【上方芸能な日々 浪曲】浪曲名人会

浪曲は嫌いじゃないので、年に1回だけだがこの「浪曲名人会」だけは行くようにしている。例によって、COVID-19の影響で開催できなかった年もあったけど、今年も無事に開催出来てなにより。なんせ、ご高齢の方が多いので、主催者側も気を遣うところだろうけど、ワクチン接種もそれなりに行き届いているので、なんとか乗り切れるでしょう!などと、呑気に構えてられるほどの状況でもないんだろうけど…。

浪曲
浪曲名人会

客入りは概ね7割くらい。時勢を考えると、結構な入りであった。いつものことながら、ギリギリにチケット取ったけど、わりと良いお席。

《元禄秋晴れ街道》 真山一郎
・オペレーター 真山幸美

先代一郎師匠が昨年末、92歳の天寿を全うされた。そんなこともあってか、いつもは金ピカ衣装で登場する一郎師匠だが、この日は黒紋付という極めてシックないでたち。物語は『忠臣蔵』のスピンアウトのような感じ。ウエットな印象はなく、騙し合いに笑いも交えておなじみの演歌浪曲で明るく。内蔵助の意外な一面を見せられたような感じ。

《両国夫婦花火》 春野恵子
・曲師 一風亭初月

大阪で活動しているが、春野恵子自身が江戸っ子だからだろう、こういうお江戸が舞台の人情話はピッタリ。何度も聞かせてもらっているが、この話はとても好きで、何よりハッピーエンドなのがいい。♪お後はまたの機会に~(笑)とならずに一気にエンディングまでいくのもいい。

《藤堂高虎出世の白餅》 松浦四郎若
・曲師 虹友美

「生真面目」「誠実」が着物着てます!って感じの四郎若師匠。演題もそういうものが多く、聴いていて背筋が伸びる思い(笑)。今回のような出世話も師の得意とするところ。「升升出世して、城持ち(白餅)大名になってください」と、若き日の藤堂高虎に升に入った白餅を出す宿屋の主の心遣いが響く。

―仲入―

《決戦巌流島》 天中軒雲月
・曲師 沢村さくら

いつも頼もしい(笑)、雲月師匠。この日は巌流島で攻めてくる。決戦を前にした武蔵の心境をいくつかの場面で語ってゆく。船島に向かう船での船頭とのやりとり、身体を揺すって船を漕ぐ様を演出するなど、聴かせるだけでなく、見せ場も作る。吉川英治の作品が底本だけにドラマ性に富んだ大作に引き込まれた。

《母恋あいや節》 三原佐知子
・曲師 虹友美 ・オペレーター 鵜川せつ子

長らく療養されていた佐知子師匠、復活。今日もハンカチが手放せない『母恋あいや節』。大音声の「あいや節」で健在ぶりを発揮、まずは安心。これで舞台は「泣かせ」の世界に一気に突入。「親ガチャ」と言うが、飲んだくれでどうしようもない父親…エンディングに向かってさらに涙の量は増えてゆく。佐知子師匠だからこそ作り出せる世界。

《破れ太鼓》 京山幸枝若
・曲師 一風亭初月

大トリはもちろん京山幸枝若。朝の10時から来て待ちつかれた果てに、佐知子師匠に「声もええけど、顔もべっぴんさん」と言うといたって(笑)。こういうクスグリから始まる『破れ太鼓』、多分初めて。なかなか面白い。「ぱっとせん奴」が最後に光るという小生のように「ぱっとせん奴」には嬉しいお話。いつもなら「丁度時間となりましたぁ~」だが、あれあれ、今日は最後までとは、お珍しい!

ということで、それぞれの個性が際立つ、まさに「名人会」であった。欲を言えば、時間的制約もあるんだろうけど、若い人を一人配してほしいなあとは思う。未来の「名人」にも大きな舞台を踏んでほしい。ま、コロナ終結後に考えてちょうだい。

(令和4年2月19日 日本橋国立文楽劇場)


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