近鉄南大阪線新型特急車両
「青の交響曲(シンフォニー)」試乗会
南大阪線、久々の新型特急車両投入!
まあこれねえ、大阪以外の人にはピンとこないかもしれないが、近鉄のドル箱は名阪特急と伊勢志摩特急であり、阪神との相互乗り入れの奈良線の通勤車もまたドル箱なのだけど、実は南大阪線&吉野線の特急も「準ドル箱」なのである。
吉野と言えば何と言っても桜。下千本から奥千本まで、けっこう長期にわたって花見を楽しめる。で、この時期の同線特急はいつも満杯のお客を乗せて走っているわけだが、それ以外の時期は「空気乗せて」走っているみたいなもんで、編成も2両と寂しい。その打開策の一つなのか、昨今の「世界遺産」ブームに便乗しようという目論見なのかはわからんが、近鉄は9月10日から同線に 同線では初めての観光専用特急「青の交響曲(シンフォニー)」を運行する。それに先立って、「有料試乗会」が行われたので、日々、同線を利用するヘビーユーザーとしては行くしかないだろうってわけで、冷めていた「鉄おた」心が久々に燃えてしまい…。
6200系の休眠車をアコモデーション
近鉄南大阪線利用者なら、鉄おたでなくとも一目瞭然なのだが、通勤車両のアコモデーション、すなわち改造車である。だから、わーわー言うほどのもんでもないだろうと甘く見ていたのだが、いざ乗車してみると、こいつはまいった。どこをどうやって、こんなに豪華でしゃれた列車に作り直したのだろう? これが元々は ラビットカー の一連の車両だったとは、わが目を疑うばかりである。つまりは、毎日乗ってる車両が見事に生まれ変わっていたわけで、素晴らしいではないか。
このあたりの側面のあしらい方は、小生的にはオリエント・エクスプレスを思い浮かばせるものだが、昨今はこういうのが流行っている。シックな車両は、駅構内を自転車が行き交う阿部野橋駅には似つかわしくない…、と言ってしまうと元も子もないのだが(笑)。ちなみに、メタリック塗装は近鉄の車両初めてのこと。
編成と車内設備
列車は3両固定編成。先に記したように通勤車6200系=ラビットカーの休眠車の改造である。この計画が持ち上がった時、「4両では長すぎる、さりとて2両では何もできない…。そんなときにたまたま3両編成の休眠車があって」ということらしい。車両の保有台数が私鉄では日本一の近鉄。なんぼでも手ごろな車両は転がっているということだ(笑)。
吉野方面先頭車が3号車で客席、2号車がラウンジ、1号車は客席。実質定員は65人。座席配置は吉野に向かって右側2列、左側1列で、非常に贅沢な配列となっており、狭軌車クロスシートの窮屈感は全く感じない。2列ごとに中央にテーブルを配した対面型の「サロン席」が設けられており、この特急を利用するであろう中高年のグループ旅行に嬉しい仕様となっている。というか、そういう層に向けた特急なのであるから当然か。
テーブルは勿論のこと、車内装飾のいたるところに木材や竹材が用いられていて温かみがある。
ラウンジ車には20人が乗り込める。バーカウンターが設けられており、フルーツ天国とでも言うべき沿線の特産品を使ったスィーツやアルコールが用意されている。
2号車のエントランスにはライブラリーも。何気に目立つように(笑)、この車両が特集された『鉄道ファン』が並んでいるのはご愛敬。また、ライブラリーの前には、街角をイメージしたというベンチが。けど、このベンチで『鉄道ファン』を食い入るように読む人には、あまり出くわしたくない(笑)。
ドアの天地いっぱいに窓が取られているが、これはお小さい皆さんには喜ばれるだろう。ちょっと南海の「天空」を意識した?
