三人の夫
港題=三夫
4か月ぶりの映画である。大阪アジアン映画祭以降、「これ見たい!」という作品もなく、この日まで映画のない日々を送っていたのだが、ようやく「これ!」という作品を観られる日が来た。それも敬愛する陳果(フルーツ・チャン)監督の作品である。労務者にはうれしい、午後8時50分からの上映である。シネマート心斎橋のご配慮に感謝せねばならない(笑)。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
港題 『三夫』
英題 『Missbehavior』
邦題 『三人の夫』
公開年 2018年
製作地 香港
言語 広東語
香港電影分級制度本片屬於第Ⅲ級,18歲以上人士收看(=18禁)
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):陳果(フルーツ・チャン)
領銜主演(主演):曾美慧孜(クロエ・マーヤン)、陳湛文(チャン・チャームマン)
『榴槤飄飄(ドリアンドリアン 00年)』『香港有個荷里活 (ハリウッド★ホンコン 01年)』に続く、いわゆる「娼婦三部作」の第3弾。前作から実に18年の歳月を経て、ようやく3作目完成というから、いやはやなんとも「待たされた」って思い。って言いながら、実は前2作、観てないんやけどね(笑)。ごめんな、陳さん。
さすが、「娼婦三部作」の最終章とあって、オープニングの画が、いきなりだ(笑)。いや、エッチのシーンが映し出されたってわけじゃない。それなら、単なるAVフィルムでしかない。わざわざ巨匠、陳果が撮るまでもない仕事だ(笑)。炭火焼きにされて、くねくねと卑猥な動きを見せる鮑…。これからのおよそ100分間にどんなドラマが繰り広げられるのか、期待感いっぱいになる鮑のエロいうねうね…。もちろん「三級片」である。
果たして、作中の約8割の時間、小妹(シウムイ)を演じた曾美慧孜(クロエ・マーヤン)の喘ぎ声を聞くことになるのだが、もはや、そこまでくると、エロを通り越して笑いの世界に突入してしまうから、人間とは面白いものだ。
さて、いつもなら「甘口評」「辛口評」を記すのだが、個人的に面識がある人の監督作品となると、どうもそれは気が進まないので、思いついたことなどを綴っておく。
まず、主人公の小妹と老大(父であり小妹の子供のタネww)、老二(夫2号)が水上生活者ということで、その日常生活ぶりや、海の上から見える香港の町が上手く描かれていた。主に彼らが暮らし、そして小妹に売春をさせていたのが、新界の荃灣(Tsun Wan)。小生が住んでいた香港仔(Aberdeen)にどことなく似た雰囲気。この「船の上の売春」、ちょいと前までは実際にあったらしいが、水上生活者そのものが、ほとんどいなくなった今は、恐らくもう存在しないんじゃないかと思うが、どうなんだろう。
密告により、荃灣の港を追い出された後は、小妹の三番目の夫、四眼仔(メガネくん)も含めて、5人で香港の海を漂いながら、小妹の売春を斡旋する日々となる。懐かしの漁港、香港仔や水上にせり出して家を建てている大澳(Tai O)などを転々とする。
特に象徴的だったのは、拙ブログでも以前紹介した港珠澳大橋(Hong Kong-Zhuhai-Macao Bridge)の足元で、やはり小舟に揺られながら老大が言った言葉。「このまま行けば珠海、引き返すと香港」。終盤、画面はモノクロで展開するのだが、この場面では、小妹だけが赤い衣のようなものを羽織って、風になびかせている。香港が、こんな時期だから余計に色んなことを感じ取ってしまうのかもわからないが、「うーん」と唸ってしまう場面だった。この赤を際立たせるために、終盤はモノクロに転じたのだろうかと思うほど、目に焼き付くシーンだった。
物語は、「海」「陸」「空」の三章構成。上記のシーンはラストシーンでもあり、「海」の締めくくりでもある。海上から見る香港ディズニーランドの花火もめったに目にすることがないだけに、「ええもん見せてもらいました」というところだ。
