殺人的な暑さが続いている8月の大阪。何をする気も起きない。元々、やる気のない人間だから余計に何もしない(笑)。でも、それではあまりにも自分が可哀そうなんで、映画にでも行こうかと(笑)。とは言え、知らない役者が興味のないテーマでやってる映画は、見たくない。なら、何もしないのがよろしい(笑)。と、考えれば余計暑苦しくなるような問答はやめましょう(笑)。
この日は、前々から観たいと思っていた『追龍』を観た。「宇宙最強の男・甄子丹(ドニー・イェン)」と「いつまでたってもアイドル・劉德華(アンディ・ラウ)」の初共演。どちらも長い間、香港映画のトップに君臨しながら実現してこなかった共演だけに、興味津々。香港では2017年に公開されており、3年たってようやく日本でも公開。ま、色々ご事情もあるでしょうが、こういうのはできるだけ早いうちにお願いしますわな。
ってわけで目指すはシネ・リーブル梅田。しかし、大阪駅からここへたどり着くまでの炎熱地獄には、参った。地下の大阪駅ができたら相当楽になると思うけど、まだちょっと先のハナシやね…。
追龍 港題=追龍
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
港題 『追龍』 英題 『Chasing the Dragon』
邦題 『追龍』 公開年 2017年
製作地 香港、中国
言語 広東語、潮州語、標準中国語、タイ語、英語
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):王晶(バリー・ウォン)、關智耀(ジェイソン・クワン)、張敏(アマン・チャン)
監制(制作):王晶、甄子丹(ドニー・イェン)、劉德華(アンディ・ラウ)、王雅琳(コニー・ウォン)
編劇(脚本):王晶、呂冠南(フィリップ・ルイ)、葉銘浩(ハワード・イップ)
動作指導(アクション監督):喻亢(ユー・カン)、元彬(ユン・ブン)、嚴華(ヤン・ホア)
領銜主演(主演):甄子丹
特別演出(特別出演):劉德華
聯合主演(共演):鄭則士(ケント・チェン)、姜皓文(フィリップ・キョン)、劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)、喻亢、湯鎮業(ケント・トン)、胡然(ミシェル・フ―)、徐冬冬(ラクエル・シュー)、黃日華(フェリックス・ウォン)、吳毅將(ベン・ン)、曾江(ケネス・ツァン)、ブライアン・ラーキン(Bryan Larkin)
友情演出(友情出演):周勵淇(ローレンス・チョウ)、伍允龍(フィリップ・ン)
1980年代後半、香港映画の主流は「香港ノワール」。『男たちの挽歌(港/英雄本色)』に代表される、警察と潜入捜査官、黒社会、チンピラ青春記なんぞのバイオレンス色の強い作品群が連発された時代。多分小生が香港映画に一番熱を上げていた時代だろうし、多くの香港映画アニマもそうだったのではないだろうか。日本でも多くの作品が公開され、中でも周潤發(チョウ・ユンファ)主演作は、大作から「なんじゃらほい?」な駄作まで、次々と上映されてはビデオ化されていった時代。
今作『追龍』はそんな「古き良きノワールもの」の黄金時代の香りを漂わせた作品。それだけに小生の期待も大きい。まして監督があのころ『ゴッド・ギャンブラー(港/賭神)』などヒット作を連発した王晶(バリー・ウォン)。あの時代の香りをよく知る監督で劉德華主演作も多く手掛けている。そこに「宇宙最強」の甄子丹が絡んでくるのだから、面白くないはずがない!二人をとりまく共演陣も、安心と信頼の顔ぶれが揃う。これはきっと凄いで!
