<アイキャッチ画像:中国国旗、香港特区旗の掲揚が滞りなく行われる。今年から掲揚は本土と同様に解放軍式で行われた。あくまで香港警察が執り行うが、そのうち解放軍がやるんだろうけど…(香港01)>
香港の祖国回帰から24年となった。来年はいよいよ「50年不変」という原則のちょうど半分となる。「香港は変わった」「中国化進む香港」などと、いかにも「不変」が無きものとされているかのように叫ぶ声が甲高いが、「じゃ、50年間何も変わらないままでいいのか?」と言えば、そんな馬鹿な話はなく、例えば民主派が強く要求してきた「普通選挙制度の実現」なんかも、「不変」では実現させなくてよい、ということになる。中央の香港政策、世界情勢も刻一刻と変化してゆく。いくら「不変」と言っても、《変わらなければならいこと、変えなければならいこと》は山ほどあるわけだ。「国安法」はその一部であり、これを以て「50年不変がないがしろにされている」などと憤っても仕方ない。《変わらなければならいこと、変えなければならいこと》のほんの一部だと思う。これから香港はますます《変わらなければならいこと、変えなければならいこと》に出会っていくと思われる。そして26年後の7月1日には、無事に「一国両制度」終焉の時を迎えるのである。毎度繰り返すが、この一連が「香港返還」というものなのである。
で、この組織も「不変」というわけにはいかないようである。
黄昏時を迎えた民陣
2003年の「50万人デモ」以来、毎年7月1日に大型デモを展開してきた民主派の連合艦隊とも言うべき「民間人權陣線(民陣)」は、今年は7.1デモを開催しないと言う。『星島日報』の取材に対し、民陣の鍾松輝・臨時召集人は、「今年は決して7.1デモは開催しない。警察がすでに『民陣は未登記の社団である』と定義しており、合法的にデモ行進を申請するのは根本的に難しい」と答えた。さらに「『限聚令』により5人以上が集まることは禁止されているためでもある」とし、個人的見解として、民陣の現在の状況については「解散するわけではないが、いかなる活動も行うことはない。すでに歴史的任務を終えた」と述べた。
民陣が警察の取り締まりに遭うのでは?という憶測が飛び交っているが、実際、4月下旬に警察から送られた書簡にて「06年7月に社団登記を申請して認められたが、同年9月に社団事務主任に登記取り消しを申請した後は社団形式で運営された形跡はなく、社團條例違反の疑いがある」と指摘された。警察では民陣に資料提供を要求、あらためて社団登記を申請しない理由、06年9月から現在までのデモと集会の日時と場所、成立以来のすべての収入源・支出・利用銀行と口座番号などを求めている。資料提出なき場合は、法執行の行動を起こす可能性を示唆している。
まあ、提出はしないだろう。ってかできないだろう。そりゃどう考えてもおかしいもん。いくら民主派超党派によるデモ挙行だと言っても、何十万人、何百万人を動員するデモを定例だけで、元旦と回帰記念日の2回、2019年の「反送中」のように毎週のように大型デモを実施する。人がぞろぞろ勝手に歩いているわけではない。それなりに金はかかっている。「市民からの募金たボランティアの協力」と言っても、知れたもんだろう。やはり金の出処は「国安法」に抵触する「外国勢力」からのものだというのは、そこらで買い食いしている学校帰りの小朋友でも察しはつくわな。どうやら、香港を騒がせすぎた民陣は、終焉の時に向かって動き始めたようである。もう、7月1日に大型デモを見ることはないだろう。民陣は黄昏時を迎えた。
各民主派のデモ申請も却下
「民陣がデモをやらなくても、俺たちがやる!」とばかりに、他の民主派団体は開催を申請し、民陣17年の伝統を引き継ぐと息巻く。いやいや、たった17年で伝統なんて言わんといて(笑)。そんな伝統、まっぴら御免やし。こうして民主派は何かと重たい言葉を駆使するけど、総じて発言が軽い。6月25日、警察に7.1デモの開催を申請したのは、社会民主連線(社民連)、天水連線、守護大嶼聯盟の3団体。「堅守民間社會,堅拒政治打壓,釋放所有政治犯=民間社会を堅守し、政治弾圧に抵抗し、すべての政治犯を釈放する」をテーマに掲げ、3団体合同でデモを実施すると発表した。「3団体合同」と聞いて、「全日、新日、国際」を想起した小生は、古いプロレスマニアの一人である(笑)。
