【睇戲】『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウイルス』(港題=伊波拉病毒)

『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウイルス』
(港題=伊波拉病毒)

あれは1996年の春先だったかな…。
「紅色暴雨警告」が発令され、帰るに帰れない土砂降りの夜。びしょ濡れになった同僚氏がヘラヘラ笑いながらオフィスに現れた。

Leslie「うわ~、この土砂降りの中、どこ行ってたの?」
ヘラヘラ同僚「いやもうねえ~、おかしくっておかしくって!」
こいつ、とうとう狂ったのか? 元々、そんなところがあるが(笑)。
L「何がぃな?」
ヘ「今ね、とんでもない映画観てきて、どうしてもセンセにも観てもらいたくて、家に帰らず、会社に戻ってきたの!」
L「そりゃまたご苦労なこって。で、どないな映画?」
ということで紹介されたのが『伊波拉病毒』
ヘ「もうすぐ、今日の最終上映が始まるから、すぐに行けばいいよ! 終わったころには雨も上がってるだろうから!」

ってわけで、観てきた。確か灣仔(Wan Chai)の國泰戲院ABCか京都戲院だったと思うが、どちらももう無い…。なるほど、彼が激しく推奨するのもわかる。これはもはや…。な内容。結局、小生もまた彼と同じくヘラヘラ笑いながら会社に戻り、二人でこの作品を大いに称賛したのであった。ちなみに、大雨のせいかもしれないが、小生が観た上映時間は、観客がたった3人だった。いわゆる「クズ作品」「B級映画」なんだろうが、香港在住中、数々の香港映画を観たが、これほど印象深い作品もない。

タイトルを見てわかるように、いまの時代にこの手の作品は、ダメだろう。まだまだエボラ出血熱への事実誤認も多く、ある意味、謎の奇病であって、故にかなり茶化した内容でもある。それをこの度、シネマート心斎橋で上映してくれるっていうのだから、大喜びで出かけて行ったのは言うまでもない。およそ20年ぶりに映画館でこの作品を観られる。こんな日が来るとはねぇ…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

2015-08-04港題 『伊波拉病毒』
英題
 『Ebola Syndrome』
邦題 『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウイルス』
制作年 1996年
制作地 香港
言語 広東語

評価 ★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):邱禮濤(ハーマン・ヤウ)

領銜主演(主演):黃秋生(アンソニー・ウォン)、羅莽(ロー・マン)、陳妙瑛(マリアン・チャン)
友情客串(友情出演):成奎安(シン・フイオン)、尹揚明(ビンセント・ワン)
主演(出演):曾燕(ツァン・イン)、吳瑞庭、八兩金(ボビー・イップ)、敖志君(ピーター・ニョール)

【甘口評】
栄光の評価「★」である(笑)。これほどまでに舐めた映画は無い。が、その当時は、「クソもええとこやな~」なんて笑っていたが、その7年後には、香港で忌まわしい記憶「SARS」が大流行し、多くの命を失った。そのとき、どうしてもこの作品が頭に蘇っては消えを繰り返し、「そんなこともあるのかな~」なんて思っていたら、今度は昨年の西アフリカ各地での、実際のエボラ出血熱の大流行ときた。監督の邱禮濤(ハーマン・ヤウ)や主演の黃秋生(アンソニー・ウォン)は、それをどういう思いで見ていたのだろうか…。ってなことは、今年の春の大阪アジアン映画祭に邱禮濤が来日し、せっかく質疑応答の時間があったのだから、質問しないと!と思っても、後の祭り(笑)。

黃秋生の徹底的した猟奇、羅莽(ロー・マン)の絶倫ぶり(笑)、成奎安(シン・フイオン)の殺されっぷりのえげつなさ、尹揚明(ビンセント・ワン)のやり場のない表情の刑事役、八兩金(ボビー・イップ)の「小チンピラ」ぶりなど、それなりに香港映画定番の楽しみも散りばめられている。

【辛口評】
全編、「これはいかんでしょ」のオンパレード。目を覆いたくなるような猟奇シーン連続の黃秋生は、観ているうちに飽きがくる。それだからイイのだという声もあろうかと思うが、ここまでやってしまうと、怖さを通り越して、笑ってしまうしかなくなるのが勿体ない。ラスト近く、唾を吐きながら、あるいは自分の肉を食いちぎって血しぶきを吹きながら「俺はエボラだぞ~!」と、警察の追手から逃げ回るのは、エボラに限らず、伝染性の病気への誤った不安感を煽るとともに、作品の出来を台無しにしてしまう「お笑いシーン」でしかなかった。実際、客席から笑いが巻き起こっていた。

公開された時代が早すぎたのか、早すぎたからこそ陽の目を見たのか。いずれにしろ現代には合わない作品である。

シネマート心斎橋では、『スーパークレイジー極悪列伝』として、邱禮濤と黃秋生によるエロ・グロ・バイオレンス三部作を上映中。本作以外には、『八仙飯店之人肉叉燒飽』(1993)、『的士判官』(1993)。9月18日まで。まあ、小生は全部観に行くつもりはしてますけどね(笑)。

(平成27年9月13日 シネマート心斎橋)


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