『最愛の子』
(港題=親愛的)
世は農暦新年の「爆買い」旅団ご一行を迎え、大賑わいである。
日本へは年に何回もやって来る香港人、台湾人の旅慣れた連中とは違い、一族総出でやって来る集団も少なくはない大陸人たち。当然、子供の旅行者も目立つ。幸せでいいね…。と、この映画を観たら余計にそう感じてしまう。それくらいに息苦しく、また、中国の現実をしっかり伝えている。陳可辛(ピーター・チャン)が中国社会そして世界に投げ掛ける話題のそして問題の作品。これは観ていてきつかった…。
中国では年間1万人もの子供が行方不明になっているが、これはあくまでも中共政府の発表した数であり、実際には20万人と考えられている。行方不明の実態のほとんどは、誘拐、それに伴う人身売買と思われる。なぜこのような驚くべき数の子供がさらわれゆくのか? そのすべてを「一人っ子政策」の行きつくところと結論付けたいのは、遠巻きにかの国を眺めている我々日本人であって、陳可辛自身はそこは否定している。彼は、その「一人っ子政策」によって子供を一人しか産めないことが引き起こす、中国古来の(もしかしたら日本もそうか)男尊女卑の価値観こそが問題だと考える。
また「一人っ子政策が悪いんだ!」的なスポットのあて方だと、間違いなく本土では検閲は通らない。この作品がなぜ検閲を通過し、大きな反響を呼んだのか…。そこが陳可辛が世に投げ掛けたかった点である。
この作品は、実際に起きた誘拐事件をベースに制作された。それだけに、中国という国及び深圳という今や国内で最も豊かな都市となった、それでいて「張りぼて感」がいまだに払拭できない改革開放政策の残滓のような都市で、いつ何時自分の身内に起きるかもわからないことが描き出されている。離婚、誘拐を扱った作品なのに、サスペンス的な感想を抱かせなかったのは、そこだと思うし、また陳可辛の腕だと思った。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
港題 『親愛的』
英題 『Dearest』
邦題 『最愛の子』
現地公開年 2014年
製作地 香港、中国
言語 標準中国語、陝西方言、安徽方言、広東語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督): 陳可辛(ピーター・チャン)
領銜主演(主演):趙薇(ヴィッキー・チャオ)、黄渤(ホアン・ボー)、佟大爲(トン・ダーウェイ)、郝蕾(ハオ・レイ)、張譚(チャン・イー)、張雨綺(キティ・チャン)
【甘口評】
上述のように、陳可辛の手腕にまず唸らされた。彼の監督作品では『風塵三侠 (日本未公開)』、『新難兄難弟 (邦題・月夜の願い)』、『金枝玉葉(邦題・君さえいれば/金枝玉葉)』、『甜蜜蜜(邦題・ラブソング)』などがお気に入りだが、今回はそれらとはガラッと様相が違う深刻な社会派もの。陳可辛ならそつなく作り上げるだろうとは信頼してはいたが、ここまでがっしりしたものになっていたとは。
役者も趙薇をはじめとする主演級はもちろん、子役に至るまで非常に熱のこもった良い演技を見せてくれていた。実の親子の情愛、育ての親子の情愛(たとえ誘拐されてきた子であっても…)に大きく心を揺さぶられる観客が多いが、小生は、兄も妹もどこかから連れてこられたにもかかわらず、実の兄妹となんら変わらない強い心の結びつきがあることに、心揺さぶられた。幼い二人の兄妹愛には泣かされた。
そして結末には、してやられた…。
【辛口評】
★5つの満点でもかまわなかったのものをあえて4つにしたのは、他にも同じ意見の人がいたんだけど、誘拐されて連れてこられた家庭で、すでにその家の子として育っている子供を、育ての親の目を盗んで連れ出す実の両親は、これはこれで誘拐にはならないのか? ということに疑問が残る。
またすでに物心ついていた子供が、連れ去られた先ですっかりその家の子として育って行くものなのか? というのも、「物事がうまく展開しすぎでは?」と思った。が、この作品は実際の事件をベースにしているということだから、そういうものなんだと、自分を強引に納得させたわけだが…。
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陳可辛は、将来的には「黒孩子」と言われる無戸籍の子供(8000万人とされる!)について描いてみたいと言う。再び、我々の想像を絶する中国の子供たちの現実を目にすることができるのを楽しみに(とは言いにくいが…)待っていたいと思う。
電影《親愛的》預告片
(平成28年2月6日 シネ・リーブル梅田)
さて。いよいよ「第11回大阪アジアン映画祭」の開催が近づいてきた。香港、台湾映画中心に見たい作品目白押し。どんだけ仕事サボらねばならないのか(笑)。中華電影迷各位におかれては、大いに楽しみましょう!
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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