限り、次の電車に乗って、また歩み出せばいい。
(令和5年4月10日読了)
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。