【上方芸能な日々 歌舞伎】第六回あべの歌舞伎「晴の会」

歌舞伎
第六回あべの歌舞伎「晴の会」

COVID-19の感染拡大に伴い、2月下旬から次々と劇場公演が中止されていったが、小生が舞台見物から遠ざかってしまってから早や半年が経過した。ここに至ってもなお、感染は一向に収まってはいないが、映画館、プロ野球、Jリーグが感染防止対策を万全にとって再開し、さらには劇場公演も徐々に再開していっているのは、うれしい限りである。なんと言ってもスポーツも舞台は「ナマ」に尽きる。

この日は、「今年は無理やろうな」とほぼ諦めていた近鉄アート館夏の恒例「(そら)の会」公演を見物してきた。同じ日に文楽劇場では恒例の「素浄瑠璃の会」も開催されたが、こちらは従来の約半分に席数を限定したため、チケット「瞬殺」につき、残念ながら涙を呑むことに。

例年、6月に文楽の「鑑賞教室」と「若手会」、7月には松竹座で「大歌舞伎」、文楽劇場の「夏休み公演」、そして8月はこの「晴の会」に「上方歌舞伎会」、文楽の「素浄瑠璃の会」と、歌舞伎、文楽三昧で大変忙しく充実した季節となるのだが…。

そこへ7月に「晴の会」より一通のご案内状が届く。上演時間60分、客席半数ながら、開催できるに至りましたと、うれしい知らせ!そりゃもう、這ってでも行くでしょう(笑)。演目は第一回で大好評だった『浮世咄一夜仇討(うきよばなしひとよのあだうち)』。千寿千次郎松十郎の3人が初演と同じく三人芝居で舞台を盛り上げるというから、楽しみである。

上方落語「宿屋仇(やどやがたき)より
浮世咄一夜仇討(うきよばなしひとよのあだうち)

演出=山村友五郎
監修=片岡秀太郎
作=城井十風 改訂=亀屋東斎 

万事世話九郎 片岡松十郎
紀州屋女中 いさき 片岡千壽
客 源兵衛 片岡千次郎

三方をひな壇状の客席で囲んだいつものスタイル。ここは本当に客席と舞台の距離が近いうえ、役者さんが通路を花道に見立てて「客目線」で登場したり、役者が客との掛け合いを試みたりするなど、見物側としては非常にうれしい形状。以前、『四谷怪談』を「晴の会」で見物した時、運よく最前列だったのだけど、着物の裾をまくり上げたときに見えた役者の足の筋肉が、まるで陸上選手のようだったのに驚き、惚れたもんだ。

最初、チケットの席番を見てもピンとこなかったが、実際に着席すると「やや!これは!」という席。丁度「凹」の字の右上の端っこという場所。『浮世咄一夜仇討』は大道具(笑)が衝立ひとつということなんで、これではその後ろで衣装替えやら何やらしてる役者と後見が丸見えではないか…。ま、それも一興ではあるが…。と思っていたら、ご案内係さんが「あちらへ移動ください」と、もう一ブロック中央寄りに移動と相成る。元の席の背後には大きなビニールシート。芝居が始まってわかったが、その後ろに大向うさんが。ちなみに、今回の上演では大向うさんはお1人限定。

さて、待ちに待った半年ぶりのナマの舞台。「忠臣蔵」が如く、口上人形が役と役者名の口上を行って、芝居見物ムードを盛り上げてくれる。引き続いての序幕では、お染、久松や梅川、忠兵衛、『恋飛脚大和往来』のおえん、八右衛門がざわざわと登場。メンバーは、當吉郎、佑次郎、りき彌、翫政、當史弥、千太郎の面々。本来なら、演目に出演していたであろう「晴の会」おなじみのメンバーだが、上演時間が限られた中ではこのやり方が精いっぱいのところだろう。でも、彼らがほんの少しでも化粧をして衣装を着て舞台に立つ姿を見て、「なんとかここまでのことができるようになってよかった」と、じんわりきた。

本編の『浮世咄一夜仇討』は、なんだか初演時よりのパワーアップした感じで三人の熱演が続き、客席をちょいといじったり、逆に客席から手拍子が起きたりと、この会場ならではの光景も見られ、客数は半分ではあっても満席のような盛り上がりだった。序幕で白塗りだったりき彌などが塗ったままで後見していたのも、狙ったのかそうせざるを得なかったのか、とにかく受けていた。(前回見物時の下記もご参照を)

「一体、いつになったナマの舞台を観れるのかな?」「この状況ではまだまだ難しいのかな…」などと思っていたが、決してパーフェクトな形と言えないまでも、なんとかこうやって再開できたのは、うれしい。パンフにはそれぞれ出演者からの一言メッセージが記されていたが、いずれもがようやく舞台に立てることの喜びがあふれていて、読んでいた胸が熱くなる思いだった。まあしかし、千太郎も大きくなったなぁ…。

そんな「記念すべき」パンフなのに、どうしたことか…。小生、どこぞに落としたのかはたまた、置き忘れたのか…。帰宅して余韻に浸ろうとしたのが、家に連れて帰ることが叶わなかったのは、これぞ痛恨の極みである。どうも最近、忘れ物や落とし物が増えて始末が悪い…。そんなボケる年齢でもないんやけどなぁ(笑)。

とにもかくにも、「やっぱりナマは素晴らしい!」ってことだ。しかし、パンフはいずこに…。

(令和2年8月22日 近鉄アート館)



 


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