【今年読んだ本 2018】披露するほどではないですが。

これが今年最後のブログとなる。個人的には、この前、こうせつのライブの時にも記したけど、ホンマ「人生にくたびれた」と強く感じた1年だった。

そんな中、毎年同じこと言うが、まさに「天の配剤」と言うべき、数々の本との出会いがあり、くたびれてしまう現実から、少しの時間だけ遠くの世界へ連れて行ってくれる。文庫本の古本なら、わずか100円でそれができるのだから、安いハナシだわな。

誰も楽しくない、正真正銘のこれぞ備忘録だが、拙ブログの恒例行事として、今年も最後は2018年の読書記録で締めくくりとする。「これ!おすすめ!」という10冊には、「読書メーター」に記した感想を若干編集して、感想文をつけておいた。

3億人の中国農民工 食いつめものブルース』 山田泰司
日経BP社 1,944円 1月5日読了
平成30年一冊目は、まずは元同僚の著書で。本書の中で何度か触れらていた「香港の邦字タブロイド紙」で共に仕事をしていた仲である。その彼がいかにも書きそうなテーマだった。小生は、中国を巨大建造物に例えるなら、その土台の土に埋もれた部分を支えるのが、本書が追う「農民工」だと思っている。そんな「農民工」が今、漂流し始めているというのが本書の大きな柱なのだが、まさにそこに、かの国の将来の危うさを感じずにはおれないのだ。農民工たちに目線に合わせて、等身大の彼らをレポートしている書物はなかなか稀有で貴重な一冊。90年代、スーツを着た民工で埋め尽くされた廣州駅の光景が目の前に蘇る。彼らは今…。

13・67』 陳浩基 天野健太郎訳
文藝春秋 1,998円 1月17日読了
昨年、発売と同時に購入。二段組み480ページ建ての重厚さに圧倒され、しばし積読状態だったが、超話題作となったので慌てて御開帳(笑)。このブームは元・香港在住者としては、うれしい限り。作品の出来栄えのよさは勿論だが、在住時のSARSや返還などの実体験や土地勘、文字間から漂う街の臭いや喧噪なんかが、この作品をよりいっそう面白くしてくれた。一介の「お巡りさん」だったクワンからローに連綿と受け継がれてきた「皇家警察」の正義は、時に小生のIDチェックをしてウザいけど、それでも日々、凶悪事件からコソ泥まであらゆる犯罪に立ち向かっている。それにしても、物語の最後の締めくくりは実にお見事! できれば、王家衛による映画化は頓挫してほしい(笑)。

蔡英文自伝 台湾初の女性総統が歩んだ道』 蔡英文 著 劉永毅 構成 前原志保 訳
白水社 2,160円 1月27日読了

うずら大名』 畠中惠
集英社文庫 670円 2月6日読了

笑劇の人生』 芦屋小雁
新潮新書 778円 2月13日読了

信子』 獅子文六
朝日文庫 756円 2月17日読了

キャプテンサンダーボルト上』 阿部和重、伊坂幸太郎
文春文庫 778円 3月4日読了
キャプテンサンダーボルト下』 阿部和重、伊坂幸太郎
文春文庫 756円 3月10日読了

飛田ホテル』 黒岩重吾
ちくま文庫 886円 3月22日読了
中学生から大学生にかけての最も多感な時期に、読みふけった黒岩重吾の「西成、飛田もの」の中でも、一番好きだった『飛田ホテル』がこの度、復刊されたのでおよそ40年ぶりに読んだ。古代小説を書く以前の作者が好きなのは、今作でもいっぱい出てくる天王寺を核とした、僕の生活圏の生々しい情景描写にある。「H線飛田駅」とか「阪和線南田辺」とか…そんな身近な土地が舞台となった、底辺の女性や悲しい運命の女性の物語に、10代~20代の僕は衝撃を受けたのであった。今、改めて読んでみても、泥の底から鈍い光を放つ魅力を感じる。ちくま文庫には黒岩作品の続々復刊を望む。

