【睇戲】『薬の神じゃない!』(中題=我不是药神)

久々に映画を観る。「行かねばならぬ!」「あと1日しかない!急げよお前!」などとワーワー言うてますうちに見逃した作品もいくつかあり、「何をしてるんや、おまはんは!」と自分を責めていたんだが、最近、ちょいと時間が余ってるんで(カネは余ってないww)、今、話題の中国作品を観てきた。さすが話題作、平日の真昼間でも座席の半分が埋まっているのには、びっくらこいた。ま、この日はシネ・リーブル梅田のサービスデーなんで、料金お安いってこともあるんだろうけど(笑)。話題作なのにパンフが無いってのは、どうしたものか。チラシとHPで十分だろうって言われりゃ、そりゃそうなんだけど…。ねぇ…。

薬の神じゃない! 中題=我不是药神

中題 繁『我不是藥神』/簡『我不是药神』
英題 『Dying to Survive』
邦題 『薬の神じゃない!』
公開年 2018年 製作地 中国 
言語 標準中国語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):文牧野(ウェン・ムーイエ)
監制(制作):寧浩(ニン・ハオ)、徐崢(シュー・ジェン)
編劇(脚本):文牧野、韓家女(ハン・ジャニョ)、鍾偉(ジョン・ワイ)

領銜主演(主演):徐崢(シュー・ジェン)
演員(出演者):周一圍(ジョウ・イーウェイ)、王傳君(ワン・チュエンジュン)、譚卓(タン・ジュオ)、章宇(チャン・ユー)、楊新鳴(ヤン・シンミン)、王硯輝(ワン・イエンフイ)

薬、高いです…。いえねぇ、小生、とある神経性の激痛をコントロールする薬を、かれこれ17年、処方してもらってるんだが、メインの薬はジェネリックが数種類あって、これはそれほどでもないんだが、補助的に服用している薬が、まだジェネリックがなくて、これがまあ、高い!まして通院は3か月に1回。薬も90日分処方されるから、痛いったらありゃしない。と言って、服用しないことにはこの激痛には耐えられない。もし薬がなければ、とっくの昔に痛みに耐えかねて狂い死にしていたのは間違いないわけで、ありがたいんだが、お値段がねぇ…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

COVID-19の感染拡大で延期になっていたが、ようやく上映となったこの作品、中国が白血病治療薬のジェネリック医薬品の処方を認めるきっかけとなった密輸事件、「陸勇事件」を元に制作されたもので、エンドロール間近に「中国政府はこんな政策を行いました!」という「報告」がずらずら出てくる。ま、そこは隣国ならではのご愛嬌という感じでざっと観ておけばよろしいかと(笑)。

陸勇事件とは

慢性骨髄性白血病と診断された陸勇という男性が、中国国内では非常に高額で入手困難な抗がん剤の代わりに、インドからほぼ同じ薬効を持ち、より安価な抗がん剤を個人輸入し、同じ病気で苦しむ中国国内の患者にも分け与えたことで、逮捕された。陸勇の逮捕に対し、多くの患者たちから減刑の嘆願署名が集まる。これをきっかけに、中国国内で使用されている抗がん剤がどれほど高額かということがクローズアップされ、薬品管理法改定や製薬会社への規制へと政府が動くことになった。一人の人民の犯罪ではあっても人命を救う善行が、社会や政府を動かしたという注目すべき事件。

あらすじ

上海にある男性用の回春薬を販売する店の店主、程勇(徐崢/シュー・ジェン)は、店の賃料が払えず妻にもあきれられていた。何の喜びもない人生を送っていた彼のもとに、ある日、慢性骨髄性白血病患者の呂受益(王傳君/ワン・チュエンジュン)がやって来る。彼は国内で認可された高額な薬の代わりに、インドのジェネリック薬を仕入れてほしいと程勇に頼む。程勇は断るが、大金に目がくらみ、密輸と販売を行うようになる。引用:「シネマトゥデイ」

【甘口評】 「這世上就一種病,你永遠也治不了,那就是窮病」

「ドタバタものかな~?」と思っていたら、大間違い。ドタバタもあるけど、社会派ドラマであり、けっこう泣かせる展開もありで、こいつはいい作品に巡り合えたもんだと、大満足で席を立つことになった。

格差社会と言いながら、病(やまい)は貧富に関係なく襲ってくる。富む者は最良の医療を受けることができ、貧しい者は命をつなぐ薬さえ満足に手に入らない。そんな理不尽な社会に鉄槌を下し、国を動かしたのが映画の題材になった「陸勇事件」なんだが、もしこの人物がいなければ、いまだに中国では白血病患者の多くが、高い医療費に苦しみ、リュ・ショウイーのように、自ら命を絶つような悲劇が繰り返されていたかもしれない。だからこそ「這世上就一種病,你永遠也治不了,那就是窮病この世には一つの病気しかない。永遠に治せない貧困という病だ」というセリフが心を打つ。

