「大阪アジアン映画祭」、ラストデーに観る3本は、いずれも香港映画。結局、小生の行きつくところは、ここだな(笑)。そんな日の二本目の作品は、久々に鄭伊健(イーキン・チェン)主演作。多分、この映画祭では『全力扣殺』以来かな。やはり今作も、「運動喜劇片(スポーツ・コメディ)」。なんか、こういう役柄がすっかり定着したのかな…。ま、それなりにいいお年ですしな(笑)。小難しいことは考えず、スクリーンの前でヘラヘラ笑ってるのが好きなんで、きっと好みに合う作品だろう。さてさて、どうだったか…。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
特集企画《Special Focus on Hong Kong 2023》
深宵閃避球 邦題:深夜のドッジボール <日本プレミア上映>
港題『深宵閃避球』 英題『Life Must Go On』
邦題『深夜のドッジボール』
公開年 2022年 製作地 香港 言語:広東語
評価:★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):應智贇(イン・チーワン)
編劇(脚本):應智贇、黃智揚(イエロー・ウォン・チーヨン)、吳振忠(ン・チョンチュン)、李栢翹(リー・パクキウ)
監製(プロデューサー):楊倩玲(ヨン・シンリン)、羅志良(ロー・チーリョン)、邵劍秋(ジェイソン・シウ)
配樂(音楽):戴偉(ダイ・タイ)、糖兄_峯(プーン・ワンフン)
摄影指導(撮影監督):周啟邦(チョウ・チーファイ)
領銜主演(主演):鄭伊健(イーキン・チェン)、周家怡(キャサリン・チョウ)、李靖筠(グラディス・リー)
友情客串(友情ゲスト出演):錢嘉樂(チン・ガーロッ)、彭秀慧(キーレン・パン)、朱柏謙(チュ・パクヒン)、鄭欣宜(ジョイス・チェン)、許廷鏗(アルフレッド・ホイ)、陳家樂(カルロス・チャン)、蔡穎恩(イブリン・チョイ)
主演(出演):陳海寧(イザベラ・チャン)、鍾雪瑩(チョン・シュッイン)、雲浩影(クラウド・ワン)、黃淑蔓(フィアンナ・ウォン)、李玗蓁(リー・ユンチュン)、王頤(ウォン・イ)、宋嘉儀(サニー・ソン)
特別演出(特別出演):少爺占(ジム・ヤン)、邱頌偉(ヤウ・チュンワイ)、區嘉雯(パトラ・アウ)、何華超(トニー・ホー)
出演者がやけに多い(笑)。そら、ドッジボールチーム一つが「主役」だからそうなるわな。
しかしこの映画は面白かったね。「ああ、香港映画観てる!」って気分に浸ることができた。なんか最近は、小難しいテーマの作品が多い香港映画。こういう「娯楽の王道」みたいなのに出会うと、テンションは上がっりっぱなしである。そこは天下の英皇電影。ツボを心得ている。鄭伊健(イーキン・チェン)、周家怡(キャサリン・チョウ)が特に役にピタッとハマっているのもいい。ゲストや特別出演のメンバーも、よいメンツが揃っていて、さすが英皇だな~と思う。作風としては、往年のスポ根アニメ『アタックNo.1」、スポ根ドラマ『サインはV』に、一風変わった野球アニメ『アパッチ野球軍』を足して、英皇が香港娯楽作品的に料理した、って感じを受けたが、いかがでしょう。監督、若かったから、どれも知らんよな、小生はリアルタイム世代やけど(笑)。
《作品概要》
ソーシャル・ワーカーのヨン(キャサリン・チョウ)は支援を必要とする若者のために公立体育館の深夜使用枠を立ち上げたが、担当を外される危機に直面する。焦ったヨンは、毎晩集まってくる少女たちでチームを結成しドッジボール大会に出場して成果を出すことで深夜枠の必要性を世にアピールできると口走ってしまう。ひょんな誤解からラウ(イーキン・チェン)にコーチを頼む。ラウは独特のコーチングで少女たちを成長させていく。<引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ>
昨今の香港映画に欠かせない「ソーシャルワーカー(社会福祉士)」。日々の暮らしに、様々な問題を抱えている人たちを支援するのが役目。今回の香港作品でも『白日青春』、『流水落花』にソーシャルワーカーが登場する。それだけ助けが必要な人が増えたということだろう。香港では「社会工作者」を略して「社工」と呼ぶ。本作で周家怡が演じた社工は、「家に帰れない」少女たちの面倒を見ている楊(ヨン)。不良ぶってる少女たちだが、皆それぞれに家庭に問題あり。家庭内暴力に怯える子、ヤングケアラー、家族の借金苦…。問題は様々だが、今や万国共通と言える問題ばかり。何だかんんだ言いながら、深夜の体育館に集まることが、唯一の心のよりどころなのだろう。こうした一人一人の背景は、試合の場面で挟み込まれてゆくので、「そんな境遇なのか…」と、彼女たちに自然と肩入れしたくなる。ベタで極めてオーソドックスな手法だと思うけど、娯楽作品であるからこそ、こうであってほしいというしゅほうでもある。新人監督でありながらも、なかなか分かってるね、應智贇(イン・チーワン)監督は。
