「大阪アジアン映画祭」”Special Focus on Hong Kong 2015”
『全力スマッシュ』
(港題=全力扣殺)<世界初上映>
選りすぐりの香港映画と出会える充実の1週間もいよいよこの作品で最後。お待ちかねの『全力シュマッシュ』を観てきた。
主役の一人、鄭伊健(イーキン・チェン)は1990年代初頭からアイドルとして人気があったが、彼を単なるアイドル歌手から大きく脱皮させたのは、チンピラのはかなく切ないストーリーを描き、大ヒットした『古惑仔』シリーズだったのではないか。イーキンのイメージを一新させ、その後の彼の俳優としての活動の幅を一気に広げることになった一連のシリーズは、小生も映画館でVCDで何度も観て、その都度涙腺決壊。男子とはこうも単純なものなのだよ(笑)。
その後も、『風雲』、『中華英雄』とヒット作に恵まれ、同時に主題歌もヒットするという具合に、着実に「スター」の道を歩んでいる。90年代と言えば、「香港四大天王(張学友、劉德華、黎明、郭富城)」の最盛期。その二番手、三番手たる歌手や俳優が出ては消えてを繰り返していた中で、生き残った数少ないタレントの一人。余程の致命的なスキャンダルでも無い限り、もう安泰だな…。
そのイーキンらが主演の『全力スマッシュ』、香港での封切りを前に、「大阪アジアン映画祭」で「世界初上映」となった。こういうのがあるので、「ナントカ映画祭」ってのは目が離せない。ちなみに香港での公開日は4月9日。
港題 『全力扣殺』
英语 『Full Strike』
邦題 『全力スマッシュ』
製作年 2015年
製作地 香港
言語 広東語
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):郭子健(デレク・クォク)、黃智亨(ヘンリー・ウォン)
領銜主演(主演):何超儀(ジョシー・ホー)、鄭伊健(イーキン・チェン)、鄭中基(ロナルド・チェン)、梁漢文(エドモンド・リョン)、劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)、邵音音(スーザン・ショウ)、林敏聰(アンドリュー・ラム)
特別演出(特別出演):鮑春來、王琳
あらゆる球技の中で打球の初速が最も速いとされるバドミントン。その最速記録は時速400キロとも言われている。何を隠そう、小生は高校時代のほんの数ヶ月間だが、バドミントン部に所属していた。ただでさえ運動神経と反射神経が鈍い小生は、練習前のランニング(険しい山道を約5キロ)とか、筋トレとかで青息吐息。試合形式の練習なんてもう、先輩の打球のあまりもの速さに「だめりゃ、こりゃ」とあっさり退部(笑)。大体、真夏のクソ暑いさなかでも体育館の窓閉め切ってやるなんてねぇ、もう…。
で、この映画には実際にバドミントン選手が2名、特別出演している。鮑春來は中国男子代表選手、王琳も中国女子代表選手で、2010年世界選手権金メダリスト。香港の人、わりと公園で気軽にバトミントンやってる人多いけど、多くは「だめだ、こりゃ」と退部した小生が見ても「指導してあげましょうか?」と口を挟みたくなるような雰囲気だから、この二人のトップ選手がどんな絡み、あるいは指導を見せるのかってのも、興味のひとつ。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
上映前の舞台挨拶には、郭子健(デレク・クォク)、黃智亨(ヘンリー・ウォン)の両監督と邵音音(スーザン・ショウ)、そして音楽担当の波多野裕介の4人。ここで慶事の御報告が。この波多野裕介、この日、目出度く邵音音のお嬢さんとゴールインされたと。もちろん会場拍手喝采、新婦も客席におられたので、こちらにも祝福の拍手。大女優だけど実に気さくなお義母さんでよろしゅうござんしたね。昔からそうだけど、香港映画に日本人が音楽や衣装、装置なんかで参画することってけっこう多い。そういう言えば、かく申すアタクシも…。ま、それはさておき。
さてさて。映画はもうめっちゃくっちゃ面白い。体をゆすって大笑いの連続だった。クールなイメージの強かった鄭伊健が演技であそこまで真面目に笑わせてくれると、これはもうイーキン本人以上に、観ているこちらが「禁断の境地」に足を踏み入れてしまったような気分になってしまう(笑)。上映終了後のQ&Aのコーナーで邵音音が言っていたが、「鄭伊健にしろ梁漢文(エドモンド・リョン)、劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)にしろ、人気のある『歌星(スターシンガー)』だし、何超儀(ジョシー・ホー)、鄭中基(ロナルド・チェン)は歌星であると同時に、香港金像奨や台湾金馬奨で奨を獲るほどの実力俳優。こういう人たちが、泥まみれ汗まみれになって役に徹しきっている姿に刺激を受けた」。そう、この映画のおもしろさのひとつは、まずそこだった。もちろん、そんな人たちに混じって、負けないような輝きを放っていた邵音音も、十二分に笑わせてくれた。
と、「笑い、笑い」で語っているが、実は香港では珍しい「スポ根もの」でもある。いや、そっちの方が色合いが濃いだろう。ただ、上述のように人気スターたちが、生真面目に「スポ根」に取り組むのが、普段とのギャップも手伝ってか、最初は「クスクス」と笑っていたのが、いつの間にか「体を大きくゆすりながら」の笑いになっていたのだ。そこで忘れてはならないのが、「無厘頭(ナンセンスギャグコメディ)」の元祖、林敏聰(アンドリュー・ラム)の存在。彼の存在があってこそ、他のスター連中の生真面目さによる笑いが引き立っていたのは、申すまでもないこと。しかし、林敏聰、久々に見たけど、健在だな~。嬉しいね。このキャスティング、なかなか心憎い。郭子健(デレク・クォク)は「よくわきまえている人」だなと思った。『南海十三郎』のイメージしかなかった謝君豪も、イイ味出してたのがこれまた印象的。
香港のちょっとイキった月刊誌『號外』の表紙が『全力スマッシュ』。タイトルには「失敗者的進撃」。どん底に落ちぶれた者が、再び新しい道への進撃を開始する、ということだが、この作品のもう一つのテーマはそこ。何超儀が演じる役も、鄭伊健、梁漢文、劉浩龍の3人組が演じる役も、そして敵対する鄭中基の役どころもそう。林敏聰の演じる役もそうなんだろうけど、そこはそれ、林敏聰だから…(笑)。「失敗者的進撃」、いいな、この言葉。
ちなみに出演者の中で実際にバドミントン経験者は、何超儀と鄭伊健くらいだとか。特に何超儀はかなりの腕前だそうで、なんぞやの大会で好成績上げたこともあって、バド愛は相当なものらしい。そんなこともあって実はこの作品にも出資しているんだって。鄭伊健もなかなかの腕前らしく、なんと言っても夫人の蒙嘉慧(ヨーヨー・ムン)とは、バドミントンが取り持つ縁だったとか。
さあ、中国代表選手の二人だが。「お、ここで、こういう具合に出て来るか!」という現れ方で、これはこれでよかった。邵音音はこの代表選手二人と会えたことに、「凄く感激した!」んだそうな。
この映画をこの映画祭だけの上映に終わらせるのは、あまりにももったいない!ぜひとも近い将来、日本で本格公開してもらいたい。そしてやっぱり「続編」に期待してしまう。いや、やるでしょ、きっと。ねえ。やりましょう!
*「映画祭」出品作品につき、【甘口評】、【辛口評】は割愛。
《全力扣殺》預告片
(平成27年3月14日 ABCホール)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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