【睇戲】『新喜劇王』(港題=新喜劇之王)

暑い季節が到来し、「Virusは暑さや湿気に弱いから終息するはず」などわかったようなことを言ってる人が春先に随分といたが、ひところよりは落ち着いたけど、まだまだしぶとい新型コロナウィルス。「夜の街が…」と強調する某都知事もいるが、「ほな他は『昼の街』かえ?」ということで、どこでどうなるかわかりまへん。くれぐれもご用心を。

と、他人様に用心を促しながら、再開した以上は「これ!」という作品は見逃したくないので、いそいそと映画館へ足を運ぶ。この日は周星馳(チャウ・シンチー)監督作品の『新喜劇王』。「松竹新喜劇と吉本新喜劇で一番エエ役者はだれか?」を競う映画ではもちろんなく、彼が得意とするところの「無厘頭=ナンセンスギャグコメディ」であるのは言うまでもない。一月ほど前に観た『人魚姫』が「う~~ん」というものだったので、「今度は頼みますよ!」と期待を込めて…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

新喜劇王 港題 新喜劇之王

港題 『新喜劇之王』
英題 『The New King Of Comedy』

邦題 『新喜劇王』
公開年 2019年 製作地 中国、香港
言語 広東語吹替
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):周星馳(チャウ・シンチー)、邱禮濤(ハーマン・ヤウ)

領銜主演(主演):王寶強(ワン・バオチャン)、鄂靖文(エ・ジンウェン)
主演(出演):張全蛋(チャン・チュエンダン)、田啟文(ティン・カイマン)

<あらすじ>

奇跡は自分の知らないうちに起こっている…..。
映画女優になる夢を抱くモン(エ・ジンウェン)。しかし、万年エキストラのまま、回ってくる仕事は顔すら映らない端役や死体の役ばかり。ある日、役作りのプチ整形顔がスタッフの目に止まり、かつてのスター俳優マー(ワン・バオチャン)主演の超大作「白雪姫 血のチャイナタウン」に抜擢された。だがマーは演技も性格も最低最悪。過去の栄光にすがるトラブルメーカーだった。落ちぶれ俳優マーと、底辺から脱しようと奮闘するモン。やがて…… <引用Filmarks

【辛口評】周星馳(チャウ・シンチー)監督となると、どうしても期待値が高くなるので、最低でも★は四つほしいところだが、今作は甘く見ても三つが関の山だ。

内容としてはかつてのヒット作『喜劇王(港:喜劇之王 99年)』の女優版という売りだが、よくよく観れば「かつてのスター俳優・マー(演:王寶強/ワン・バオチャン)」の物語という見方もできるし、実際、現地版のポスターなどの「番付」では王寶強の方が上位にある。事程左様に、主役の位置づけが曖昧としていて、小生なんぞはいつもキレキレの功夫アクションを披露してくれる、正真正銘たたき上げの少年少林僧出身の王寶強に、こんなにもギャグセンスがあったんか!と、そっちばっかり観ていて、主役のおねーちゃんにはあまり目が行かなかったというのが実際のところ。

こんなことさらっとやっちゃう少林僧出身アクション俳優が、大好きだ!

今回、劇場公開されたのは広東語吹替バージョンで、王寶強の吹替はC君だった。欲を言えば、ここは周星馳自身にやってもらいたかったところ。監督に専心したのだろうけど…。

エンディングもあまりにも駆け足すぎる。そうなる展開は観る前から想像に容易いところではあるが、あれを5分あったかないかでやってしまうのはいかがなものか?

周星馳に見出され、初主演の鄂靖文(エ・ジンウェン)もまったく悪くはなく、頑張っていたが、彼女が本領を発揮するのはこういう役ではなく、シリアスな役どころではないのかな?と思った。いわゆる「ニン」ではないような…。繰り返すが、悪いことはないのよ。ただ、なんか…。次回、何かに出演するときは殺人現場を見てしまったOL役とか(笑)、そんなんで観てみたいなあ…。

しかし…。使えないエキストラ女優が主役ということであるなら、『新喜劇之王』より『喜劇之女王』の方がタイトルよくないか?と、思った人は相当いたんじゃないかなと思うが、どうでしょう?

【あえて甘口評】1962年生まれの周星馳は小生と同世代。そんなわけでかどうかは知らないが、どこかで必ず小生のツボをしっかり押さえてくれているし、「あ、これは!」と同世代ならではの「集體回憶=集団の記憶」を散りばめてくれているのが、うれしいところ。今作では、この世代の香港人みんな大好きな歌手、陳百強(ダニー・チャン)の『疾風』や、モンの恋人がギターで弾き語りする林子祥(ジョージ・ラム)の『分分鐘需要你』なんぞは、「おおお!」ってところだ。この辺は心憎いな。

大陸では昨年の農暦新年映画として大ヒットした本作だが、香港では評価が芳しくない。結局、懐かしの『喜劇之王』の女優奮闘篇を作ったのはいいが、蓋を開けてみれば香港人俳優はほぼゼロでオリジナル版は普通話。香港人を喜ばせてくれる要素に乏しく、作品テーマの「努力すれば夢は叶う」ということが、まったく今の香港人には響かないのだ。昨年の旧正月にはまだ暴力と破壊の日々は始まっていなかったが、すでに香港は「何をやっても夢は到底叶わない」という時代に入って久しく、受け入れられないテーマだった。

これは大陸の宣材の一つだが「仕事始めだ!努力奮闘」と書かれている。香港人には空々しく聞こえたことだったろう…。小生が香港人だったらそう思ったろうな、きっと。

不評の多くが「結局、星仔も大陸に魂を売ったか!」「もう香港で映画を撮るな!」「完全に大陸向け映画、何がおもしろいの?」というもので、辛辣なコメントが多かった。ま、この辺は小生も思いは同じようなものだが、メジャーどころに関しては、この流れはもう止められない…。間近に迫った「国安法」制定以降、インディーズ作品がどこまでのことをやれるのか、注目はしたいが…。

ま、大陸向けの旧正月作品としては、それなりに面白い映画だが、香港的見地からすると周星馳としては極めて「毒」の薄い、つまんない作品というところか。

周星馳《新喜劇之王》終極預告

(6月16日 シネマート心斎橋)



 


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