デモはこれまでと同じ14時にビクトリア公園に集合し、15時に出発して特区政府庁舎まで行進し、その後集会を行うという計画。限聚令を厳守し、参加者は4人1組で社交距離(ソーシャルディスタンス)を保ち、主催者からマスクを提供するという。COVID-19の流行は緩和したので、警察はそれを理由に市民のデモの権利を制限できないはずだと指摘。万一、デモの開催を警察に拒否された場合はその後の活動について再検討するらしい。この時点で3団体はデモ開催に「勝算あり」と見込んでいたが、警察はあっさりと反対通知書を出した。
警察は「申請された集会とデモは、5人以上の集まり禁止する限聚令を免除される集まりには含まれず、人が多く集まる高度に危険な活動であり、参加者と市民にCOVID-19の感染リスクが増す」と指摘。加えて「主催者側が条件を設けても、公共秩序と安全の維持、他人の権利・自由の保護にとって何の助けにもならないため、申請されたデモと集会に反対する」と説明した。さらに「このデモと集会を違法と分かりながらも、参加または召集した場合は、犯罪になる」と警告した。3団体は公眾集會及遊行上訴委員會に上訴したが、「ダメなものはダメ!」と一蹴される。そう「ダメなものはダメ!」。大人なんやから、ちゃんとしましょね!
警官1万人余りを配備、厳戒態勢
とは言っても、やり場のない激進民主派や本土派は何をやらかすかわからないので、警察は中共100周年と祖国回帰24周年を迎え7月1日は、厳戒態勢を敷いた。警察は違法集結、暴力的デモ、テロ活動を防ぐため、警官1万人余りを配備した。2019年の暴力破壊活動のこともあるので、警戒配備には念には念をと反テロ特殊部隊、鉄道警官隊の精鋭も加わる。中国国旗・香港特区旗掲揚式が行われる金紫荊廣場(Golden Bauhinia Square)や、6月30日夜に中共成立100周年式典が行われた紅磡の香港體育館周辺、7月1日に祖国回帰記念レセプションが開催される會展(コンベンション&エキシビションセンター)周辺などでは重点的な警備態勢で、「五歩一警」という厳重極まりない警官配備を敷いた。また、灣仔(Wanchai)、銅鑼灣(Causeway Bay)など、従来のデモのルートには放水車や装甲車も待機させて、違法デモや道路占拠を防ぐ。ネット上で「ビクトリア公園に集合!」ってなことを呼びかけている者もいたが、正午からビクトリア公園を封鎖して違法集会を防ぐなど措置をとった。
李家超政務官、行政長官代行として式典の場に立つ
そして迎えた7月1日。
まず、午前8時から金紫荊廣場で、中国国旗・香港特区旗掲揚式が挙行された。冒頭の写真でも説明した通り、今年からこれまでの英国式に代わって、解放軍スタイルが採用されることになった。号令も広東語から標準中国語、いわゆる普通話、日本で言うところの北京語に改められた。まあ、英国式でも大陸式でもどっちでもええねんけど、不思議なのは返還から20年以上も経過しているというというのに、ずっと英国式で行われていたという点。なんか理由があったのか、はたまた、別に変えんでもええかって感じでやってきたのか…。どうなんだろう。
無事に掲揚式が執り行われた後は、お隣のコンベンション&エキシビションセンターで、祖国回帰24周年の記念レセプションが開催された。
林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が北京の建党100周年記念式典等に出席しているため、李家超(ジョン・リー)政務官が行政長官代行を務めた。1週間ほど前に政務官に就任したばかりで早くも行政長官代行を仰せつかるとは、ラッキーな人である。ちなみに、来年3月に予定されている次期行政長官選挙だが、この人。立候補するかもしれないよ、とはもっぱらのウワサである。そう言えば、現行政長官のおばさんも、前職は政務官だったよな…。まあ、まだまだ先の話だけどそういうウワサもちらほらしているので、名前は一応、頭に入れておこう。
