香港雨傘
顕在化した民主派の存在価値を問う声
前回(上記稿)からの続き。<過激な民主派諸氏が、香港中文大学の学生新聞『大學線』によれば、学生たちのウケはかなりいいようだ>という話題。なにはともあれ、どれだけウケがいいのかという調査結果から見てくだされ。
細分化と分裂進む民主派
12月19日付の『明報』が伝えるところでは、『大學線』が11月3日~7日に行った調査で、無作為で選んだ大学生に各政党を10点満点で評価してもらった結果、長毛・梁国雄を擁する「社会民主連線=社民連」が1位となり、最下位は親中派最大勢力の「民主建港聯盟=民建連」だった。詳細は下記の通り。数字が得点、(%)は「得票率」。
1・社民連—5.97(85%)
2・公民党—5.64(77%)
3・人民力量—5.36(79%)
4・工党—5.29(74%)
5・新民主同盟—5.12(49%)
6・街工—4.90(44%)
7・熱血公民—4.75(62%)
8・民協—4.73(51%)
9・民主党—4.66(78%)
10・自由党—3.74(76%)
11・工連会—2.73(63%)
12・新民党—2.66(61%)
13・経民連—2.12(61%)
14・民建連—2.05(81%)
数値の読みとり方としては、1位の社民連は調査対象者の85%が何らかの評点を与え、その平均値が5.97だった。逆に最下位の民権連には81%の人が何らかの評点を与え、平均値が2.05だったというところか。要するに社民連は多くの調査対象者の高い支持を得て、民建連はまったくその逆だったということに。
青字は民主派、紫字は「激進民主派」で民主派という一言ではくくれない過激な一派、赤字は「建制派」で親中派を含む民主派の対立勢力。「激進民主派」の実態は「煽り屋」「過激派」「反共ならなんでもOK」みたいなところがあり、従来からの民主派、いわゆる「汎民主派」とは相いれない部分の方が大きいため、あえてこのカテゴリーを設けた。実際、香港においてもこの一派を「激進民主派」とすることが多いようだ。日本では「民主派の中の強硬派」なんて長ったらしい表現にしている。
台頭する「本土派」
中でも「熱血公民」は「本土派」と呼ばれ、他の民主派とは一線を画す。ここで言う「本土」は中国本土のことでなく、香港当地という意味。本土派は、民主の前にまず中国拒絶の姿勢ありきで、顕著なところでは、「學聯」などが主導した「佔中」は政府庁舎を取り囲む形の拡大版として金鐘(Admiralty)の幹線道路を占拠したが、その後、銅鑼灣(Causeway Bay)や旺角(Mong Kok)で同じような道路占拠を始めたのは、こうした「煽り屋」一派であり、これには学生らも「寝耳に水」だったようだ。
結果、この連中が警察との衝突などの中心勢力となり、「佔中」が急速に市民の支持を得られなくなってゆくことになる。金鐘だけでもけっこう手一杯だった学生たちが、ほかに守るべき占拠エリアが増えてしまったのは、いささか気の毒でもあったが、あそこまで人が集まってしまった以上、もはや「自主的退散」を求めるのは不可能であった。
とは言え、「熱血公民」はバリケード資材やヘルメット、ゴーグルなどの防護用具の調達など、黒社会組織や警察との対峙への備えなどでもデモ隊をバックアップし、「社民連」「人民力量」とともにFacebookなどを活用して最新の情報を常に提供し続けた姿勢もあってか、最前戦で「闘って」くれた同志として、それなりの評価は得ている。
また、長毛の「社民連」は、従来なら先頭を切って騒動を起こす一派だが、今回は「敵」があまりにも大き過ぎると見たのか、はたまた、集まった人間が必ずしも同じ方向を向いているとは限らないことをいち早く察知したのか、暴れることを避け、徹底した情報提供と学生らと最前線で抗議する姿勢を一貫していたと見える(見えるだけかもしれないが)。そういう点では、今回のデモでの長毛の姿勢には小生も感心していたのである。そこがやはり、学生の共感を呼んでのこの結果だろう。
反面、「熱血公民」は學聯などの学生グループとは、そもそもが水と油の立ち位置であって、それを決定づけたのは、11月30日の政府庁舎周辺で起きた最大規模のデモ隊vs警察の衝突に対する両者の認識の違いだった。いまもなおこの対立、内紛は尾を引いており、學聯など学生グループへの批判の声も少なくはない。今後の「普選活動」に影響を及ぼしかねないが、なかなか価値観を共有するのは難しいだろう。この対立を見て、香港政府は胸をなでおろし、中共政府はほくそ笑んでいるのだろうと思うと、デモを真っ向からは支持していない小生でさえも、気分が悪い。
かつてのスター集団「民主党」への失望
さて一方で、これまで民主派のリーダーシップ的なポジションにあった民主党の評価が、民主派全体で最下位というのが、今回のデモの象徴と言えるだろう。以前、『【香港の学生活動に関して】そもそもOccupy Central/佔中って何なのか』の中で、
<ここまで彼らを追い詰めてしまった最大の犯人は、小生に言わせると、無能な香港政府でもなければ中共でもなく、暴力的な「反佔中人士(黒社会がらみだろ う)」でもない。ここまで、「香港の民主獲得」ということでは中共に対して何も実績を示すことができなかった「汎民主派」の大人たちである。>
など、汎民主派、とりわけ民主党を批判したが、まさにそのとおりの調査結果となったのである。とにかく、最前線に彼らが出てきたのは、金鐘の強制排除の日に座り込んだだけなのだから、「あんたらの存在価値は何なのだ?」と、厳しく問い詰めたい気持である。これではまるで「帳尻合わせ」ではないかと。
ネット新聞「みんなの経済新聞」の香港版『香港経済新聞』のインタビューに答えた學聯の周永康(アレックス・チョウ)くんもこの点について、若干言葉を選びながらも、「…ただ、正直、民主派の政治家には失望した。たくさんのアドバイスを頂き感謝しているが、香港市民は自分の代表者として議員を見ているのだから」と語っていることからも、今回のデモが、「我要真普選」である裏側で実は、従来の「汎民主派」へ「No!」を突き付けたデモでもあったというのが見えて来ると思う。
ま、そうは言っても、1位の社民連でも「5.97」点。ここに政党ではないけど「學聯」や「學民思潮」が入ってくると、社民連のこの得点も平凡な数字になってしまうんだろうなあ…。それについては、以前記した『【香港の学生活動に関して 3】学生諸君が政党・政治団体支持度トップに!』で、すでに明らかになっている。
香港は民主派政党が親中派政党および香港政府、中共とやりあう時代は終わってしまったのか?、そもそも今後「存在価値」があるのか? それって、逆に「議会制民主主義」の危機ではないか? もちろん、「議会制民主主義」の体裁だけ繕ってりゃいいだろう、みたいな中共のやり方に重大な問題があるわけだが…。に、しても、だ。
「長毛が大学生にウケてるよ!」というお話をさっらとするつもりが、とんだ「長講一席」になってしまったけど、どうしてもこうなってしまうのが、香港なのだからそこはご寛容のほどを何卒。
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と、「講釈師、見て来たようにデモを言い」の段、ひとまず終わりでありまする!
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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