【上方芸能な日々 文楽・素浄瑠璃】第26期文楽研修修了発表会

pct_20141119_01現在、国立文楽劇場の展示コーナーでは常設展示「文楽入門」に加えて、企画コーナー「文楽研修を知る」という展示も行われている。文楽で研修制度が開始されたのが昭和47年のこと。第1期生はすでにベテランの域に入っている津國大夫、文字栄大夫、人形遣いの玉輝の3人。いまや技芸員全体の半数が研修生出身とのことなので、毎回応募者数が少ないと言われながらも、この世界を支える大きな力になっているのは言うまでも無い。

そんな研修生は2年間の研修期間が終わると、それぞれが「この人」と思う師匠に正式に入門し、いよいよ文楽の芸人としての道を歩み始める。研修制度は、「文楽の世界を垣間見させてくれる」きっかけの段階にすぎず、芸人生活は入門を許されて初めてスタートするのだ。

2年に1回研修生を受け入れており、今回観てきたのは第26期研修生の「研修修了発表会」。卒論とか卒検みたいなもの。本公演と同じ舞台で同じ舞台設営といういやがうえにも緊張する情況で、先輩たちのサポートをあおぎながら今年は3人の研修生が2年間の研修の成果を披露した。平日の昼間にも拘わらず、客席は7割程度埋まる。全体に見巧者、聴き上手のファンが多いような気配。あ、ボクは違うよ(笑)。

毎回思うのだが、わずか2年でこのような環境で研修の成果を披露するという研修生のここまでの頑張りや、根性にまず敬意を表するのである。考えてみてくださいよ。そりゃ何らかの興味を持って研修生に応募はしたと思うけど、まったくの無の状態から、発表会と言えどもお客さんに見てもらおうかという段階にまでたった2年で成長するんだから、もうそれだけで大したもんだな、キミらはと感心することしきりなのだ。若いから吸収力あるんだろうけど、それにしてもだわ、ねぇ。

今回は人形2人、太夫が1人。この3人がこのあと誰のもとの入門するのかってのも楽しみ。ちなみに前回25期生は、三味線2人に人形2人。三味線は燕二郎が燕三、清允が清介にそれぞれ入門。人形では玉峻、玉延が両者ともに玉女に入門している。

1.「花競四季寿」より『万才』
(太夫) 芳穂大夫、咲寿大夫、亘大夫、研修生
(三味線) 寛太郎、錦吾、燕二郎、清允
(人形) 太夫=主・玉佳、左・玉勢、足・研修生  才蔵=主・一輔、左・簑紫郎、足・研修生
(口上・幕柝)文哉 (かいしゃく)勘介、玉路、玉峻、玉延

2.素浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』 殿中刃傷の段
(太夫)研修生  (三味線)清公

3.『日吉丸稚桜』 駒木山城中の段
(太夫) 中/咲寿大夫、奥/靖大夫
(三味線) 中/清丈、奥/清志郎
(人形) 萬代姫=主・研修生、左・幸助、足・玉峻  永井早太=主・研修生、左・幸助、足・和馬
鍛冶屋五郎実は加藤清忠=主・勘市、左・玉佳、足・研修生2名、中と奥で交代  その他は割愛
(口上・つけ・幕柝)簑次  (かいしゃく)玉誉、和馬、玉峻、玉延、簑悠

『万才』は掛け合いで研修生大夫、どうも声が出てないような。単独で語る場面も三味線の音に負けてるような。ま、仕方ないか。声のよく通る若い太夫と並んでしまうとねえ…。なんて思ってたら、刃傷の段は、よく通る大きな声で圧倒的な存在感で一安心。去年の同時期に行われた「研修発表会」のときから「まあなんとも、太夫然としたお子やなぁ」と強いインパクトがあっただけに、スケールの大きな太夫を目指してほしいなあ。お見事でした!

一方、人形の研修生二人は、今様のしゅっとした顔付きなもんだから、涼しい顔で遣っている風情だったが、心の内ははてさて…。人形の遣い方、とくに足遣いは何をどう見てあげるべきかほとんどわからんからコメントしようがないけど、主を遣った時、二人とも立ち姿がきれいだとは思った。腰やひざを曲げていることが多い左遣いや足遣いでは気がつかないけど、主遣いしたとき、やはり立ち姿が美しい人は人形も映えるというもんだ。その姿勢でがんばって!

「駒木山」をこんなに短期間に3回も観るとは思ってもみなかった(笑)。もうすっかりストーリー把握したので、この日は浄瑠璃に集中。先日までの本公演では、睦、千歳のリレーだったこの段、今回はピチピチの若手、咲寿とまだちょっとだけ若手の靖のリレーで。いや~、両者ともしっかり聴かせてくれた。これは二人に拍手喝采。とくに靖は「おお、そこまでできたか!」と感心を超え感動すら覚える語りっぷりだった。さあ、これが1日限りの舞台でなく、本公演で3週間なり4週間なりぶっ通しでできるかとなると、まだまだ難しいと思うけど、そのきっかけは充分つかんだと思う。かくのごとく、研修終了発表会とは、サポートで出演する若手にとってももこれまた、重要かつ重大な勉強の場なのである。

終演後、ロビーには住さん、嶋さんのお姿も。住さん、お元気そうでなにより。研修生大夫くんの語りはどう響いたかな? 嶋さんは弟子の靖の精一杯の熱演、どう感じたかな? なんだか、お二人ともダメ出しの嵐のような気がするけど(笑)。

自分の技術で、国の伝統を未来へ紡いでゆく。こんな素晴らしい職業はそうそうあるもんじゃないと思うよ!

(平成27年1月28日 日本橋国立文楽劇場)


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