【睇戲】春江水暖(中題:春江水暖)

今年はどもう小生にとっては「映画の当たり年」みたいで、春の「大阪アジアン映画祭」こそ予定がうまくかみ合わなくて、観たいのに見ること叶わなかった作品が続出したが、三度目の緊急事態宣言下でも結構な本数を観れたし、その後も続々と「これは見ておかねば!」という作品に巡り合えている。で、今回は、「見逃してしまった!」と思っていたら、心優しい「シネ・ヌーヴォ」さんが上映してくれるというではないか。実にいい映画館です(笑)。

近年公開数が増えている中国映画だが、多くはビッグバジェットのもとで、香港の大物監督が好き放題に人海戦術、CG、ワイヤーワーク…なんでもこいという作品が多く、食傷気味だったところに、タイトルを見ただけで「なんかきれいな映画かも?」という期待を持たせてくれる『春江水暖』。結論を言えば、期待以上のものでござんしたよ!

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

春江水暖~しゅんこうすいだん
中題:春江水暖

中題『春江水暖』
英題『Dwelling in the Fuchun Moutains』
邦題『春江水暖~しゅんこうすいだん』

公開年 2019年 製作地 中国
言語 標準中国語、杭州方言
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督)、編劇(脚本):顧曉剛(グー・シャオガン)
配乐(音楽):竇唯(ドウ・ウェイ)

主演(出演): 杜红军( ドゥー・ホンジュン)、钱有法(チエン・ヨウファー)、汪凤娟(ワン・フォンジュエン)、章仁良(ジャン・レンリアン)、章国英(ジャン・グオイン)、孙章建(スン・ジャンジェン)、孙章伟(スン・ジャンウェイ)、彭璐琦(ポン・ルーチー)、庄一(ジュアン・イー)、孙子康(スン・ズーガン) 、董镇洋(ドン・ジュンヤン)

【作品概要】

杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧<グー>家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業とする次男、男手ひとつでダウン症の息子を育て、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。恋と結婚に直面する孫たち。変わりゆく世界に生きる親子三代の物語。<引用:映画『春江水暖~しゅんこうすいだん』公式サイト>

台湾ニューシネマの代表的な監督である侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊徳昌(エドワード・ヤン)に大きな影響を受けたという顧曉剛(グー・シャオガン)の初監督作品である。音楽は王菲(フェイ・ウォン)の元旦那の竇唯(ドウ・ウェイ)。作品をよく解釈した絶妙の音作りが映画に一層の奥行きを持たせている。

舞台は顧監督の故郷、浙江省杭州市富陽。撮影もすべて富陽で行われた。約600年前、元朝末期の水墨画家黄公望が富春川の両岸に「富春山居図」を描いた。監督は制作にあたってこの「富春山居図」からインスピレーションを得たと言う。描かれる富陽は、まさに山水画。実に美しい絵巻ものが映画となってスクリーンに繰り広げられる。一方で富陽の街並みは今、大きな変化の時を迎えている。2022年のアジア競技大会を迎えるため、本格的な都市開発が進む。その様子もまた、絵巻の一つの場面として描かれている。超長回しのシークエンスも見受けられ、それもまた山水画の絵巻をゆっくりと鑑賞するような感じを受けた。

キャストのほとんどが、監督の親族、知人で占められている。それについては、「製作費の節約が大きな理由ではあるが、富陽のある瞬間をリアルに浮かび上がらせるために、ま市井の人々の情感を映像に入れるために、実際にそこで生きている人に演じてもらうことが大事だと思った」と言う。「自分に近い役を演じることで、市井の人の現実性を映せたと思う」とも。顧家のおばあさんと長男の娘は芝居の経験があるが、そのほかは伯父、伯母、叔父とその息子、知人夫婦など身近な人々。しかしながら、素人とは思えぬ演技で、物語を見せてくれたのには感心する。こういう親族知人でキャストを固めた映画って、他にもあったような気がするが…。気のせいかなぁ?、勘違いかなぁ?

印象に残る登場人物は、何と言ってもおばあさんである。杜红军( ドゥー・ホンジュン)というベテラン女優だが、これまではエキストラや端役をこなしていた人で、今回の出演は杭州の映画スタジオのネット広告で募集を見て、応募したのだという。時として、こういう人が存在感を放つのだから面白い。これまで積み重ねてきた人生が、表情や言葉遣いに表れている。稽古を積んだだけでできるものとそうでないものがあるというのを、見せつけられた。

夫の経営するレストランの資金繰りが苦しい母親が、金持の息子と結婚させたいがため、好きな人がいるにもかかわらず交際を反対されて、ついに親子の断絶に発展して悩む長男の娘と恋人の背中を押すおばあさん。その最期は、描かれなかったが、イカサマ賭博を開いていた三男宅から、雪の中を姿を消したことから、推し知ることができる。悲しく寂しい人生の幕引きだった。

その三男は、ダウン症の子供を抱える男やもめで、金に苦労しているがため、闇金やイカサマ賭博に手を出す。病身の子を思ってのこともあるが、見栄っ張りな性格も災いしている。一時的に羽振りが良くなり、長男夫婦が苦慮の末に老人ホームに入所させた母親を引き取るのだが、母親はある日、行方不明に。何のために母親を引き取ったのだ…。川に魚をかえす「放生」で、母の発見を願う長男夫婦…。発見された母親は再び三男が引き取るのだが…。

おばあさんが、家族に残した一冊のノート。清明節の墓参の際に、四男が家族を前に読むシーンに心が揺さぶられる。おばあさんが富陽に嫁いできた当時のことが書かれていた。まったく知らない土地のことなのに、なぜかその情景が生き生きと脳裏によみがえる。これ、きっと監督の思う壺だな(笑)。いいお客だな、俺(笑)。

最期に「巻一完」の三文字。この先の物語を予感させてくれる。監督の談によれば「今作が三部作の第一作というつもり」とのこと。第二作は順調にいけば2022年に撮影が始まると言う。完成が待ち遠しいが、三部作完成まではまだまだ先が長くなりそうだ。俺、生きてるかな(笑)。

江南の豊かな土地をゆく滔々した富春江の流れに身をゆだねるかのごとく、2時間30分という長尺もまったく苦にならない至福の時を過ごすことができた。

(令和3年6月9日 シネ・ヌーヴォX)



 


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