李氏はレセプションのスピーチで「この24年、中央は一貫して香港で一国両制度の実現を徹底してきた。2019年下半期に始まった暴力デモ、反中乱港勢力が選挙制度の抜け道を利用し政府の施政をまひさせ統治権を奪おうを企図し、香港は前代未聞の試練に直面した。だが中央の一国両制度に対する初心は揺るがず、立憲政治体制の面から香港のために問題を解決し、香港版国家安全法と選挙制度の改善を制定した」と述べた。さすがですな、初の警察出身の長官は言うことが違う。と思ったが、きっとキャリーのおぼさんでも一言一句違わぬことを言っただろう。いやはや、大変ですな、こういうスピーチを考える人も。どういう部署のどんな人が担当するんでしょうな。
まあ、実際の話、国安法が施行されたことで香港に安全が戻り、正常な市民生活が回復したのは事実。人によってはそれを「弾圧」とか「締め付け強化」と捉えるけど、暴力破壊人士に店を壊されたり、交通を混乱させられたり、ちょっと文句言っただけで血だるまにされることはなくなったわけだから、「これでよし!」だ。
英国旗の王おばあさんら19人逮捕
この日は、銅鑼灣(Causeway Bay)や旺角(Mong Kok)といった繁華街で、「わけもなく」市民が集まるという事態にはなったようだ。ただ、国安法以前との大きな違いは、それが暴力破壊行為にはつながらず、ただ「わけもなく」集まった、というだけの状況で終わったということ。まあ、休日だからね、人出でも増えるし(笑)。しかし、こうなると、やはり警察を挑発するような奴が現れることになる。
数百人が集まった銅鑼灣では警察は一時「黄旗」のゲーフラを掲げて、早急に退散するよう警告するも、「光復香港、時代革命」のスローガンを叫ぶ者も現れる無法ぶりで、多数が逮捕された。その中には毎度おなじみ「王婆婆(王おばあさん)」の姿も。例によって英国国旗を振り回す。本人やおばあさんを支持する人たちにはそれなりに理由があるんだろうが、小生なんぞは「それ振り回すことに、何の意味があるん?」ってところんだが…。銅鑼灣で英国旗を振り回しても、英国は助けには来てくれない。
一方、旺角では学生団体「賢學思政」の召集人・王逸戰らメンバー3人が扇動的な内容のビラを配って逮捕された。賢學思政は本土派の学生団体で、国安法以降、多くの学生主体の本土派組織が解散する中で、活動を継続している数少ない団体である。結成は昨年の5月というから、まだ新しい。しかし、今回の逮捕で恐らく活動は終わってしまうのではないかと思う。とんだ「泡沫本土派」だったということだろう。終わってよし!である。
午後には、模造拳銃を所持していた男性も逮捕された。午後3時ごろ、銅鑼灣一帯で群衆が集結した際に、一人の男性を職務質問したら、模造拳銃を所持していることを発見し、模造火器所持容疑で逮捕した。警察は「街中で模造拳銃を所持することは公衆の安全と公共秩序に脅威をもたらす」と譴責。「いかなる違法な暴力行為も決して容認せず、厳正に法を執行する」と述べた。なんか面白半分で、模造拳銃を所持してウロチョロしたら逮捕されるかな?っていうスリリングな自分を楽しんでるような…。まあ、馬鹿ですわ(笑)。
結局、夜までに銅鑼湾と旺角では少なくとも19人が違法集結、公共の場での不適切行為、模造拳銃や攻撃性武器の所持などの容疑で逮捕されたとさ。こういう秩序を乱す輩は国安法以前の問題としても放置しておいてはいけない。しっかり裁いていただきたいものである。
「しっかり裁いていただきたい」と言っても、犯人が死んでしまってはどうしようもない。物騒な世の中である。
警官襲撃事件発生、犯人はその場で自殺
銅鑼灣で警官への襲撃事件が発生、犯人はその場で自殺した。