四眼仔と結婚し、「陸」の生活を始めた小妹だが、そもそもの知能障害と常人離れした性欲も手伝い、「陸」の生活にはなじめず、小妹の果てしなき性欲の前に、ついに四眼仔も「精魂尽き果て」てしまう…。
その四眼仔が祖母と暮らしていたのは、かなり古いタイプの公団団地。「女の喘ぎ声を子供が怖がっている」と苦情が出て、ソーシャルワーカーが訪問しているにも関わらず、板一枚向こうの”ベッドルーム”で、激しくエッチするという構図がおかしくて、小生は笑いをこらえるのに必死だった(笑)。『香港製造』でも同じような団地が舞台になっていたが、このタイプの団地も稀少物件になりつつある…。そういう見方をすれば、海の上の生活者、初期タイプの団地の生活など、貴重なシーンも散りばめられており、香港オタク心を揺さぶってくれる…。でも、やっぱり「喘ぎ声」が(笑)。
作品は、東晋時代(4~5世紀)に起源を持つ半人半魚(字幕では“人魚”)伝説をうまくからませている。「盧亭(ローティン)は伝説の半魚人。盧亭は男を喰らう。見つけたら男根をもって封じるべし」という伝えである。小妹をその盧亭に見立て、男根をもって限りなき性欲を押さえ込もうとするも、三人の夫のうち、「男根が機能している」のは、四眼仔だけ。その四眼仔もすでにギブアップしているということで、ウナギにコンドームを被せて…というシーンは、大爆笑ものなのだが、他のお客がクスッと言わないので、小生は心の中でのみ爆笑した(笑)。
さて、四眼仔が発案したネットによる小妹の「デリバリー」は、大繁盛する。小妹は満たされるし、金もどっさり儲かるし…。しかし、小妹の性欲は一向に収まる気配を見せない。そんな中、大澳で「各予約先」を船で回るが、ここで事件が起きる。ある客先で、ついに、小妹の心が決壊してしまう。このあたりから画面がモノクロに転じる。モノクロというのは、観る者に色以外にも様々なことを想像させる。小生は、小妹の心が決壊した瞬間に、彼女の見える風景が色付きからモノクロに転じたのではないか、などと想像したが、まあ、この辺は観た人それぞれに感じるものが違っただろう。こういうことを考えさせるから、ただのエロ映画、コメディ映画ではないのだ。陳さん、なかなか心憎い。本人に聞くと、そっけない答えが返ってくると思うけど(笑)。
で、先述のラストシーンにつながってゆくのだが、5人を乗せた船はどこへ向かって漂って行くのか…。まさに、今の香港を暗示しているではないか。
さて、出演陣だが、見事に「知らん人」ばかり(笑)。女主演の曾美慧孜(クロエ・マーヤン)の豊満な肉体は、ムッチムチのエロティシズムの塊。役作りのために18キロも増量したというから、役者魂を感じる。一方で何もかも吸い取られてしまう四眼仔を演じた陳湛文(チャン・チャームマン)は、小生の髪を切ってくれている美容院のお兄さんにそっくりで、親しみを感じる。二人とも、体当たりの熱演だった。
第55屆金馬獎
1部門ノミネート:曾美慧孜
第13屆亞洲電影大獎
「最優秀監督賞」他3部門ノミネート
第25屆香港電影評論學會大獎
「最優秀監督賞」受賞:陳果
「最優秀作品賞」受賞
「最優秀女優賞」受賞:曾美慧孜
他1部門ノミネート
第12屆香港電影導演會年度大獎
「最優秀主演女優賞」受賞:曾美慧孜
第2屆最港電影大獎
3部門ノミネート
第二屆MOVIE6全民票選電影大獎
4部門ノミネート
香港電影我撐場民選大獎2019
4部門ノミネート
第38屆香港電影金像獎
「最優秀主演女優賞」受賞:曾美慧孜
他3部門ノミネート
という具合に、非常に評価の高い作品。小生思うに、「さすが、香港のことようわかってはる!」という、陳果でなければ考えも及ばぬ作品だったと思う。
《三夫》(Three Husbands) 電影預告
(令和元年7月19日 シネマート心斎橋)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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