【行政長官選挙】次期行政長官は李家超・前政務長官に

5月8日、香港特区政府第6期行政長官選挙の投開票が行われ、唯一の候補者である李家超(ジョン・リー)前政務長官が当選した。

当選を喜ぶ李超家次期行政長官。一人しか立候補してないんだから、楽勝だったろうに(笑)

投票は午前6時から始まり、午前11時30分に締め切られた。計1428人の選挙委員会委員が投票した。投票率は97.74%。開票作業は午前11時57分に開始され、正午20分に完了。約23分で1428票が開票され、選挙主任が正午28分に結果を発表した。

夫人と喜びを分かち合う李氏 by “香港01”

今回は候補者が李氏1人だったので、投票する選挙委員は支持または不支持の票を投じ、選挙委員の過半数にあたる750票超の支持票を獲得すれば当選。李氏が獲得した有効支持票は1416票だったことにより、次期行政長官に当選が決まった。不支持票は8票だったわけだが、だれが投じたのか気になるところ。まあでも、これだけ票を集めたら「文句あるか!」ってとこだろう。一般市民目線では、「たった1428人の投票で1416票で行政長官になれるんかよ!」ってところだが…。

開票作業はわずか23分で終了(笑) by “香港01”

選挙委員のうち33人は投票せず。この33票を抜きにして1428票で計算すると支持率は99.2%。特首選、空前絶後の高支持率とは言え、相変わらずの密室選挙だからなぁ…。当選した李家超氏は中央政府の任命を経て次期行政長官に就任する。

当選後の記者会見で李家超次期行政長官は、「就任後は住宅問題を優先的に処理し、適切なタイミングに基本法23条の立法作業を推進する」と表明。民主党や民協など民主派政党との和解推進については「政治体制改革は優先課題ではない。多くの方面で速やかに着手しなければならない仕事がある」と述べた。

前年の回帰記念日を前に、70歳となる張建宗(マシュー・チャン)政務長官の退官にあたり、当時、保安局局長だった李氏が後任となった。李次期行政長官は今年64歳。1977年に「見習督察」として警察に入職、2010年に副処長に就任、12年に問責高官として保安局副局長、前期政府で局長に就任した。任期中に逃亡犯条例の改正を主管したが、19年に改正反対の騒動に遭遇するも、激進民主派暴力破壊集団に対する強硬な取り締まりで辣腕を振るった。そのため、同年8月には米国の制裁を受けた11人に含まれた。2020年の国安法の施行も支持しており、今回の選挙活動中には、YouTubeに選挙運動動画をブロックされているなど、西側諸国からはすでに反感が高まっている。と言うことは、逆に中央政府の信認が非常に厚いということである。

歴史に「If」はつきものだが、もし2019年の騒動とCOVID-19の爆発的感染拡大が無ければ、たたき上げの公務員である林鄭月娥(キャリー・ラム)現・行政長官は、実務に優れた市民からの評価の高い行政長官として、再任されていたかもしれないと思う。何がどこでどうなるか…。この世はまったくわからない…。

さて、次期行政長官が「23条の立法化」と言った23条だが、これは2003年に50万人デモなどの激しい反発を受け、一旦お蔵入りとなっていた。国安法により、こうした反発を抑え込んだ今、再び俎上に上がったという次第。まるで墓場から死体がよみがえったかのような印象である。

夫人や建制派議員を中心とした支持者とともに当選の会見を行う李氏 by “香港01”

23条の立法化とは、「香港基本法」のうち、政権転覆や国家分裂を禁じた23条を具体化するための条例のことである。23条は《具体的な違反行為を香港特区政府が自ら制定しなくてはならない》と規定するが、まだ制定されていないため、当時の董建華行政長官が立法会での条例制定を目指す。

特区政府は02年9月、違反行為として

(1)中央政府転覆の意図をもって中国と交戦する外国の武装部隊に参加
(2)武力により中国の安定に危害を与える
(3)扇動的な文書を出版

などを発表するも、上述の通り市民の大反発に遭い立法化は叶わなかった。てっきり、半永久的に立法化はないものと思っていたが、着実に進む民主派排除の流れの中で、強硬派の李氏が行政長官就任にあたり、またまた表面化してきたという次第。まあ、立法化されても普通に生活している限り、どうってことないのは国安法と同様。

50万人が繰り出した2003年7月1日の23条立法化反対デモ

一方で、2019年の騒動のきっかけとなった「逃亡犯条例」については、4月10日の出馬表明直後に「改正しない」と明言した。出馬会見で、陳同佳事件(逃亡犯条例改正のきっかけとなった香港市民による台湾での殺人事件)の処理、逃亡犯条例の改正をあらためて推進するかどうかについて聞かれた李氏は「逃亡犯条例の改正はすでに結論が出ており、事件は終了した。再び持ち出して討論することはない」と述べている。これは2019年7月9日に林鄭行政長官が「逃亡犯条例の改正作業あるいは条例草案は已壽終正寢=すでに葬られた」と述べ、「今回の改正作業は完全に失敗した」と認めたためだが、23条が息を吹き返したように、これもどうなるかわからんね(笑)。

まあこんな感じで、7月1日からは返還後第6期の政権がスタートする。警察畑一筋の李次期長官だけに、民生、経済などの政策を不安視する声が早くも上がっているが、そこは内閣に相当する行政会議のメンバーをがっちり固めて香港のかじ取りにあたるんじゃないだろうか。ま、それしかないわな。で、当の行政長官は外国勢力と結託する民主派港獨派本土派などの反中乱港分子の一層の弱体化、そして一掃に注力するのかなと。だからこそ、中央政府はこの人に任せるわけでしょう。少なくとも、習近平政権が続く限り、香港への政策には変わりはないはずなので、中国が理想とする「一国両制度」は強固なものとなってゆくでしょうな。

小生的には、そんなことより、一刻も早くCOVID-19の世界的な終息宣言が出て、海外往来も規制がなくなってもらわないと困る。永久居民ID更新のリミットは来年2月である…。李さん、そこをなんとかしてもらえませんかね…(笑)。


香港 失政の軌跡: 市場原理妄信が招いた社会の歪み
(アジア発ビジョナリーシリーズ) 

レオ F・グッドスタット (著), 曽根 康雄 (監修, 翻訳)

香港民主化運動に関し日本での論調は、中国が強引に一国二制度の骨抜きを進めたことにあるという認識に基づいたものが多い。しかし民主化要求の背景に、植民地時代からの、財界の意向を汲んだ最小限の規制と所得再分配の結果、QOL(生活の質)が低下してしまった市民の強い不満があることはあまり語られていない……

結局「中国がーー!」ではなく、問題の本質は英領時代からの香港政府自身にあるということがわかる、ここ数年での香港本では一番の良書。次期政権がまず何をなすべきかも見えてくるはず。感情や情緒で香港を語っていては、本質は見えてきませんよ、ということ。


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