【睇戲】逆さま(港題:對倒)

2021香港インディペンデント映画祭 in 大阪

シネ・ヌーヴォ、次なる特集企画は、久々の「香港インディペンデント映画祭」。前回開催が「雨傘運動」から3年後の2017年で、話題の『乱世備忘─僕らの雨傘運動』が上映された。今回は「反送中」の行動が「暴力破壊行動」に転じてしまった2019年、「国家安全法」が施行された2020年からのCOVID-19のパンデミックという流れの中で、香港映画のインディーシーンは何をどう撮ってきたかを見る絶好の機会である。しかしながら、インディー作品が伝える香港こそが真実かと言えば、そこはよく見極める必要もあるだろう。今回、長編5作品、短編13作品の中には、香港では公での上映機会を得られないものもあるので、メジャー作品が描かない香港を見ることができる機会となればと思う。まあしかし、小生の場合は香港住みが長かったから、上映作品を観て、「監督さん、そうは言いますけどね」という部分が非常に多いのも確かなんだけど(笑)。

てなわけで、まずは本映画祭オープニング上映、『逆さま(港:對倒)』を最初の1本目として観た。香港インディペンデント映画界の雄「影意志(Ying E Chi)」を率いる崔允信(ヴィンセント・チュイ)がプロデュースしている。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

逆さま 港題:對倒

港題『對倒』 英題『Head-To-Tail』
邦題『逆さま』

公開年 2018年 製作地 香港
言語 広東語
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):伍立德(ルーサー・ン)
監制(プロデューサー):崔允信(ヴィンセント・チュイ)

主演(出演):袁富華(ベン・ユエン)、甄思羽(ニック・ヤン)、伍詠詩(ン・ウィンシー)、鄭瑩瑩(デスティニー・チェン)、何卓瑩(エンジェル・ホー)
友情演出(友情出演):謝志峰(ジョセフ・ツェ)、黃大鈞(アラン・ウォン)、黃守東(ジェフ・ウォン)、麥振江(グロリア・マック)、張惠萍(アニタ・チャン)、文橋康(マン・キウホン)

【作品概要】

雨傘運動の影響を受けたある家族(父はベテランの新聞記者、息子は警察、娘はデモ参加者)の矛盾、対立と崩壊の過程を2014年から2017年までの長いスパンで丁寧に、そしてリアリスティックに描いている。<引用:2021年 香港インディペンデント映画祭 公式サイト

この作品の製作期間中には、後に2019年の「反送中」に端を発した暴力破壊行動が起きるなどとはだれも想像していなかったはず。ただし、社会の分断、二極化は確実に進んでいた。分断は社会だけでなく、職場、交友関係、そして家庭にまで及ぶ。当人たちにその気はなくとも、結果としてそれを煽ったことになる集団やメディアの責任は大きい。もちろん、その原因を作った香港政府にも「もっとしっかりせえよ!」という気持ちで、一連の動きを見ていたものだ。そこは「中国がーー!」じゃなくって、香港政府がうまいこと調整しなけりゃならない話。

本作はこうした香港社会の変化を父、息子、娘の3人家族に託して描いている。「よくある話」「よく耳にする話」が78分という長編としてはやや短い時間ながら、上手に凝縮させて映像化している。いや、ほんとによく聞くんですよね、この手の家庭内分断の話を。

新聞記者の父を袁富華(ベン・ユエン)。『トレイシー(港:翠絲)』、『叔・叔』とLGBTがテーマの作品出演で好演が続いたことでそのイメージが最近は強いが、今年の大阪アジアン映画祭で上映の『手巻き煙草(港:手捲煙)』で見せた黒社会の大物役もこなすベテランである。今作では二人の子供の間に生じた亀裂にため息をつきながらも、見守る父親という立場と、紙媒体からネット媒体に変革してゆく中でいら立つ古株の記者という立場を好演。小生とは同学年にあたる袁富華だけに、演じた父親の姿に感情移入してしまった。

常にすれ違う警察官の兄と民主活動に明け暮れる妹だったが…

雨傘当時に警察官だった長男を甄思羽(ニック・ヤン)。あまり見かけぬ顔と名前。『香港国際警察/NEW POLICE STORY(港:新警察故事)』に出演していたようだが覚えがない(笑)。今作が初めて主役格での映画出演となる。警察官として安定した収入を得ながらも、大学進学をあきらめられず、ついに警官を退職し勉学の道を選ぶことに。そのために婚約者とは破談に。大学に入ってから民主活動に傾倒してゆく…。

娘はと言えば、兄とは逆で、雨傘当時は民主活動に奔走する日々。兄とはお互い顔も見たくないほど関係は悪化している。しかし、将来を考えると、このまま民主活動を続けても収入を得られるわけではない。「警察官は安定している」という友人の言葉が響き、反目していた兄と同じ警察官に。演じた伍詠詩(ン・ウィンシー)はこれが長編映画初出演にして主役格。香港で一番新しいテレビ局ViuTV育ちの若手だが、これからに期待できる好演だった。

すでに熱は冷めて、テントが並ぶだけとなった雨傘行動終焉間近なころの金鐘(Admiralty)。この裏では様々な「家族の物語」があったのだ 筆者撮影

描かれているのは2014年から2017年までの、香港社会の分断・二極化の中で揺れ動く家族の物語であるが、この3人がその後、2019年の混乱でどうなってゆくのか、国安法施行の下でどうなってゆくのか、その後のストリーが気になるところだ。こういうストーリーを年月をかけて紡いでいくのもインディー作品の使命だと思うが、今後は映画の検閲が厳しくなるようで、果たしてこの家族のその後を観ることが叶うのかどうか…。

しかし、「映画の検閲」って英領植民地時代かよ…。

香港獨立電影《對倒》預告片 2

(令和3年6月19日 シネ・ヌーヴォ)



 


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