【上方芸能な日々 文楽】第2回『人形浄瑠璃 文楽夢想 継承伝』

<こちらの見台は今公演とは関係ありません(笑)。悪しからず>


人形浄瑠璃文楽
第2回『人形浄瑠璃 文楽夢想 継承伝』

昨年、とてもいい舞台を見せてくれた「文楽夢想 継承伝」が今年も開催された。すでに正月公演時に昨年同様のクラウドファンディングを募るフライヤーが用意されていて「えらい、気ぃ早いな」と思っていたが、あっという間にその日を迎えた。昨年は、発起人たる玉翔がシンをとって準備が進められたが、今年はその任は若手の勘昇に移譲された。玉翔がSNSでやたらと勘昇を推しまくっているのは、そのためもあったからかな(笑)。ちなみにクラウドファンディングには最終的に2,108,000円が寄せられた。

その趣旨は、

通常の本公演では組まれない師匠【ベテラン】と弟子【若手】の組み合わせという、自主公演だからこそできる驚きの配役。稽古だけでは学べない芸をこれからも継承していくため、師匠先輩方の胸を借りて舞台に挑みます!<引用:公演公式サイト

というもの。去年強く感じたのは「継承」というのは「ああ、こうして伝えられていくねんな」ということ。師から弟子へ、父から子へ…。その一端を実際の舞台公演の形で見せてもらえて、胸が熱くなった。さて、今年は誰がどんな舞台で感動させてくれるかな?

昨年はポスターやフライヤーを張り付けまくったような「立て看板」だったが、今年はなんと「招き看板」に昇格!

クラウドファンディング開始とともに「良席確保」ということでチケットぴあの先行販売がったので、飛びついた(笑)。まあ、良席ですわな。これくらい前やと人形がよう見える。ただ、結構下手寄りだったため、床が遠くて浄瑠璃をたっぷり堪能する、ということはできなかった。やっぱり慣れたエリアでないと、楽しめないね…。来年はちょっと考えよう。

こちらの当日パンフ、極めて簡素なものだが、「人形小割」が記されているのがとてもよい。それにより、口上は誰、ツケ打ちは誰、左は誰、足は誰なんぞが一目瞭然。

二人三番叟
人形、主遣い・左遣い・足遣い、全出遣いにて相勤め申し候

<床>
亘 薫 靖
清允 清方 清志郎

<人形>
三番叟(又平) 蓑悠
三番叟(検非違使) 勘昇

床は亘と薫が三番叟を掛け合いし、靖がツレに回る。普段はシンを勤める清志郎がツレに回って清允と清方が引っ張る。こういうのは見ている側以上にやる方はドキドキしているんだろうな。同時に、こういう機会を与えてもらっていることに感激していることだろう。そんなことを感じさせる溌溂とした床。

人形も簑悠、勘昇という若い二人。簑悠の左を父・一輔、勘昇の左を師の勘十郎。親子、師弟の絆を感じて胸が熱くなる。芸は、こうして継承されてゆくのだ。三番叟を遣うことはあっても、父や師が左に回ってくれるなど、普段はあり得ない。二人とも緊張していただろうけど、これほど安心感のある左遣いもいない。「四者四様」の表情も、オールメンバー出遣いならではの見どころであった。

ちなみに、この後、幕間のあいさつに玉男師と登場した勘十郎師は「ホンマは左は声出したらあきませんねんけど、さっきは思わず『ウッ』とか声出してしまいました(笑)」と。優しいお師匠はんやね(笑)。一方の玉男さんは、次の「裏門」では伴内を遣うが、こんなにキャリアの長い人なのに、なんと初役だとか。なお、昼の部では勘十郎さんが伴内。こちらはなんだか想像がつく…(笑)。

仮名手本忠臣蔵 「裏門の段」

<床>
呂勢 清公

<人形>
早野勘平 勘介
腰元お軽 蓑之
鷺坂伴内 玉男
 一輔、玉佳、玉峻、玉延

呂勢の「裏門」って聴いたことあったかな…。まあそれくらい、普段ならピンとこない場だが、ここは清公に胸を貸すという意味で、次の切語り最有力候補の呂勢の「裏門」。清公は思いきりぶつかっていけたろうか。

人形は勘平を勘介、お軽を蓑之。この二人がこの役を本公演で遣うのは、まだまだ先のことだろうけど、これはいい経験になっただろう。経験という意味では、初役となる伴内を遣った玉男さんも、これまたいい経験(笑)。これはいわゆる「目福」という類でありましょう。これこそ、今後は見ることができない配役。この場におれてよかったと感じることしきり。

若手座談会
『俺の話を聞いてください…』

薫、蓑之、勘昇 司会:亀岡典子(産経新聞)

昨年は「俺の話を聞け!!」と、えらい強気に出てたのに、今年は「聞いてください…」と弱気ですな(笑)。どないしたん? 前述のとおり、今年は勘昇がこの公演のシンをとる。その気苦労など。残念なことに玉翔が病気休演とあって、勘昇の働きぶりを間近に見ることが叶わなかったのはなんとも気の毒…。3人の中で、一番キャリアの浅い薫太夫。国立劇場の研修を終了し、入門した先は呂太夫。「(課題の稽古が)できるまで、向き合っていただいた」のがとてもありがたく思い、「この人のもとでやりたい」と、入門を志願した。と、文字で書けばこれだけの話だが、本人の言葉で聞かされると、ウルウルしてしまう。

傾城恋飛脚 「新口村の段」

口 薫 清志郎

切 呂 友之助

その薫から師の呂さんへリレーされる「新口村」。呂さんはこの際、置いておき(笑)、薫は初めての「ソロ」の浄瑠璃を、手練手管の清志郎の好リードを得て、見事に語り切る。あんなエエ話、ついさっき聞いたばかっりやったから、場面自体は大した場面ではないのに、またもやウルウルしてしまう。あきませんなあ、年取ると(笑)。

人形は忠兵衛を玉路、梅川を勘次郎。この配役も妙があって、八右衛門を昼の部が玉男、夜の部を勘十郎が遣う。この梅川―忠兵衛―八右衛門という人間関係を師弟で遣うという、かなり胸アツの舞台。雪の中を逃避行続ける忠兵衛らを見送る孫右衛門(玉佳*昼の部は紋臣)に、グッとくる。そこはやはり「切語り」の呂さんが締めてこその段切り。

ということで、昨年同様に師弟、父子で織りなす「継承」を見せてもらえて満足の『文楽夢想』だった。返す返すも玉翔の病気休演は、彼の気持ちを思うと、なんともなぁ…というところだ。

「大当たり!」と言いたいところだが、一つだけ欲を言えば、「床本」が欲しいところ。あくまでも「文楽を聴きに行く」奴なんで、そこはお願いします、来年は!

(令和4年8月6日 日本橋国立文楽劇場)


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「冥途の飛脚」は近松門左衛門の代表作の一つ。クライマックスの「封印切」は伝承の全く異なる綱大夫と越路大夫(特典)の二種類を収録。また「道行」は原作の詞章によるものと、野澤松之輔作曲の改作バージョンの双方を収める。特典映像として、名人・二代野澤喜左衛門の「新口村」の映像も収録。

↑↑これは貴重!封印切、道行を2バージョン収録。「新口村」の切羽詰まったような逃避行ではなく、のどかささえ感じる「道行相合かご」も見どころ聴きどころ。こういう映像は手元に置いておきたい。


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