餓鬼道巡行』 町田康
幻冬舎文庫 648円 3月28日読了
1年に少なくとも1冊は読まないと、禁断症状に見舞われる町田康。大阪市内南側の出身で、同年代で、浪曲や落語や文楽が好きというから、親近感もあるのだけど、まあ、不思議な人ではあるわな。で、この本は、一種のグルメガイド、レストラン紹介の書なのである。それも「おどま」が脳内を蝕む人向けの、かなりターゲットを限定した書である。この普通に読むと、奇怪なる文体を高速で読み終えてしまう自分が、冥府魔道に生きる人間に思えてしまうから、町田康は恐るべき伝道者である。それにしても、外食とは実は家メシよりも面倒だと言うことを、よく説いてくれていて、断然家メシ派の僕にとって、この書はかけがえのない一冊となった…、ってなことはない(笑)。

純白の夜』 三島由紀夫
角川文庫 562円 4月14日読了

遠霞ノ峠 ─ 居眠り磐音江戸双紙 9』 佐伯泰英
双葉文庫 700円 4月23日読了

ワイルド・サイドを歩け』 東山彰良
光文社文庫 799円 5月6日読了

阪堺電車177号の追憶』 山本巧次
ハヤカワ文庫 691円 5月20日読了
昭和8年投入以来、現役最古参の旅客電車として活躍する、阪堺電車のモ161形177号車(実在はしない)が主人公?。一応、ミステリーだが、大阪の文学らしく、全体に古き大阪の情が満ち溢れ、温かさに包まれる。高2の秋まで、我が家の近くを走っていた阪堺電車(当時は南海平野線)が地下鉄に取って代わられた最初の朝の、なんとも言えぬ喪失感が思い出されて、しんみりする。今では年に1回、優勝記念とかの名目つけて、古参のホークスファンで161形を貸切って恵美須町~浜寺駅前往復を楽しんでいる。あの161は、そんな僕らを見て、何てつぶやいているのかな…と、想像も膨らんだ。

まったなし』 畠中惠
文春文庫 702円 6月4日読了

八九六四 「天安門事件」は再び起きるか 安田峰俊
KADOKAWA 1,836円 6月27日読了
1995年に香港生活を始めたきっかけの一つが、「香港から六四を観察する」だった。香港人の六四に対する意識の変化を目の当たりにしてきたので、本書に登場する人物たちそれぞれの意識の変遷には、「やっぱりなぁ…」「こういうことやよなぁ…」と頷くしかなかった。香港の活動をリードする支連会の迷走ぶりはひどいもんだが、もはやそれを止めることは、ほとんど不可能だろうと、確信に近いものも感じた。中国が経済的に発展した今、別に「建設民主中国」を唱える必要はなくなった。本書のサブタイトルへの小生の回答として、もはや「『天安門事件』は再び起きない」と言っておく。

火星に住むつもりかい?』 伊坂幸太郎
光文社文庫 842円 7月20日読了

箱根山』 獅子文六
ちくま文庫 950円 8月7日読了

大川契り―善人長屋―』 西條奈加
新潮文庫 680円 8月21日読了
シリーズ3作目。やはり今回も「悪いことは良くない。しごく真っ当な建前だが、それを振りかざせば、すべてがすっきり片付くわけではない。この世はもっと混沌としていて、善悪の区別もまた、まっすぐな一本線で分けられるものではなく、溶け合った蠟のように判別の付きにくいもの」という1作目からのポリシーが貫かれていた。このシリーズが好きな最大の理由はそこにある。特に今回はお縫の家族の物語を通して、それが反映されていた。お俊さんの過去、儀右衛門とのなれ初め話に向けて、各章に伏線が散りばめられていた。続編も楽しみに待ちたい。毎回、きれいな表紙絵もたのしみのひとつである。

西成山王ホテル』 黒岩重吾
ちくま文庫 886円 9月11日読了
ちくま文庫による黒岩重吾「西成、飛田もの」復刻第二段も、第一弾同様に40年くらい前に耽読した作品。いずれの短編も救いようのない、人生の底辺が描かれているが、それはまた、誰もが内に持っている弱さや脆さ、危なさだということを、年齢を重ねた今、再び読んでみると痛いほどよくわかる。作品に描かれているような風景はあの界隈には今はもうなく、解説で花房観音が嘆くように、弱い人間を受け入れてくれる場所が大阪からなくなりつつある。だからこそ余計に、登場人物たちへの愛おしさが増すのである。次は何を復刻してくれるのか、楽しみでならない。