あらすじ
1960年代、仕事を得ようと中国・潮州から香港にやって来たホー(ドニー・イェン)とその一味は、助っ人としてヤクザの争いに加わったことから警察に捕まってしまうが、ホーの人並み外れた腕っぷしの強さを気に入った警察署長のロック(アンディ・ラウ)に助けられる。やがてホーは麻薬売買で名を上げて黒社会の大物となり、恩義を感じているロックの窮地を助けるなど、敵対する立場ながら二人は固い友情で結ばれていく。 <引用:『シネマトゥデイ』>
つい先日、『葉問』の最終章を観たばかりでの甄子丹の悪役は新鮮。ま、悪役とも言い切れない、感情移入してしまう空間を残しておくってのが、香港ノワールのいつものやり方なんだが。一方の劉德華も警官でありながら、裏社会と持ちつ持たれつの関係を保ち、財を築いてゆくという役。これがやがて汚職取り締まり機関、簾政公暑(ICAC)の設立へ繋がる。この辺を描いた作品は多く、小生は『九龍大捜査線(港/廉政第一擊)』が印象深い。
【甘口評】スクリーンの向こうから吹く「ノワール」の風
何とも言えないあの頃の「ノワール」作品の風が、スクリーンの向こうから吹いてくるのが心地よい。やっぱり王晶はこの時代を知っているなぁと思わされる作風。劉德華が歌う『浪小心聲』も良いチョイス。全編、香港ノワールの王道づくし。
英領時代、黒社会と癒着していた英国人が牛耳っていた香港警察。そんな息苦しい組織の中で、「英国人に楯突くことなく」さりとて「自分を落とすことなく」生き抜いていくための答えとして、劉德華演じる洛哥(ロック)は、潮州人のチンピラ、跋豪(ホー)を味方につけるのだが、お互いに友情を感じうまく流れていた時間というのは、そう長くは続かなく…。物語のベースには実話や実話に基づいた過去の映画作品があるのは、それなりの年代以上の香港人には一目瞭然。小生ごとき香港の端っこにぶら下がって生きてる人間でも「ああ、そうかそうか」と思うほどの親切設定(笑)。
劉德華はこういう役柄をこれまでに何度もこなしているので、観る前からまったく違和感なしなのだが、果たして「いい人、葉問」とか「宇宙最強、アイスマン」などをやってきた甄子丹にダークヒーローはこなせるだろうか?と危惧したが、なかなかのチンピラから麻薬王への華麗なる成り上がりぶりを演じていた。
共演陣も鄭則士、姜皓文、劉浩龍、喻亢をはじめ、達者なところが揃い、存分に「ノワールの風」を吹かせてくれた。とりわけ曾江が元気な姿を見せてくれたのが嬉しい。この手の作品で、そこにいるだけで黒幕的存在を演じられる貴重な超ベテランである。柔和な笑みの奥に潜むダーク極まりない顔、それを感じさせることができるのが、この人の魅力だ。
また、今はなき「九龍城砦」の再現セットが巧妙である。取り壊し前に訪れた九龍城砦は、すでに住民の半数が退去した後だったが、それゆえに廃墟感と危なさが漂う場所だったのを思い出す。まあ、知り合いにはあそこで暮らした日本人もいるんですがね(笑)。九龍城砦もやはり「ノワール」には欠かせない場所なのだ。
【辛口評】役者揃うも、作品には「アク」が不足
全体に「アク」が不足していた。80年代の香港ノワールを再現する必要はまったくないのだが、敢えて言えば観ていて「もうこの先は観たくない!」と思わせるほどの、いやらしい展開が欲しかった。それができる役者がずらっと揃っているのに、勿体なく感じた。恐らく、今の観客の志向に合わせたのだろうけど、だとすれば、香港の映画観客も随分と薄口好みになったんだなぁと思う。それがいいか悪いかは、知らんけど(笑)。逆に、大陸では大ヒットしたというのだから、ま、世の中変わったと言えば、それまでだが…。
作品パンフを見ると、昨年の香港政府&警察による民主活動と言う名の破壊活動の取り締まりについて、あれこれと書かれていた。まあ、流れではそうなるだろうが、そこで「警察ガー!」と言ったところで、この作品の時代とは全く背景が違う。制作されたのが2017年だから、制作側にも意図はまったくなかっただろう。もちろん、そう感じるのは観る者の勝手なのだが、小生にはかなり強引な香港警察批判と受け取ることができた。ネットでいくつかのレビューを見ても、やはり昨年のことに触れるものがほとんどだった。もし、この作品がそうした流れの中で、現地公開から3年を経過して日本で公開となった経緯があったとしたら、それは残念なことだし、そうでないことを信じたい。単純に「ノワールを観たい」と思ってクソ暑い中、シアターへ足を運んだ小生の思いである。
【受賞】
《微博之星2017》ノミネート
微博給力電影『追龍』、微博給力男主角<甄子丹>、微博給力女主角<徐冬冬>
《第一屆MOVIE6全民票選電影大獎》ノミネート
最佳電影『追龍』
《第37屆香港電影金像獎》
受賞:最佳攝影<關智耀>
受賞:最佳剪接<李嘉榮(リー・カーウィング)>
ノミネート:最佳電影、最佳美術指導、最佳服裝造型設計、最佳動作指導
【追龍】前導預告
(令和2年8月4日 シネ・リーブル梅田)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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