恐怖分子
(台題=恐怖份子)
ようやく大阪アジアン映画祭から解放された三月の三連休だが、それはそれでまたなんかつまんないのである(笑)。まあ、人間なんておよそこんな具合に勝手なものである。
「どこかでおもろい映画やってないかな~」と、あれこれ探してみるも、邦画やいわゆる洋画にはほとんど興味なく、作中の会話が広東語や台湾なまりの中国語普通話でないと落ち着かない(笑)。もうそういう体質になってしまっているから仕方ない…。困ったもんであるけど…。
で、見つけたよ。いつもなかなか渋いラインナップを展開しているミニシアターで、年に2,3回は行くシネ・ヌーヴォ、シネ・ヌーヴォX。なんと楊徳昌(エドワード・ヤン)監督作品の『恐怖分子』を上映しているではないか!これは見逃してはならないと、九条へGo!
『恐怖分子』は実は、日本語字幕のないレーザーディスクを持っていて、家で何回か観ているが、レーザーディスクの再生機はすでに我が家になく、悲しいかな、30数枚のディスクは天井裏の収納庫でほこりをかぶっているのである。昨年の大阪アジアン映画祭でも上映されたのだが、まったく時間帯が合わず断念。その後、十三の第七藝術劇場でも上映されたが、「行かなあかん」と思っているうちに上映期間は終了。どこまで縁がないのか…。非常に印象に残る作品だっただけに、これはもうアマゾンに頼るしかないなと思っていたら、シネ・ヌーヴォXよ。そりゃ飛んで行くわな。
身の上話はここらで留め置きまして。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
台題 『恐怖份子』
英題 『Terrorizers』
邦題 『恐怖分子』
現地公開年 1986年
製作地 台湾
言語 標準中国語
評価 — (30年経過した作品なんで、評価もへったくれもない)
導演(監督):楊徳昌(エドワード・ヤン)
領銜主演(主演):繆騫人(コラ・ミャオ)、李立群(リー・リーチュン)、金士傑(チン・シーチェ)
演出(出演):顧寶明(クー・パオミン)、王安(ワン・アン)、馬邵君(マー・シャオチュン)、黄嘉晴(ホアン・チアチン)
1980年代終盤から90年代にかけての台湾映画界は、「台湾ニューシネマ」とされる世代の映画人が台頭し、新しい時代の始まりを感じさせた頃。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督とともに、この新しいうねりをリードしてゆくものと思われたが、台湾の観客の眼は当時絶頂期にあった「香港ノワール」に向いており、また、日本映画や日本のアニメ作品も人気が高かったようで、地元の有能な人材が作り出す「ニューシネマ」は必ずしも日本でもてはやされるような状況には至らなかったというのは、先日観た『あの頃、この時』(台題=我們的那時・此刻)でも語られている。
残念なことに、楊徳昌(エドワード・ヤン)はようやく活況を呈し始めたここ最近の台湾映画界に、その作品を送り出すことができずに、2007年6月29日、療養先の米国・ビバリーヒルズで息を引き取った。享年59。存命であれば、昨年のアジアン映画祭には、『恐怖分子 デジタルリマスター版』上映記念として来阪していたかもしれないと思うと、さらに残念ではあるが、人の一生なんてこんなものなんだろうと思ってしまう。
楊徳昌はこの『恐怖分子』もさることながら、小生が「楊徳昌、すげ~!」と感心したのは、1991年の『牯嶺街少年殺人事件』(原題同じ)である。ストーリー、映像美、主題歌のいずれをとっても完成度の極めて高いものだった。こちらはどういうわけかDVD、BLはなく、これまた天井裏でほこりをかぶっているLDしかこの世に存在しないとかで、死ぬまでにもう1回観られるかどうか…。
日本では『ヤンヤン 夏の想い出』が一番有名かな? こちらは台湾では正式上映されていないという謎の作品。とてもいいストーリーなのに、台湾の人たち気の毒にねぇ。結局、生涯で8作品しか遺していない楊徳昌だが、これが果たして多いのか少ないのか妥当なのかは、今となっては本人に聞くことはできないから想像するしかないのだけど、多分、存命だとしても、さあトータル15本もいっていないと思う。これまでの作品を観れば、そんな気がするなあ。
さて、『恐怖分子』だが、最近は中国語でこの言葉を検索すると、間違いなく「テロリスト」が上位にヒットする。今や恐怖分子と言えば、テロリストのことになってしまったが、30年前は恐怖分子と言えば間違いなくこの作品のことだった。また、決してホラー映画ではないので期待していたかもしれない人いたら、まことに相すまぬ次第。ただ、人間そのものというのが、ホラー映画をはるかに凌駕する恐ろしさを持っているというのは、この作品でよくわかる。
筋自体は、一見、複雑なようだが、家路につく地下鉄の中で色々と整理していると、単純明快なことに気づく(遅いかw)。何がいいかって、垢抜けする以前の台北の街や人、そして何よりも必要以上に効果音やBGMを使用していないこと。そのBGMは、プラターズの『煙が目にしみる』が唯一だった。こういうのが非常に気に入っている点。余計な音がないことで、心の奥底にセリフ(言葉)が残像として残る。観ていて心理的な不安定を覚える。ここが「実はホラー映画よりも怖い」点なのかもしれない。
随所に映像美あふれる『恐怖分子』で最も印象的な映像は、このシーンだろう。効果音やBGMと同じく、必要以上の「色」のない場面にモノクロームの分割写真が白い壁に大きく貼り出されている…。これはもうねえ、ドキリとするしかないよな~。女主演の繆騫人(コラ・ミャオ)と同等あるいはそれ以上に印象に残る表情を見せた彼女、王安(ワン・アン)というのだが、この作品がどうも唯一の出演作品っぽい。情報がほとんどないので知ってる人いたら教えて! 知ったからどうなるというハナシでもないのだけど(笑)。
ところで…。
およそ30年前に『恐怖分子』を観たときに、今回と同じように観ることができたかというと、決してそういうわけではなかった。まあ、まだまだ人間が浅はかだったというかなんというか、何かにつけて未熟だったのだろう。「うまいこと撮ってるなぁ」とは思ったものの、正直「退屈な映画」という印象だった。あの『非情城市』でさえそういう感想を持ったわけだから、まあはっきり言って「人間がデキてなかった」ということに尽きるだろう。そういう意味でも、今回、久々にこの映画を観ることができたは、自分的にも大きな意味を持っていると言えるだろう。
成長したなぁ~、俺(笑)。
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(平成28年3月20日 シネ・ヌーヴォX)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。