続いて第二部を見る。
間の時間が45分とか、もう外にメシを食いに行く気も起らん。来るときにファミマでパンを買って、元の文楽茶屋が休憩室として開放されているので、そこでささっと食ってるうちに「お待たせいたしました、第二部を開場いたします」ってアナウンス。せからしいこと、この上ない。せめて2階のロビーでの飲食がOKになってくれたら、もう少し余裕持てると思うんだが…。
人形浄瑠璃文楽
文楽座命名一五〇年
令和4年初春文楽公演 第2部
明智光秀の謀反をベースにした『絵本太功記』。最初からやるとそれなりの長さになるが、ほとんど「夕顔棚」と「尼ヶ崎」しか見てない気がする。今回はレアなところで「二条城配膳」が上演される。文楽劇場では平成23年の夏休み公演以来11年ぶりとのこと。「うん?記憶にないな~」と振り返ってみるに、どもうこの年は夏休み公演自体をパスしていたようだ。まあ、こういう公演もある(笑)。
絵本太功記
「二条城配膳の段」
武智光秀 三輪 尾田春長 津國 森の蘭丸 咲寿 武智十次郎 碩 浪花中納言 南都
勝平
春長の命により蘭丸が光秀を鉄扇で打って眉間がパカーンと割れるシーンで、主従の関係ますます悪化、というところだが、多分、光秀は春長の気短な性格をよくわかっていて、これで殺害を決意!ってことでもないんだろうけど、まあ、こういうのがいくつもいくつも積み重なっていったんでしょうな。
ベテラン勢に交じって、咲寿が蘭丸、碩が十次郎。咲寿は「面打て」と命じられて一瞬「マジっすか?」みたいな蘭丸を上手く語ってた。勢いもあってよかった。人形の玉翔もよかった。碩も頑張ってたけどなんかもう一味ほしいってところ。ベテラン勢はさすが。勝平もよくまとめていた。
「夕顔棚の段」
藤 團七
ここと尼ヶ崎はよくかかるので、「前回、誰々がやってよかった(よくなかった)」など色々比較できるはずなんが、凡人はそういうの、すぐ忘れるので比較のしようもない(笑)。
さて藤太夫。近所の百姓衆がなんかよくハマっていて、上手いことやるな~と感心。そこから謎ありげなの旅の僧、さらには十次郎の出陣へと物語がどんどん重い方向へ進んでいくのをしっかり届けてくれたんじゃないかな。惜しむらくは、昼飯がちょうどいい具合に睡魔を誘う時間帯にさしかかったということか…(笑)。
「尼ヶ崎の段」
前)呂勢 清治
よかったよかった。この人は早く切語りにすべきですよ、国立劇場さん!詞章の一つ一つがずんずんと胸に来る。十次郎の決意に初菊の「いとしい夫が討ち死にの、門出の物具付けるのがどう急がるゝものぞいの」なんぞは、あたしゃ滂沱の涙でしたよ…。一人の若手、中堅太夫が名人の三味線によって、どんどん高みへと上がってゆくのを、我々は目の当たりにしている。こんな幸福なことはない。
後)呂 清介
「主を殺した天罰の報ひは親にもこの通り」ということで、光秀の母さつき、旅僧に扮して風呂を借りていた真柴久吉の身代わりとなって、光秀の竹やりにぐさりとやられてしまうんだが、文楽恒例の(笑)、刺されてから息を引き取るまでの「あーだこーだ、それからどした、も一つおまけにあれやのこれやの」が(笑)。自己の正当性をあくまで貫く光秀、お母さん、息も絶え絶えに「ヤイ光秀、子は不憫にはないか、可哀いとは思はぬかやい」とは、よう言うた!このせめぎ合いを呂さんがガッツリ聴かせる。清介さんの糸もキレキレの迫力あり。十次郎の最期はまことに不憫である。それ以上に初菊が可哀そうでならない。光秀の“男として黙ってはおれなかった”思いが、親と子を同時に失う悲劇を生み出してしまった、非常にやるせない物語である。
人形では勘十郎の光秀、紋臣の嫁初菊がまずよい。最近「狐」づいている勘十郎さんだが(笑)、こういう骨太の役もまた結構なもの。勘壽の母さつきは、武家の母親としての性根の表現が見事。玉佳の十次郎が若々しくそして切ない。
さて、前回「さて、今年の文楽劇場の舞台では何人死ぬんでしょうか?」と記したが、今回2人死んだから早くも3人目である。正月早々、凄いね(笑)。
(令和4年1月9日 日本橋国立文楽劇場)
『浄瑠璃素人講釈〈下〉』 (岩波文庫)
杉山 其日庵 (著), 内山 美樹子 (編集), 桜井 弘 (編集)
¥755 (Amazon.com)
←文楽がお好きなら読んどきはった方がよろしいかと。私も読みましたが、難しかったけど多少はわかったような気分にはなれます(笑)。こちらの下巻に『絵本太功記』あります。
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。