まあでもやっぱり、イーキンに尽きるな。いつまでもお若くて羨ましい(笑)。今年で56歳なのに(笑)。ひょんなことから、「粉青隊」と名付けられたドッジボールチームのコーチ役を引き受けてしまったイーキン演じる劉(ラウ)は、初っ端から少女たちに呆れられたり、ちょっと小馬鹿にされたりと、舐められている。どうもこういう役をやらせると、右に出るものはいないね。若いころはロン毛と白いタンクトップがトレードマークだったけど(笑)。最初はバリっとスーツで決めて登場したり、かと思えば、ドッジボールとは全くかけ離れた格好で現れたり…。要するに、彼自身もあまりドッジボールを知らないのであるから、先が思いやられる(笑)。
弟夫婦の家に居候する。と言うか、食わせてもらっている(笑)。弟(演:許廷鏗/アルフレッド・ホイ)とその嫁(演:鄭欣宜/ジョイス・チェン)は、追い出したくて仕方ないのだが、全く意に介さないノー天気さが、いい。この夫婦もなかなかいいコンビだった。
しかし、ノー天気さにはわけがあって、実は劉自身が、勝てないと思ったら、逃げてしまう人生を送ってきたのである。だから、高校時代の陸上部の仲間で、今はどこぞのドッジボールチームのコーチをやってる 葉東凱(演:錢嘉樂/チン・ガーロッ)には、劉志聰という名前をモジって「瀨屎聰(小便タレ)」と呼ばれている。この二人の関係、ちょっと『古惑仔』入ってるかな?って感じ。イーキンのいるところに、嘉樂仔あり!ってな感じ。ちなみに、即席チームの「粉青隊」は葉東凱率いるチームにコテンパンにやられてしまうわけで、その負けっぷりは気の毒なほどで…。
さらには、審判を味方につける悪徳監督率いるチームには、完膚なきまでに叩きのめされる。思わず「負けるな~!」と応援してやりたくなるという、優しい小生であった(笑)。
劉も思うところあって、チームを離れてメキシコ料理店?でバイト生活の日々を送る。この店って、跑馬地(Happy Valley)の電車道沿い、競馬場の横のとこになかった?なんか見覚えがある…。店長役の少爺占(ジム・ヤン)が、非常にクセのある演技で笑わせてくれた。こういう役どころは、お手のもんだろうけど。
大阪での世界大会招待の切符を目指し、猛特訓を重ねる「粉青隊」の面々。最初はチーム内での不協和音や、なにより彼女たちのやる気のなさで、バラバラだったが、惨めな負けを重ねるうちに、連帯感が生まれてくる。この辺は、典型的なスポ根。さらに大阪へ行ける!という「目標」が明確になり、きつい練習にも頑張りぬく集団へと変貌してゆく。そのあたりは、♪苦しくったって~、悲しくたって~、コートの中では平気なの って世界観で展開してゆく。出演の女の子たち、事前の猛特訓も実際にあって、正味できつかったらしいが、女子ばかりで集まって、学生時代の気分を久しぶりに味わえて楽しかったと、上映後のQ&Aで来阪した陳海寧(イザベラ・チャン)が語っていた。
そしていよいよ、大阪行きをかけた試合に臨む「粉青隊」。さて、その結果は…。これ、もし「粉青隊」が大阪行きを見事に勝ち取っていたら、このステージにメンバー全員がずらっと並んでいたのかな? いや、そこまで予算はないだろう(笑)。
ということで、結果はお察しの通りだが、應監督曰く「ドッジボールは、香港の現況に合ってるなぁと思った」と。だから題材にしたのだそうで、そのココロは、「困難に直面している若者たちが、ボールを受けて投げ返してもいいし、避けて逃げるのも勝利へ向かう行動の一つだということを表現したかった」と。「困難と向き合い方」とか「困難に直面して逃げるという方法もありだ」というメッセージを伝えたかったということだろう。
随所に「日本風味」も散りばめた典型的な香港の娯楽作品だったけど、それにプラスして香港人へのエールのようなものも感じた良作だった。なかなかの新人監督が登場したものである。
ゲスト出演や特別出演の顔ぶれが豪華で、本映画祭で過去に上映された『29+1』『阿媽有咗第二個』の監督、彭秀慧(キーレン・パン)はじめ、鄭欣宜(ジョイス・チェン)、許廷鏗(アルフレッド・ホイ)、陳家樂(カルロス・チャン)、何華超(トニー・ホー)など、おなじみの顔ぶれが並ぶ。また、主役格の一人、李靖筠(グラディス・リー)が演じた紀文(ケイマン)は、元々集まっていたメンバーに「中途参加」してきた新顔で、最初はぶつかってばかりで孤立していたが、ドッジボールが始まってからは次第に溶け込んでゆく。李靖筠はオーストラリア国籍の香港人タレントで、映画出演は2019年の『大師兄』が最初。歌手活動に軸足を置きながらも、テレビドラマや映画にも出演して、芸域を広げているこれからの子。
しかし…。ドッジボールを「閃避球」とは!中国語、恐るべし!
《深宵閃避球》正式預告
(令和5年3月19日 ABCホール)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。