<アイキャッチ画像:いわゆる「伝統民主派」の一角を占めてきた教協の48年は、功罪相半ばの48年だったと思うが、小生には「罪」の部分しか見えなかった。そこに、この組織の持つ大きな問題点があったのだと思う(香港01)>
すでに解散の意向を表明していた教育專業人員協會(教協)が、9月11日に開催された特別会員代表総会で解散動議の採決を行い、可決され、48年の歴史に幕を下ろした。
この日に先立ち、教協では8月28日にも特別会員代表総会を開催していた。ここでは解散議決のハードルを下げることが話し合われ、その結果、解散の議決には「代表資格のある会員の3分の2以上の承認が必要」から「特別会員代表総会に出席した代表資格のある会員の3分の2以上の承認が必要」に、大幅に引き下げられた。要は「解散を急いだ」ということだ。
この日には、旺角(Mong Kok)と銅鑼灣(Causeway Bay)の会員向けスーパーマーケットが早くも売り尽くし完売で閉店に。最後を見届けようと訪れる会員も少なからず。そりゃ大変だ。これからは教協ならではのベネフィットは何も受けられなくなる。もちろん、会員特別価格での買い物もできない。一般市民と同じく、早朝から近所のスーパーの特価日の行列に並んでくれたまえ。
こうして解散へと一気に加速して迎えた9月11日の特別会員代表総会。会員140人が出席し、132人が解散に賛成。反対は6票、棄権2票。かくなる次第で、解散が決定した。そのほか7項目の関連動議も大多数の賛成で可決し、この結果に基づいて解散手続きを進めるという。教協に属する司徒華教育基金も運営を停止すると表明した。7項目の関連動議は、物件の売却、雇用問題の処理・従業員の解雇、合作事業などの終了処理などが含まれる。
教協は1973年に新卒教師給与キャンペーンを機に設立された。当時、香港政庁は新卒教師の初任給を削減し、教師の給与基準を公務員と分離すると発表した。市政局議員だった錢世年が呼びかけ人となり、10以上の教育団体が「香港教育團體聯合秘書處(香港教育グループ合同事務局)」を結成し、政庁への抗議を行った。抗議行動は、教協の設立準備中だった司徒華にバトンを引き継がれ、教師のデモを呼びかけ、やがて教師のストライキに発展した。 香港政庁は新卒教師の初任給減額を断念。教協も正式に労働組合として登録さた。
教協は「労働組合条例」に基づき、組合員の権利のフォローアップを支援するための労働組合として登録されており、それゆえに設立以来、政府とはかなり「微妙な」関係を築いてきた。1985年に立法局が功能組別(業界別)議席に「教育界」を新設し、当時会長だった司徒華が立候補して当選。以降、教協は政治に深く関わってゆくことになる。
1991年には、初めて立法局に直接選挙枠が設けられ、司徒華が九龍東選區から立候補し、高得票で当選。同時に教育界では張文光が当選。彼は同時に民主党の前身、香港民主同盟にも籍を置く。無所属だった現会長の馮偉華も2011年に民主党に入党。2012年の立法会選挙では張文光に代わって教育界の議席を獲得した。このようにして民主派、とりわけ民主党との蜜月関係を築いてゆき、深く議会に関与してゆくこととなる。
民主派によるデモの先頭集団に必ず教協の一団がいるのはこのためで、特に司徒華や張文光はデモに欠かせない顔であった。普通選挙要求デモなど香港の民主化に関係したデモはもちろん、尖閣問題、日本の歴史教科書問題など、反日・抗日活動においても民主党と歩調を合わせ、熱心に取り組んだ。小生が度々「教協は香港最大の反日組織」と批判したのは、こういう背景からである。教協は民主党にとって最大の「衛星団体」となり、教員は最大の支持者層でもあった。
民主派と歩調を合わせることで、反政府色も濃厚になってゆくが、決定的だったのは、やはり2019年の逃亡犯引き渡し条例改正に反対する「反送中」活動への積極参与だろう。
同年4月、逃亡犯引き渡し条例の改正取り下げを政府に要請。以降は香港政府を繰り返し攻撃し、民間人權陣線(民陣)の「反送中」デモに参加し、「逃亡犯条例」に関する小冊子、および権力の乱用について警察を批判する声明を6月に発行し、教師に「授業ボイコット」を呼びかけ、「五大要求」の実行を政府に迫るなど、ほとんど「反中乱港」組織状態であった。
こうして反政府色を明確にしていく中で、2020年に「国安法」が施行される。国安法は原則として「過去にさかのぼって罪を問わない」ことになっているが、政府は国安法を盾にして、2019年の行き過ぎた抗議活動、破壊活動、暴力活動など「過去の罪状」を次々と新華社と『人民日報』による教協批判だった。反中乱港組織と化したかのような教協は、間接的とは言え、あの忌まわしい「暴力破壊活動」に参与していた以上、批判は免れない。
かつて「政府に物申す」ことでスタートした教協は、「政府に物申す」ことが引き金となって、その歴史を終わることになった。巡る因果は糸車とでもいうような終わりと始まりだった。最大の基盤を失った民主党への打撃も計り知れないものがある。中央による民主派根絶やし作戦は、着実に進んでいく。これ、中国が悪いのか?いや、違うでしょう、そこは明らかでしょ…。って、何回も言わせないでね。
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。