午後10時ごろ、銅鑼灣そごう前で黒服の男(50)が警官(28)の左背中を刃物で刺した。男は犯行直後に刃物で自らの心臓を刺し、大量に出血した状態で、現行犯逮捕された。刺された警官は重傷を負い、病院に搬送された。一命はとりとめたとのこと。犯人の男性も病院に運ばれたが、午後11時20分に死亡が確認された。
警察は7月2日、この事件を「孤狼式本土恐怖襲擊=一匹オオカミによる地場のテロ襲撃」と断定した。まあ多分、そういう流れになるだろうなと思っていたが、案の定、事件発生後からネット上では犯人を「烈士」だの「勇者」だのと尊敬したり、警官殺傷を賛美する書き込みがあふれていた。なんだか日本に住まう日本人までが犯人の死を悼む始末で、「おいおい」ってところ。警察ではこうした者がいることに対して「明らかに深刻な暴力行為を公然と支持すると同時に、犯人の非人間的で冷血な行為を美化しようとしている」と述べ、強い譴責を表明した。保安局局長の鄧炳強は「犯人のみならず、暴力を鼓吹し、社会への憎悪、国家への憎悪を扇動し、暴力行為を美化している者がいることも今回の事件を招いた主因」と指摘し、背後で後押しした者も犯人と同様に手を血に染めていると非難した。そう、背後で後押ししているのは、あなた、あなたですよ、わかってます?「警官を刺した人が助かりますように」とか「亡くなられた犯人さんにお悔やみ申し上げます」なんてすっとこどっこいなコメントをネットに書き込んだり、犯人の死後から現場に哀悼の花を供えに来る人たち…。あなた方のそういう考え方、行動が、この事件を引き起こしたわけですよ、わかってます?
中国人気アイドルにもとばっちり?
その後の調査で、自殺した犯人は豆乳でおなじみ大手飲料水会社「維他奶(ビタソイ)」購買部職員の梁健輝と判明したが、同社が職員向けに発出した内部通告が流出し、その文面に外部から不満の声が上がっている。ビタソイは職員への社内通告で、「死亡した梁健輝氏は同社購買部の購買主任であり、銅鑼灣で発生した事件で『不幸にも他界した』」として、同社は家族に対し最大の慰問を表明し、必要な支援を提供すると述べたほか、職員に対しては個人的な意見を発表しないよう求めた。いくらなんでもヤバいね、この文面は…。
恐ろしい世の中になったもんで、こういうのはあっという間に流出し、世の中に広まってしまう。ホント怖い怖い…。
そんな次第で、まずは本土のネット民が騒ぎ始める。本土ネット民は「ビタソイの通告はテロリストを追悼し、警官襲撃を支持している」と指摘。負傷した警官を見舞う文言が無いことを批判する声も上がって、いわゆる「炎上」状態に。これに慌てたのが、ビタソイの中国地区イメージキャラクターを務める龔俊(ゴン・ジュン)の事務所。事務所では声明を発表。龔俊はビタソイブランドとの協力をすべて打ち切ると宣言し「僕は一切の形の暴力、テロなどの極端な行為に断固抵抗します!」と宣言。人気アイドルも、とんだとばっちりを受けたもんだ。
こんな次第で、大きな混乱なくとりあえずは平穏に終わると思っていた7月1日は、最後は「血塗られた回帰記念日、中共建党100周年記念日」となってしまった。国安法を恐れず、このような「恐怖行動=テロ行為」を実行する人間も、まだまだ市井のどこかに潜んでいるだろう。来年の回帰25周年は、どんなことが起きるんだろうか…。そもそも、それまでにCOVID-19の感染拡大は収まっているんだろうか…。
とにかく2019年以来、落ち着かない7月1日である。
『空と緑のおもてなし 香港癒やしの半日旅』
その道の先に行ってみれば、街とは違うときめきがありました 単行本 – 2018/12/5 ¥1,540
香港と言えば大勢の人が行き交う雑多な街並、グルメ、ショッピングなど「都会の中」で楽しむのが定番ですが、実はその都会の少し先にはびっくりするほどの絶景や癒やしのスポットが存在しています。……(Amazon.com)
早くこういう香港をブログで紹介できる日が戻ってほしい…。デモや警官襲撃だけが香港じゃありません!ここに紹介されている香港が香港の本当の姿です!
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。