<いつぞやの『小鍛冶』同様、今回の『紅葉狩』も『刀剣乱舞』とのコラボ。今回は国立劇場の歌舞伎も一丁噛んでいるが、両方観る奇特かつお金に余裕のある人は、まずいないと思う(笑)>
夏休み公演の第3部は「サマーレイトショー」。いつも記しているが、「レイトショー」と言っても、17時30分開演だから、労働者にはほぼ無理な時間。なので、これも前に記したけど、せめて平日は19時開演にして、土・日は17時30分でええんやないですか?ってことだ。要するに、全然「レイト」になってへんがな!ってことですわ、ほんまに。しかし、1部、2部、3部と時間が進むにつれて、客席が寂しくなってゆくのはどうよ…。
人形浄瑠璃文楽
令和4年夏休み文楽特別公演《第3部 サマーレイトショー》
まずは「志渡寺」から。平成28年(2016)の秋公演で観てますな。6年ぶりということからわかるように、頻繁にかかる演目ではない。つまりは「人気がない」と言うことか。あるいは難物ゆえに演目が人を選ぶ、と言うことか。
「志渡寺」と言えば、有吉佐和子の『一の糸』での三味線弾き名人の露沢徳兵衛。そして史実としては、「志渡寺」を弾きながら稲荷座の舞台の上で命途絶えた明治の三味線名人、豊澤團平。前回の感想を見たら、現・呂太夫の当時の英太夫に、厳しいことを書いているが、果たして今回はどうでしょうか…。
花上野誉碑
本来は全十段の長編だが、上演されるのはもっぱら四段目にあたる「志渡寺」だけ。確かに他の段は観たことも聴いたこともない。よっぽどオモロないんでしょうな(笑)。
「志度寺の段」
中 希 清友
前 藤 藤蔵
切 呂 清介
希は清友さんのリードもあって、まずまず。以前はかなり気になっていた、浄瑠璃そのものの線の細さ(体型の細さに加え)は、このところほとんど感じなくなったし、むしろ骨太ささえ感じる。まあ、ここはそれが要求されるような場面ではないとは言え、細いよりはいい。人物の的確な語り分けが特によかった。
藤太夫はこの「志度寺」の太夫3人の中では最も聴かせてくれた。森口源太左衛門をよく表現していたと思う(後半、ちょいと物足らなさも感じたけど…)。この悪人ぶりと言うか、憎たらしい奴っぽさと言うか、そういう「憎まれ役」の性根をよく表現していた。坊太郎に向かって「業晒しめ」なんてほざきやがって、この野郎!と思わせるのが気持ちいいほどで。まあ言うても、田舎侍ですから(笑)。それに輪をかけて、藤蔵の三味線がよく鳴っていた。藤さん、だいぶ助けられたとんじゃなかろうか。時折見え隠れする「おや?」ってのを、藤蔵の三味線がかき消していたんではなかろうか、と。その「おや?」の正体、小生には分かりませぬ。偉い人のブログなり見てください(笑)。
さて、切。前回もここは呂太夫師。お辻が一心不乱に噴水の水でびしょ濡れになって金毘羅大権現に祈願する場面。ここが何と言っても「志度寺」のクライマックスであり名場面。やはり前回同様、その感動を得ることができるものではなかった。これはもしかしたら、いや、現実問題として、この人のニンやないんでしょうよ。そりゃまあ、ここに至るまでは「さすがに切の太夫やな」という運びだったけど、クライマックスが清介師の三味線のパッションだけで持っていたって感じで、呂さんからのパッション、すなわち肝心のお辻の情念がほとんど伝わらなかったのでは、話にならんではないかえ?実は、小生の知り合いも、同じことを思っていたらしく「前回もそうでしたが、今回も伝わるものがなかったですよね~」とおっしゃっていた。今度「志度寺」をいつやるのか知らんけど、千歳師で聴いてみたいと思うね。どうでしょう? 全段を通じて、寝てる人がかなり多かったし、肝心の場面でもなお、寝てる人が多かったのが、すべてを物語っているよな…。
人形はお辻の清十郎、森口源太左衛門の玉助(公演前半は玉志)、坊太郎の蓑太郎が良き。特に清十郎さんは初役とあって、前回お辻の和生さんとは違う「お辻像」というものを見せるのに苦心はしたと思うが、実直に遣っていたと思う。ご本人には、よいチャレンジだったのではないか。
大阪の文楽劇場の文楽公演と東京の国立劇場の歌舞伎公演で、『紅葉狩』を上演。これと『刀剣乱舞』がコラボ。ということで、劇場ロビーには、小烏丸仕様の文楽人形が展示されていた。ただ、「コラボ」はそれだけ。ってか、国立さん的には「これが精いっぱい」「ここまでやったぜ、国立も!」ってところ。とにかく中途半端。まあ、お役所仕事ではこれがいっぱいいっぱいってところやな。
ついでながら、って感じで『小鍛冶』の小狐丸の人形も展示されていた。この時は、割と刀剣女子の来場も多かったけど、今回はそれらしい人は見かけなったし、SNSでもその話題はほとんで見なかったなぁ…。4ページ仕様の、コラボ用特別パンフが配布されていた。まあ、初心者用としてはいいんじゃないでしょうか。コラボでなくても、こういうのは増やしていくべきだな。
紅葉狩
更科姫 呂勢
維茂 芳穂
山神 南都
腰元 聖
腰元 薫
錦糸 清馗 錦吾 琴 燕二郎、清允
というわけで、追い出しとして『紅葉狩』。まあ、呂勢、芳穂の二人は破格でしたがね。若い二人は経験を積む場と、大らかな気持ちで聴いていたが、もうちょっと何かできたんちゃうか、とも。
人形は、更科姫を今回、一輔が遣った。以前から言うように、彼は背筋が伸びていて、人形を遣う姿勢が美しい。更科姫の舞がとても美しいし、鬼女に変じての毛振りがこれまたお見事で、客席を大いに沸かせていた。左の簑紫郎、足の簑悠もよく稽古してきたのだと思う。
(令和4年7月31日 日本橋国立文楽劇場)
『人形浄瑠璃文楽名演集 生写朝顔話・花上野誉碑』 [DVD]
「花上野誉碑」は竹本津大夫・鶴澤寛治(6代)の伝説の名演で、後半のお辻(吉田栄三)の祈りが眼目。 [昭和47(1972)年4月朝日座で収録]
←これは名演です。これを聴くと、なおさら今公演の「志渡寺」が物足りなく感じるのです…
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。