舞踊
第百四十四回 都をどり
昔はよく京都に来たものだが、最近はめっきり回数が減ってしまった。今回は実に5年ぶりの入洛となった。前回は…。「合コン」です(笑)。50過ぎてまだ合コンかと笑うことなかれ、やはり楽しいもんでござるよ(笑)。成果?そこはまあ…。
今日は合コンでは決して味わえない京都のお楽しみをたっぷり堪能。というか、男子に生まれたからには(別に女子でもOKよ)一度は、「自分の金で」遊んでみたい京都の花街での高級なひとときを、舞台を通じて体感してきた。
久々の京の街は、いつものように京阪特急で。京阪で行くのがやっぱり上洛気分を満喫できる。途中の駅名がもう平安絵巻なのよ。八幡とか淀とか中書島とか伏見桃山とか墨染とか深草とか伏見稲荷とか鳥羽街道とか…。終点の出町柳なんてなんと情緒ある駅名でありましょう。
「都をどり」の会場となる祇園甲部歌舞練場の最寄り駅は、祇園四条。駅から地上に出れば、トップの写真にある賀茂川の風景が出迎えてくれる。そして、恒例に順い、南座隣の松葉で名物「にしんそば」を食す。暑かろうが寒かろうがとにかく熱い蕎麦。
四条通を八坂さんに向かってぶらぶらしながら、目指すは祇園甲部歌舞練場。
ご存知の通り、京の街には「五花街」と言われるように花街が5ヶ所ある。祇園甲部、宮川町、祇園東、上七軒、先斗町。祇園甲部は、いわゆる祇園と呼ばれるのは多くの場合はこの界隈を指すようで、昨今は着物姿の外人観光客も目立つ。そのためか、総体的にざわざわした感じがして、意外と落ち着かない。五花街それぞれに歌舞練場やそれに相当する施設があって、祇園甲部の「都をどり」同様に日ごろのお稽古ごとの総力を結集させた舞台公演を行っており、この時ばかりは小生のようにお座敷遊びとは縁遠い人も、舞妓、芸妓の芸の粋を間近に見ることができる。
50数年の人生で初めての祇園でのお遊び(笑)は、今回で144回目となる「都をどり」の見物。上述の通り、花街それぞれ同じように年に1回の舞台披露を行っているが、都をどりを選んだ理由は、舞踊の流派が京舞井上流であること、「よ~いやさ~」の開演の発声をナマで聴きたかったこと、ネットでチケットが購入できること、そしてこれ重要、JR駅にあった公演チラシをたまたまた手に取って「お、ええやん」と思ったこと。絶大なる広告効果ですな(笑)。
そして都をどりと言えば、この鮮やかな水色のお召し物。茶会会場への動線上に実物が展示されており、「おお~~!これこれ、この色!」と、とてもミーハーだから大感激したのは申すまでも無き事。
その茶会では、実際に芸妓さんが点てたお薄をいたくことができる。「ええわ~、芸妓さんきれいやわ~」、芸妓さん(この回は豆まるさん)のお薄、結構なお点前でございました。嬉しいのは、そのお茶を舞妓さんがお運びしてくれること。これまた「ええわ~」である。素敵な団子皿に載ったお団子も御馳走になり、大喜び。
ちなみにこの団子皿、お持ち帰りくださいとのことなので、この日のよき記念品。タダで物をもらうと「また来年も」と思う現金な小生(笑)。
会場の祇園甲部歌舞練場は、収容人員約900、客席両脇に桟敷席を挟んでの「両花道」があり、単なる稽古場にとどまらぬ立派な劇場の様相である。
明治6年、花見小路通西側にあった建仁寺塔頭清住院が歌舞練場として改造され、第2回都をどりから使用される。大正2年、現在地に移転し、昭和25年から3年間、修理のために南座で上演された以外、都をどりは毎年この歌舞練場で上演され続けている。
さて、いよいよ開演。
やや? 花道脇の桟敷席に幕が…。「ここにはお客入れへんのかいな?」という疑問は、例のあまりにも有名な開演の発声「都をどりは、よ~いやさ~」の声ととともに解消された。下手桟敷には舞妓さん芸妓さんによる囃子方が居並び、反対側には祇園甲部地方(じかた)連がずらり。そして花道には芸妓、舞妓20名が団扇(だんせん)を手に登場する。
舞台は全8景。まず第1景は「置歌(おきうた)」という舞台で、これから始まる都をどりの見どころを唄で紹介。もちろん、さきほど花道から登場した皆さんが舞台に並んで艶やかな舞を披露。一気に盛り上がる。外人さんも大喜び。
今年のプログラムはこういう感じ。
都をどりは初演から総踊り形式で全国の名所の春夏秋冬を長唄や踊りで表現するスタイルだが、1915年(大正4年)から、「別踊」という中挟みの場面が新たに設けられ、内容がより充実したものとなる。
今回注目していたのは、その別踊の第四景「春日造替祝舞楽」と第五景「落窪姫末繁昌」。今年は、春日大社第六十次式年造替正遷宮の年ということで、「春日造替祝舞楽」ではそれを祝した舞楽調の長唄に乗って、青海波の装束の名取芸妓が雅やかに舞う。いやもうねえ、うっとりですよ、これ。光源氏も頭中将(『源氏物語 第七帖「紅葉賀」』による)もうかうかしてられないね(笑)。
一方の「落窪姫末繁昌」は、耳になじみの浄瑠璃で。やはりベタな大阪人には、太棹の響きがしっくりとくる。『落窪物語』を浄瑠璃でやると、こうなるというものだが、ま、ハッピーエンドでよかったね。浄瑠璃らしく「戻り」できちっと締める。床は女義太夫の第一人者がズラリということで、大変有意義な聴きどころ。
途中休憩なしで、あっと言う間に第八景に。今年は姫路城を背景に総踊りできらびやかに締めくくられた。上演時間約1時間。お茶券付き4800円を高いとみるか安いとみるか、はたまた妥当とみるかは人それぞれ価値基準が違うから何とも言えないが、小生はこれは「安い」と感じた。恐らくは、こういうことに価値を感じる年齢になったということだろう。「歳をとった」というよりは、ようやく良いものを見て聴いてということの面白さがわかってきたということかな? そういうことにしておこう(笑)。
4月30日までやってます。どうぞみなさん、おこしやす。
(平成28年4月16日 祇園甲部歌舞練場)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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