【上方芸能な日々 文楽】若手会

人形浄瑠璃文楽
文楽既成者研修発表会「文楽若手会」

H2606wakatekai_omote

前回お話した足の骨にヒビ入ったアレは、まだまだ痛みや内出血はあるものの、腫れはほとんど引き、歩行もかなり楽チンに。とは言え、まだ無理は禁物で、歩きやすくなったからと固定バンドをはずしたりすると「ァいたたたたぁ」となってしまう。もう少し不自由な生活を満喫しようか…。

さて。そんな中、またも「ケガとは言え、前売り券をフイにするのはけったクソ悪い」ということで、国立文楽劇場の「文楽若手会」へ。

毎回大人気のこの会。この日も補助席が出て大盛況! 料金が安いからか? それとも上演時間が手頃で気楽に行きやすいからか? はたまた、「若手」の友人知人親類縁者ら縁故の人たちがつめかけるからなのか? 理由は色々あるんだろうけど、いつもの本公演よりカジュアルなのは確かで、お客の層もかなり「若手」が目立つ。小学生くらいの子供たちから、結構「チャラい」にーちゃん、ねーちゃんなどなど。もちろん、いつものように、和装でお越しのベテランファンも。本公演も、こんなカジュアルさがあれば、色んな層のお客でにぎわうのになぁ、などといつも思うんだが…。

今公演の圧巻は、『菅原伝授手習鑑』から「寺子屋の段」を語った靖大夫(初舞台・H16年7月)と芳穂大夫(H15年9月)。これはいずれなんらかの賞を授与されてしかるべき良さだった。

「寺子屋」と言えば、先般の住大夫引退興行で、嶋大夫が客席を圧倒、完全制圧する凄まじい語りを聴かせてくれたのが強烈だった。なにせ嶋さん、およそ1時間のこの長丁場を語りきるのだから、80歳を越えてますます充実というところ。

しかし、この日の靖、芳穂の二人の熱演は、「若手会」と銘打つのが勿体ないほどの出来栄えで、彼らは彼らなりの力量で、しっかり客席を「完全制圧」していたと思う。前を語った靖大夫、後を勤めた芳穂大夫ともに盆が回って床を去る時の拍手が、「よいものを聴かせてもらえた!」というものだというのは、誰の耳にもわかったはず。

靖大夫については、もうこのところずっと誉めちぎっているけど、いやもう、ここまでの浄瑠璃語れるんかと、かなり感激、いっそう感激。ますます好きになった。いっぽうの芳穂大夫については「上手いのに、もっと色々やらせてあげてほしいわ」と思うことが多かっただけに、やっと彼の本領に接することができた気分。

恐らく二人の師匠である嶋さんからは、色々と「ダメ出し」食らうんだろうけど、この日の客席の好感触を忘れずにさらなる高みを目指してほしい。1週間後の東京での若手会で、芳穂と同じく後を勤める希大夫(H16年7月)も闘志に火がついたことだろう。彼も楽しみな太夫。

人形に目を移すと、文楽劇場で和馬(H23年10月)と簑之(H24年4月)が主遣いというのは、初めて見た。簑之=菅秀才、和馬=小太郎と、どちらも動きの少ない役どころではあったが、この抜擢は二人の成長の一里塚。いい場面に遭遇できたと喜びたい。とにかく「寺入り」の咲寿大夫(H17年7月)から実にいい流れで、非常に実り多き「寺子屋」となった。太夫の語りを引き出した、清公(H18年7月)、清志郎(H6年6月)、清丈(H12年7月)の三味線も大いに冴えていたのは言うまでもない。

もうひとつの見どころ『卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)から「平太郎住家より木遣り音頭の段」

若い小住大夫(H22年10月)と寛太郎の健闘が光った。寛太郎(H13年1月)については、早くから素質を開花させて末恐ろしい存在であるのは、これまでも感想を述べてきたが、それに食らいつく小住の奮闘ぶりは嬉しいところ。もうそんな頃には小生は生きてないけど、この二人が切場を勤める日が来るならば、ぜひ観てみたいと…。

人形ではお柳を遣った一輔(S60年4月)がやはりずば抜けていた。今春、息子が簑助に入門した彼を「若手」と呼ぶのは苦しいところだけど、「さすが!」な遣いように惚れ惚れするばかり。いやもう、ホンマ美しい。何度も言うが、一輔のたたずまいそのものが実に美しいのだ。そりゃまあ、血筋と言ってしまえばそれまでだけど、血筋と言わせるのはやはり相当な努力の賜物。

住大夫が去り、今後の文楽を危惧する声は絶えない。とりわけ太夫陣の奮闘を促す声は多い。実のところ、小生も文楽の行く末を大いに心配している一人。とは言え、どんなに心配しても、もう住さんは戻って来ない。今の陣容のレベルアップを客の立場から叱咤激励していくしかない。逆にこれは楽しみなことでもある。毎公演来ていれば、小生のようなボンクラな見物人でも「あ、この人、よくなったなぁ」って発見がある。今年は誰に注目すればいいか、そんなチェックポイントを教えてくれるのがこの「若手会」でもある。ここで名前を上げたメンバーのみならず、年内の公演で誰かが「あ、この人、よくなったなぁ」と思える日に巡り合えるのを楽しみにしておきたい。

(平成26年6月22日 日本橋国立文楽劇場)


1件のコメント

コメントを残す