2年ぶりの開催となった「文楽若手会」。去年はもちろんCOVID-19の感染拡大を受けての中止。今年も、元々は大阪では6月19、20日の土日公演の予定だったが、緊急事態宣言再延長にともない、大阪府が土日のイベントの無観客、オンライン配信を要請したため、一旦は中止となってしまったところ、各方面の尽力により、21日月曜日に1回公演だが、急遽公演が復活した。よかったよかった。平日なれど、そこは何とか都合をつけて、文楽劇場へ。
「若手会」はその名の通り、若手(中堅どころまで)だけが出演する舞台。日ごろの本公演では回ってこない大きな役などをあてがわれ、修練の成果を披露する。大阪1公演、東京2公演と少ない機会だが、ここで「お、なかなかやるやん」と思った子が、秋の公演や翌年の正月公演でそれなりの役についたりすることも少なくないので、楽しみにしている。今年はだれが一皮むけたところを見せてくれるか。2年ぶりとあってみんな満を持しての公演ではないだろうか。
人形浄瑠璃文楽
第21回文楽若手会
菅原伝授手習鑑
「茶筅酒の段」
亘 寛太郎
普段見慣れないコンビ。寛太郎については今更言うことは何もなく、若手三味線陣のトップランナーとして、引っ張っていってほしい。亘もここ1~2年で力量が上がっているのがよくわかる一人だが、ここはもう少し「ほんわか」なムードが欲しいところちょいとギラギラしていた。それは寛太郎も同様。この辺は「人生の積み重ね」というか、そういう人間としての年輪を感じさせるには、まだまだ若い。そこは稽古ではどないもならん部分。よい年齢の積み重ねをしてゆくしかない。
「喧嘩の段」
碩 錦吾
碩はまだ声が若すぎて、ちょっとこの段は向いていない。ま、そこは本公演ではないのだから存分にやればよく、その点では錦吾のリードもあって、やり抜いたという感じ。松王丸と梅王丸のやり取りも、目いっぱいの力強さで聴かせていた。あとはもう、太夫としての変声期を待つばかりというところか。
「訴訟の段」
小住 友之助
当たり前だが、物語は段々難しくなってゆく。小住は押し出しが良く、声も悪くないので、この段には若手の中では適任だろう。友之助は撥に情感を込めていて、小住が勢いだけに走ろうとするのを食い止めるような音色。彼なんぞは、そろそろもうワンステップ上のところで弾かせてあげていいんじゃないかと思う。
「桜丸切腹の段」
芳穂 清馗
切場はこの二人。まあもう芳穂ならここにチャレンジできる資格は十分にある。ただ、ここは人形に持って行かれたかな。いいえいな、決して芳穂と清馗があかんかったいうわけでなく、それと張り合うかのように、人形がよかったというところ。白太夫を簑紫郎、桜丸が紋吉、八重に紋秀。簑紫郎はちょっと取って付けたような感じがした。紋吉は案外こういう悲運の優男が似合うのかもしれないという、新たな一面を見た。紋秀がなかなかうまいことやっていた。やっぱり文楽は浄瑠璃次第やなと感じた。
<手摺全般>上述のように、個々にはええ感じだったのだが、どうにもフワフワした印象がぬぐえない。恐らく、足と左の呼吸だと思うんだが、そこは、足と左が合してやるんじゃなく、主遣いがきちんと両者をコントロールしなけりゃいけない。そこは大きな課題として浮き彫りになったんじゃないかな?
生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)
「宿屋の段」
希 清丈 琴 清方
案外、ここは難しい。普段、ベテラン連中がやるのを見物してもそいうのは見えてこないが、「若手」でやると、「はは~ん、そうなんやな」と感じる。まだまだ小生も「若手」(笑)。次の夏休み公演でも、ここは千歳・富助がやる。そういうレベルが求められる段。その点で言えば、希&清丈にはいささか高いハードルだったか。ただ、果敢に挑んでるなあという印象も受けたので、そこはよかった。琴は「あちゃちゃ~」な感じで、まだまだ発展途上にすら至ってなかったなあ。おきばりやす!
「大井川の段」
咲寿 清公
咲寿は若手会でずっと注目してきたが、毎年のように声が「義太夫化」していっている。こういうのは、通常の本公演ではどうしても掛け合いが多くなるので発見しにくい。短いながら、こうして一段一人で語るからこそわかること。「子供のコーラス隊かよw」と思っていた頃から比べると、全く別人のようだ。
手摺では、次郎左衛門の玉翔がよかったが、もう「若手」ってわけでもないしな。徳右衛門の文哉、朝顔の玉誉も同様。こういう役を、端役で出ていた和馬、和登、簑悠にやらせてみたい。「若手会」ならチャレンジさせてもいいんじゃないか。
万才・鷺娘
靖、亘、碩
燕二郎、清允、清方
年に何回見せられるのやら…。って感じだが(笑)。舞踊ものなんで床の感想はさておき、人形中心に観た。「万才」では、太夫を簑之、才蔵を勘介が遣う。二人とも最近では珍しく、研修生上がりでなく師匠に直接入門した。キャリア的には勘介が二年先輩だが、ほとんど変わらない。競い合ってゆくんだろう、これから。どちらもそもそもが「動きが硬い!」と常日頃から思っているが、この日はなかなか柔らかかった。稽古したんだと思う。「鷺娘」の簑太郎は、子役人形を卒業し、この先、ご父君のように女形主体、時々立役でいくのか、どうするのか?まあ、今は模索中なのかな。
ちょこっと床について。本作に限らず、床本見ない太夫が多いという印象。暗記を競うわけやないんやから、「床本を読む」という姿勢を見せてほしい。それが太夫の本来の姿のはずだ。
(令和3年6月21日 日本橋国立文楽劇場)
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。