台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督デビュー40周年記念
ホウ・シャオシェン大特集
この日も連チャンで2本目に。さきほどの『凶徒』とは全く違うテーストの作品。恥ずかしながら、この作品のタイトル、数日前まで『アフリカ・ザ・プリン(セ)ス』だと思っていた。台湾人がアフリカの架空の王国でも描いたものかなぁ、なんて(笑)。アホですね。ごめんなぁ。で、これまた「江口洋子スペシャルセレクト」のうちの1本。なにせ1回限りの上映だから、これを見逃すと最悪、一生もう観ることができないかもしれないんだから、そりゃ、連チャンもしますわいな、腰が痛くても…。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
江口洋子スペシャルセレクト
アリフ・ザ・プリン(セ)ス 台題:阿莉芙
台題『阿莉芙』 英題『Alifu, the Prince/ss』
邦題『アリフ・ザ・プリン(セ)ス』
公開年 2017年 製作地 台湾
言語:台湾語、パイワン語、標準中国語
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):王育麟(ワン・ユーリン)
演員(出演):舞炯恩·加以法利得(ウジョンオン・ジャイファリドゥ)、趙逸嵐(チャオ・イーラン)、陳竹昇(チェン・ジューシェン)、吳朋奉(ウー・ポンホン)、鄭人碩(チェン・レンシュオ)、王安琪(アンジー・ウォン)、胡德夫(フー・ダーフー)
【作品概要】
原住民のゲイの青年と彼の生き方や彼を取り巻く仲間、家族の人間模様を描いた、笑って泣けるヒューマンドラマ。パイワン族の青年アリフは、手術で完全な女性になることを目標に台北でヘアスタイリストとして働いている。彼の悩みは、台東で一族の頭目をしている父の跡目を継がなければならないことだった。<引用:「台湾巨匠傑作選2021」公式サイト>
監督の王育麟(ワン・ユーリン)は、『父の初七日(台:父後七日)』、『天龍一座が行く(台:龍飛鳳舞)』と、ユニークな作品をこれまで世に送り出してきた。どちらも昨年の「江口洋子スペシャルセレクト」で上映されたが、残念ながらタイミングが合わず、泣く泣く見送った作品。無理してでも観ておきゃよかった…。で、今作は、台湾先住民族の頭目跡取り問題とLGBTを絡めた作品をぶつけてきた。
ここんところ、台湾映画の流れとして、先住民族、LGBTの二つのテーマがピックアップされることが多い。いずれも「アイデンティティ」ということを考えさせられるものだが、とくに後者については一気に増えた気がする。この数年で結構な数を観たかもと思う。2018年11月24日、統一地方選と同時に、「同性婚の是非」「学校教育で同性愛について教えることの是非」などLGBTに関する5項目を問う国民投票も実施されるなど、LGBTの議論に関して台湾は、アジアではかなり先進的だという背景もあるだろうし、何と言っても2019年5月24日、台湾で同性婚が認められるようになったのは、大きな前進であった。さりとて、LGBT全般については、まだまだ偏見や差別も多いのが実情のようだ。
今作の主人公・アリフ(演:舞炯恩·加以法利得/ウジョンオン・ジャイファリドゥ)は、トランスジェンダー。そして先住民族・排湾族=パイワン族の頭目の「跡取り息子」という立場でもある。上映後の江口氏の解説によれば、彼はこの役のために3か月で17キロも減量して臨んだというから、ええ根性してる。そして、名前が表すように、実際にパイワン族である。それにしても美しい…。わしゃ、惚れてもうたで(笑)。
ちなみにパイワン族は、屏東県から台東市にかけての山岳地帯に約10万人が居住する。蔡英文総統はパイワン族の血を引く。
さて、このアリフ君のおとっつぁんはパイワン族の頭目(演:胡德夫/フー・ダーフー)。自分の健康問題もあって息子に頭目の跡目を継いでほしい。しかし、アリフは女性に生まれ変わることを目指している。父として頭目としての葛藤、息子として次期頭目として、さらに目指すものとの葛藤、いくつもの葛藤が父子の間を駆け巡る。こういうのって、頭目だから、トランスジェンダーだからということでなく、父親と長男の間には少なからずあるよな…。ま、小生もその長男の一人なんですがね(笑)。頭目を演じた胡德夫の頑固ぶりがよい。
本作で描かれるセクシャルマイノリティーは、彼だけではない。昼は美容院で働くアリフは、夜はシェリー(演:陳竹昇/チェン・ジューシェン)が経営するセクシャルマイノリティたちが集うクラブで働く。
ちょっと待って!陳竹昇って、先日観た『大仏+』のゴミ拾いの肚財を演じてたけど…。今作では性転換したママさん役。いやいや、まじっすか、全然わからん、こんなに雰囲気変わりますかー?
このクラブで妻に内緒で、女装でショウの舞台に立つ政哲(演:鄭人碩/チェン・レンシュオ)に恋心を抱くアリフ。政哲の妻(演:王安琪/アンジー・ウォン)は自宅でピアノ教室を開いているが、こともあろうか、そこでピアノを習うようになるアリフ。大胆かつ危険な行動にちょっとドキドキさせられる。この鄭人碩って、どっかで見た覚えのある名前と思い、拙ブログ内でまず検索したら、出てきたよ。第13回大阪アジアン映画祭でめっちゃ感動した電視電影『川流の島(台:川流之島)』でトラック運転手を熱演した、あの鄭人碩か!色々と渋いキャスティングである。
渋いキャスティングと言えば、クラブの雇われマスターというかシェリーのいい人・老吳を演じた吳朋奉(ウー・ポンホン)。味わい深い演技をする役者だが、残念ながら20年5月に55歳の若さで世を去った。ドラマに映画にと大活躍していただけに惜しまれる。本作では突然のすい臓がん発覚で、死期を悟ったシェリーから思いをぶつけられるも、長年の友人づきあいの仲で今それを言われてもと戸惑う姿、そしてシェリーの葬儀での弔辞が涙を誘う好演だった。
タイトルからどうしてもアリフに注目してしまうのは仕方ないことだが、彼を取り巻く人たちのストーリーもまた、見どころが多く、群像劇として非常にいい出来の映画だったと思う。
そしてラストは、まあ、収まるところに収まるわけだけど、これまた、なかなか感動の一幕であった。何と言っても、パイワン族の民族衣装の美しさと、それに飾られて一層美しくなったアリフに見入ってしまうのだ。部族によっては、長男の跡継ぎしか許されないが、パイワン族は「長子」継承というのが、この作品のミソになっている。今後も台湾映画の流れの一つとして、今作のような「アイデンティティ」を問う作品は増えて行くと思うけど、それがどこまで日本の映画ファンの心をつかむかどうかは、現在の一過性のような親台ブームの中では、判断はつきにくいね…。それは台湾映画全般に言えるかな。
【受賞など】
■第54屆金馬獎
・最優秀助演男優賞:陳竹昇(チェン・ジューシェン)
最優秀オリジナル脚本賞にノミネート
【阿莉芙 Alifu, the prince/ss 】正式預告
(令和3年7月3日 シネ・ヌーヴォ)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
1件のコメント