そんなこんなを、実際の事件をベースに、時に笑わせ、時に手に汗握らせ、泣かせて…と波状攻撃を仕掛けてくる展開に、うたた寝する場面もなく(笑)、のめり込ませるのだから、さぞかしベテランの監督さんだろうと思いきや、なんと文牧野(ウェン・ムーイエ)監督は、本作が初めての長編というから、こいつは驚きだ。

2018年に大陸で公開された作品だから、まだCOVID-19なんぞ世界の誰も知らない頃。なのにやたらとマスクが目を引く。「白血病患者はちょっとした感染症でも容体が悪化する」からだそうだが、口元と鼻が隠れることで「目は口ほどにものを言う」というビジュアル効果満点で、監督をはじめとする制作スタッフ陣の技量に感じ入る。

登場人物の作り方もよかった。何より、主人公の程勇の胡散臭さ満点ぶりから、善人へと変わってゆく過程がよかった。徐崢の好演が光る。程勇に密輸話を持ち掛けた白血病で苦しむ吕受益を演じた王傳君も死に際のやつれっぷりに、悲哀を目一杯漂わせる。死因が病気ではなく、薬を買えないことに絶望した自殺だったというところに、「結局、末路はこうなってしまうのか…」とやるせないものを感じさせた。

白血病患者のネット掲示板を管理する女性、劉思慧役の譚卓(タン・ジュオ)はとても小生好みの面立ちであった(笑)。上の写真で中央に坐するヒョウ柄コートの人ね。もっといろんな作品を観てみたいね(笑)。白血病患者で貴州省は凱里の実家から、半ば追い出される形で、今は上海の食肉加工場で働く金髪の不良少年を演じた章宇(チャン・ユー)もよかった。その最期もまた悲しいものではあったが…。ところで、凱里と言えば見逃してしまった映画の舞台ではないか…。悔やまれるね。

ジェネリックの「密輸」で大儲けした面々だが、やがて…

皆それぞれに重たい物語を背負っているのに、どこかコミカルで、それによって物語全体を重苦しくならないようにしていることで、逆にのめりこむことができた。

終盤は「空港子別れの場」「判決の場」「護送車の場」「出所の場」などなど、涙を誘う波状攻撃で前半とは全く違う様相の展開に。監督の手腕も役者もなかなかやってくれるなあと、感心するやら涙ぬぐうやら。

白血病患者にニセ薬を売って富をと名声を得ていた張長林を演じた王硯輝(ワン・イエンフイ)も味のある俳優だった

【辛口評】

「なんか粗探ししてやろう」というひねくれた見物態度はいつものことだが、見事に監督と役者の手のひらで転がされまくったというところ。実に癪に障る。あえて言うなら、そこがよくない(笑)。まあ仕方ないと言えば、そうなんだけど、終盤はやや駆け足だったかな…。

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よく「中国人民は弾圧されている」「自由を束縛されている」と言う。ある一面ではそうなのかもしれない。ただ、小生はこれまで幾度となく大陸に足を運んでいるが、「弾圧」やら「束縛」を感じたことは一度もない。この映画の題材「陸勇事件」なんてのは、多くの日本人が想像している(或いは事実と思い込んでいる)弾圧や束縛があったとしたら、当局に握りつぶされていた話ではないだろうか。いつまでも文革時代の中国のままで認識を停止していては、実像からどんどん遠ざかっていくだけだ。一人の男が国を動かすこともあるという事実にも、是非、目を向けてほしい。「民主化」「自由」「反中共」だけを叫んでいても国はよくならない。(言っときますが、アタシはいわゆる「親中派」じゃないですよw。むしろ「反中派」ですよ。だからこそ色んな角度から中国を眺めないといけないと思うんですよ)

そんなあれこれを改めて感じる作品でもあった。

各賞受賞

第55屆金馬獎
・主演男優賞 徐崢

・新人監督賞 文牧野
・脚本賞 韓家女、鍾偉、文牧野
・ノミネート;作品賞、助演男優賞、衣裳デザイン賞、編集賞
第14届中国長春国際電影節
・最優秀青年助演男優賞 王傳君
第38屆香港電影金像獎
・最優秀両岸中国語映画賞 『我不是藥神』
第10届中国電影監督協会賞
・年度男優賞 王傳君
第32届中国電影金鶏獎
・監督デビュー作賞 文牧野
・脚本賞 韓家女、鍾偉、文牧野
・ノミネート;6部門

(令和2年10月21日 シネ・リーブル梅田)



 


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