陽気なギャングが地球を回す』 伊坂幸太郎
祥伝社文庫 679円 9月17日読了

青空感傷ツアー』 柴崎友香
河出文庫 508円 9月26日読了

朝虹ノ島 ─ 居眠り磐音江戸双紙 10 』 佐伯泰英
双葉文庫 700円 10月7日読了

活版印刷三日月堂 庭のアルバム』 ほしおさなえ
ポプラ文庫 734円 10月15日読了 

陽気なギャングの日常と襲撃』 伊坂幸太郎
祥伝社文庫 710円 10月22日読了

戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』 川島博之
講談社+α新書 920円 11月4日読了

鯨分限』 伊東潤
光文社時代小説文庫 842円 11月18日読了
前作『巨鯨の海』の最終章の主題だった「大背美流れ」を、八代目太地鯨組棟梁太地覚悟を中心据えて描く。若き日の覚悟と、歴史的な大遭難事故に窮地に立つ覚悟、それぞれの懊悩、決断を行きつ戻りつしながら展開する構成に、のめり込んでしまう。前作では、まったく実像が描かれていなかった覚悟だが、これほどまでにダイナミックな生涯を送っていたことに驚かされ、一気にその魅力の虜になってしまった。高杉晋作や坂本竜馬との邂逅も、物語を面白くさせ、覚悟のスケールの大きさを表すことに生かされており、作者の上手さも感じる。『巨鯨の海』読了後「久々に太地に行きたい」などとほざいたが、まだ行ってない(笑)。だから、今度こそは必ずや!

青空娘  源氏鶏太
ちくま文庫 799円 12月2日読了
源氏鶏太という作家の名前は、何十年も前から知ってたけど、作品を読むのは初めて。題名の通り、どこまでも青く澄みきった物語。当時の『明星』読者にウケたのもよくわかる。主人公有子の「あたしは、いつでも、どんな雨風の日にでも、その雲の彼方に青空があるのだ、と信じて来た」という言葉が、作品を貫く。それにしても、継母親子と、就職先のドラ息子・新一以外の人たちが、あまりにも親切すぎて、気味が悪いほどだが、思えば、昔は世の中みんな親切だったよな…と。でもまあ、いわゆる「大衆小説」はこれくらいの塩加減がちょうどいい。とにかく、「感じのいい物語」と呼ぶにふさわしい作品。

愛の疾走』 三島由紀夫
角川文庫 648円 12月14日読了

陽気なギャングは三つ数えろ』 伊坂幸太郎
祥伝社文庫 745円 12月29日読了 

ということで、今年の読書ライフは、敬愛する伊坂幸太郎で締めくくったという次第。

まあ、見返すと、中華社会事情、伊坂、時代物、三島が中心なのは相変わらずだが、嬉しいことに“ちくま文庫”から、中高時代に耽読した黒岩重吾の懐かしい作品群が、復刻されたので、さっそく飛びついたという1年。町田くんと柴崎友香も、すっかりレギュラー陣(笑)。さらに源氏鶏太という新たなお友達もできた(笑)。

数にしたら、ちょうど30冊。例年に比べて少なかった。先日挙げた「今年観た映画」の本数も例年より少なかった。こういうのって、やっぱり日常に「心のゆとり」がない証拠なのかもしれんねぇ。振り返れば、そういう1年だったということだ。仕事に忙殺されていても、年に50本映画も観て、50冊以上本を読んでいた年もあったわけだから、忙しいとか暇だとかは、関係ないわけで…。

というわけで、来年はもう少し穏やかな心で、過ごしたいなと、映画と本の1年を振り返って、反省と決意をした平成最後の年の瀬であったとさ。

ってことで、今年もこのブログをお訪ねいただき、ありがとうございました。新しい年も、時々は覗きに来てくださいな。毒にも薬にもならないウダ話の連続ではありますがね(笑)。

では、どなたさんも

新年快樂!



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