【上方芸能な日々 文楽】社会人のための文楽入門

人形浄瑠璃文楽
第31回文楽鑑賞教室「社会人のための文楽入門」

6月14日の朝、ちょっとした約束ごとのために府内のとある土地へ。まずは約束の場所よりも先に「喫煙所」を探してさまよい歩く。

「慣れない道」とは、とんだ落とし穴があるもんで、歩道のわずか数センチの段差で左足をすとんとすべらせてしまい、足の甲がぐにゃっと一瞬裏返ったような情況に。

「あ、くじいたかな?」程度の認識だったけど、時間が経過するにつれて痛みと腫れは増すばかり。あいにく、土曜ということで「急患」で病院に駆け込む以外、医療的処置の術はなく、とりあえず土日は痛みを堪えて放置。

月曜日に、近所の整形外科へ行くと、ヒビ2か所にじん帯損傷というそこそこの大けがであったとさ…。喫煙所までには「落とし穴」アリ。煙草喫の諸君、くれぐれもご注意を!

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そんな情況なれども、早くに前売り券を購入していて、それを骨折のためにフイにいしちゃうのも、けったくそ悪いハナシなので、傘を杖代わりに時々、ケンケンもしながら、日本橋の国立文楽劇場へ。

この時期は本公演とは違う趣で「鑑賞教室」が開かれている。基本的には府下を中心とした中高生などを対象に、文楽に親しみを持ってもらおうというものだから、長年、小生は見物をご遠慮してきた。今年もそう思ってたら、「また見たいな」という演目のひとつ、『卅三間堂棟由来』がかかるというわけで、それならと、この夜開催の「社会人のための文楽入門」に出向くことにした。

「解説 文楽へようこそ」
・解説者 大夫/希大夫、三味線/寛太郎、人形/文哉
もう何度も三業の「解説」は聞いているけど、解説者の個性が見られておもしろいね。
会場から3人が舞台に上がって、人形操作の体験。夏休み公演では子供たちが楽しそうにやるけど、大人も相当楽しんでいる。そしてその真剣さとちぐはぐな動きが、場内の笑いを誘うのは子供も大人も同じ。

卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)

■初演 宝暦10年(1760)12月、大坂豊竹座
■作者 若竹笛躬、中邑阿契の合作
■五段続き時代物 初演時の題は『祇園女御九重錦(ぎおんにょうごここのえにしき)』であったが、三段目に当たる部分が好評で、『卅三間堂棟由来』として単独上演されるようになる


「鷹狩りの段」

余談ながら、ホークスと対戦する他球団のファンや、ときにはメディアまでもが「さあ、鷹狩りだ!」、なんていけしゃーしゃーと言うのをしょっちゅう見かけるが、あれ、完全なる「誤用」。
この舞台を見ればわかるが、「鷹狩り」とは、鷹を使って小動物を捕える狩りのこと。日本語はちゃんと使おうぜ。文楽見ていれば、こんな恥ずかしい間違いはしないのにね。

*咲甫大夫、藤蔵
前回観た時(平成24年1月公演)には、この段はかからなかった。ここをやることで、物語の筋立てが鮮明になり、見取り演目にありがちな「不親切さ」がかなり解消される。それでなくても文楽や歌舞伎は、場面が変わるといきなり歳月が5年くらいすっとんでいることが多いから…。落語みたいに小拍子をちょんと叩けば、100年後に飛んでもお客も付いてくるというもんじゃないからね…。特に、この日のような鑑賞教室とか入門のための公演とかは、初めて文楽に接する人も多いだろうから、より「親切」なやり方が必要。何と言っても、これからファンになってもらうんだから。
と言う点では、咲甫の語りは耳当たりもいいし、藤蔵の三味線もビシバシとよく鳴らしてくれるから、初体験者もそこにまず引き込まれるから、よろしいわな。

「平太郎住家より木遣り音頭の段」
中*靖大夫、清志郎
靖大夫は相変わらずいいね~。ますます太夫の声になってきているなあ。風格すら感じるようになってきた。「頭一つ」抜けた存在から、「ずば抜けた」存在になりつつあるのが、毎公演ごとに実感できる人って、そうそうお目にかかれるもんではない。

奥*英大夫、清介
哀しいストーリーを英大夫が自在に語る。で、床の間際に座していてもやっぱり英さん、時に「え?もいっぺん言うて、そこ。よう聴こえへんかった…」って場面が。まあもう、これはこの人の芸風と割り切るしかないかな。そこがいつも勿体なくあるいは物足りなく感じてしまうところ。前回は、津駒&寛治で聴いたから、語りも三味線もズンズン伝わるものがあって、「これはまたなんとも哀しい物語か」と胸に響いたけど、今回はなんか平々凡々、可もなく不可もなくってところだったかな…。

まあ、こっちが足の痛みもあって、100%集中できていなかったというのもあるかもしれないけど…。

人形は、平太郎に玉志、お柳に勘彌、みどり丸が簑次など。このあたりのメンバーなら、いい意味で小慣れているから安心感はある。ただ、床も含めて「鑑賞教室やから、まあこんなもんかな」と常連客に思わせてしまってはいないかと、ちょっと危惧。もちろん、そんなはずないやろうけど。

さて、この『卅三間堂棟由来』、間髪入れずに6月21日、22日の二日間、「若手会」でも上演される。まったくメンバーを変えての上演。どっちが聴き応え、見応えがあったか、じっくりと見物してみたい。

(平成26年6月18日 日本橋国立文楽劇場)


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