【上方芸能な日々 文楽】平成26年11月公演②

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念
平成二十六年11月公演 <第二部>

劇場の外に出て、しばしちょっぴり冷たい風に当たって「第2部はでけるだけ寝えへんぞ!」などと、恥ずかしい誓いをして、再び文楽劇場に舞い戻る。第2部は、多分初めて見るはずの(記憶が曖昧)『奥州安達原』。と言っても、この演目の存在は知ってるし、能や日本舞踊で『黒塚』ってあるけど、あれの一連の話ね、安倍一族関係の話ね、などと、おおよその見当はつく。まあ、アタシも50歳を超えたわけだから、これくらいピンと来ないと、今までの人生は何だったのか!ってことになっちゃうからね。そこは「人生経験」ってところで、よろしくひとつ…。

IMG_1525今年度?から番付に登場人物相関図が載るようになって、「あいつとこいつが親子だ」とか「AさんとBさんは異母兄弟だ」とかが、わかるようになった。加えて、劇場1階の芝居絵を突き合わす時間があれば、おおよそのストーリも「はは~ん」ってな感じで理解できる(はず)。ただ眺めているだけでも、よく描けてるな~と感心することしきり。

奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)

◆初演:宝暦12年(1762)9月、大坂竹本座
◆作者:近松半二ほか

10524743_533665820094485_1242013358239408557_n「朱雀堤(しゅしゃかづつみ)の段」
朝観た「堀江相撲場」同様に、この場面も後の物語の伏線、前フリのような場面なんで、しっかり見ておくと、後々「なに、これ。どうしてこうなるの?」とばかりに、パラパラと番付めくる必要がなくなるはず。

朱雀堤(しゅしゃかづつみ)は京都七条。盲目の女乞食とその娘…。これだけでその後の「ややこしい」展開が想像できるというもので(笑)。大体、文楽ってこんな感じで始まりますな。なんだかんだがあって、実の父である平傔仗直方の身の上に危機が迫ってることを知り、娘のお君とともに父の踪を追う、盲目女乞食の袖萩…。

咲甫大夫、清志郎。こうした発端となる場面は、口舌明瞭で耳当たりの良い太夫がいい。ここでワケわかんなくなると、そらもう、後は聴く方が苦労する(笑)。そんなことで、咲甫大夫でよかったね、と。

「環の宮明御殿(たまきのみやあきごてん)の段」
「明御殿」ってくらいだから、環の宮が不在だってことだろうな。失踪しているというのは、前段で明らかになっていたしね。

この段は長い。本当に長い。床は、中)睦大夫・清馗、次)文字久・藤蔵、前)呂勢・清治、後)千歳・富助とめまぐるしい。物語もめまぐるしい。登場人物も、八幡太郎義家、安倍貞任、安倍宗任なんかが出て来て、日本史の教科書みたいな展開になる。ご見物さんはかなりしんどいけど、なかなか聴き応え見応えのある場面が続くので、不思議と睡魔は襲わない(笑)。

いろんな太夫、三味線が登場するが、やっぱり呂勢大夫がイイね(あ、個人的な好みですョ)。多分、ほかのお客に聞いてもそういう回答が多いんじゃないかな。稽古の積み重ねもさることながら、研究熱心というか「浄瑠璃おたく」なんだろうな…。折々のメディアのインタビューなんか読んでいて、そんな気がする。

睦大夫もここ数公演で、いくつか階段上がったと感じる。で、文字久、千歳のご両人はというと、文字久は「いつも通り」で、千歳は渾身の語りではあったけど、渾身すぎたのかな、最後の方でちょっと疲労感が見え隠れした。まあ、まだ公演3日目なので、公演期間の中ごろにみたら、きっとそれぞれ進化してたり「頃合い」を見つけたりして、この日とは違うものになってるんやろけど。こういう発見があるから、ライブはほんとうにおもろい。もっと劇場に足運びましょ!

~晩飯タイム~
「晩飯」と言ってもまだ午後6時ごろなんで、軽く腹の虫をなだめておこうという感じ。これなら25分でも充分。三笠とコーヒーで一息ついて、煙草も2、3本吸えるし、便所も混雑してないし(笑)。もちろん、お席に戻って番付見ながらゆっくり予習もできちゃう。

「道行千里の岩田帯(みちゆきちさとのいわたおび)
前段で八幡太郎義家に勘当された従者の志賀崎生駒之介英と、恋人の傾城恋絹が薬売りに扮して奥州へ向かう道中。こういう場合の「道行」は、心中ではなく「道中ものの舞踊」。それでもって、太夫も三味線もずら~っと出て来て、とにかく床がにぎやか。團七師匠が三味線陣をびしっとまとめている風。まあでも、寛太郎は若いのにとても達者だし、一番端っこの燕二郎も「三味線が大好きでたまりません!」って表情が、大変好ましい。

「一つ家(ひとつや)の段」
「マジっすかっ!?」みたいな場面もあって、目が離せないクライマックス。老女岩手って怖いよ~、旅人の腕ひきちぎってしまうわ、ようやく奥州は安達原にたどりついた生駒之助&恋絹をうまく引き離して、身ごもっている恋絹の腹を切り裂いて胎児を引っ張り出すわと、「このハナシ、実はホラーものだったのか?」みたいな展開に、「わわわわ…」となってしまうが、これがまたどんでん返しというか、まあ客をひきつけるのが上手だな、近松半二さんは。

こういう怖いのあり~の、どんでん返しの展開あり~の、「まあ!なんですって!」なのがあり~ののあれやこれやを、咲甫・宗助、英・清介の「安心と信頼の」リレーで。力量の足らない人がやると、何が何だかしっちゃかめっちゃかになるかもね~なんて思いながら、床の語りと弾きに身を委ねられることの、まさしく安心を感じる段であった、筋のわりにはね(笑)。

「谷底の段」
公演前半は、靖大夫・龍爾で本日の公演を閉める。靖大夫もいいね~。すっかり風格が出てきた。1日の締めくくりの段を、これくらい目いっぱい語ってくれると、「今日は値打ちのある1日やった」と、得心して劇場を後にできるというもんだ。ありがとう!靖大夫!

という具合に、1部、2部ともに床は「適材適所」の配置だったように感じた。公演後半は、若手の出番が入れ替わるので、ぜひ競い合うような語りと弾きを聴かせてもらいたいな。

さて人形。と、いきたいところだが、今回もグダグダ長くなってしまったので、こちらは2回目の鑑賞(あるのか?)の後で。雑感で申し訳ないが、三業の中で一番陣容が整っているだけに、「ちょ、それは…」ってな場面が無い。簑助師匠、文雀師匠の両巨頭は言うまでもなく、紋壽師匠、勘十郎さん、玉女さん、和生さん、清十郎さん、玉也さん…。充実している一方で、何か物足りなさを感じたのも確か。そのへんを、次回は確かめてみたいな…(など、偉そうに言ってるが、きっと何もわからないだろう、三流見物人にはww)。

(平成26年11月3日 日本橋国立文楽劇場)


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