停車駅など
停車駅は、従来の特急とまったく同じ。あべの、尺土、高田市、橿原神宮前、飛鳥、壺阪山、吉野口、福神、下市口、六田、大和上市、吉野神宮、吉野。所要時間も変わらない。改造にあたっては、足回りはほとんどそのままなので最高速度は時速110キロと伸びないが、そもそもがラビットカーの流れなので意外と加減速の素早さに優れているということになる。南大阪線~吉野線の路線事情からすれば、そのほうが都合がよいだろう。
吉野川を越えれば、もうすぐ吉野。ちなみに、窓枠も原型をほぼそのまま活用しているとのこと。近鉄特急の特徴として窓が大きいというのがある(らしい)が、「青の交響曲」は通勤車両の窓そのまま。が、それほど小さいとは感じない。高さもちょうどいい。伊勢志摩特急と違い、太平洋の大海原を満喫するという旅ではなく、車窓風景的にはこれという見せ場もないのでこれで十分。
それにしても、沿線には撮り鉄多数。ベランダで洗濯干してた主婦まで携帯構えてるのには笑う。郊外に出れば、野良仕事の手を休めて携帯構える農民も多数。沿線住民には相当なインパクトを与えている模様。
少年少女がとにかくどのお子も皆、笑顔で手を振る姿が喜ばしい。子供は電車が大好き。
真新しい車体に「Blue Symphony」の金文字も鮮やか。駅周辺の緑もよく映えていて美しい。
いまやゆるキャラなしでは世を語れない時代か? 吉野のお山にも「吉野ピンクル」なるお方がおはします。
10時20分に阿倍野を出発して、お昼前には吉野に到着。近いのか遠いのか何とも判断しにくい距離と所要時間。特に山岳路線を車輪をキーキー鳴らしながら行くわけでもなく、車窓風景も先述の通り売りになるものもなく。となれば、やはり「空間」で勝負するしかない。そこでこの「青の交響曲」の登場となるわけだ。この居住空間と贅沢なひとときを提供してくれる列車が、その「つまんない」沿線風景をフォローしてあまりある時間を乗客に提供するのかどうか? 今日のような「鉄おた」でない一般利用者が答えを出してくれるのは、いよいよ9月10日からである。
吉野大峰ケーブル自動車で吉野山を目指す
吉野からロープウエイでさらに上を目指す。えっちらおっちら歩いて登る手もあるが、まだそれをできるほど気候は優しくなく、厳しい日差しが容赦なく照り付ける。で、お手軽にロープウエイでと相成る。近鉄とは何ら資本関係がない「吉野大峰ケーブル自動車」による運行。鉄柱などは昭和3年開業当時のままで使用されており、2012年には「機械遺産」に認定 されている。ちなみに、近鉄吉野駅に隣接する駅は「千本口」、お山の上は「吉野山」という駅名。
吉野の象徴、金峰山寺蔵王堂
吉野山駅からブラブラ10分ほど歩くと、金峯山寺に到着。こちらは 秘仏「金剛蔵王権現三体」がつとに有名で、11月19日から12月11日までは「青の交響曲」運行慶讃特別御開帳となり、そのお顔を拝することができる。この日は、ご三体が鎮座まします蔵王堂自体が、得度式のために非公開となっていたため、「そうなれば御開帳に合わせて『青の交響曲』でまたお参りするしかないでしょう」という「お導き」が(笑)。
実に立派な蔵王堂。白鳳年間に、役行者が創建されたとの伝えあり。現在の建物は天正20年(1592)頃に完成したもの。大正5年から13年にかけて、解体修理が行なわれ、昭和55年から59年にかけて、屋根の桧皮の葺き替えを主とした大修理が行われている。小学5年の時、遠足で来た覚えアリ。で、今回の吉野はその時以来で実に42年ぶり(笑)。
建武中興に翻弄された護良親王ゆかりの地
蔵王堂前には、「大塔宮御陣地」の石柱とともに有名な「四本桜」が。大塔宮こと護良親王(もりよししんのう / もりながしんのう)は、後醍醐天皇の皇子でその生涯は、建武中興をめぐる歴史に翻弄されたと言える。吉野と言えばやはり南北朝の歴史物語にまつわるれあやこれやも数多く、興味は尽きないのだが、日本史の中ではこの辺の時代が超苦手であるからできればスルーしておきたい(笑)。
また「大塔宮」については、浄瑠璃の『大塔宮曦鎧(おおとうのみやあさひのよろい)』を聴くとよろしいかと。
ま、そんな塩梅で、「金剛蔵王権現三体」にはまたお参りしますよ。
(平成28年9月4日 大阪阿部野橋~吉野、金峯山寺)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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