【睇戲】『ある複雑なお話』(港題=一個複雜故事)<日本初上映>

第9回大阪アジアン映画祭
『ある複雑なお話』(港題=一個複雜故事)

睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

「HONG KONG NIGHT」に続いて、『ある複雑なお話』の上映。

監督さん曰く「複雑なストリー展開」というから、気合を入れてスクリーンに集中したが…。いやいや、ストーリー自体はさほど複雑ではなく、複雑なのは登場人物個々の内面や背景やそういうあれこれ。ま、そういうのは多くの映画で複雑ではあるのだけどな。

周冠威(キウィ・チョウ)は、杜琪峯(ジョニー・トー)イチ押しの若手監督。香港映画の若い力を育てて行こうという目的もある作品。

香港演藝學院電影電視學院碩士生(修士課程)の卒業作品として、9名の学生が制作に参画しており、同学院と興行界の初の合作作品となった。

なによりも、香港政府傘下のファンドが資金のバックアップをしたというから、業界の期待度も高かったということだろう。

杜琪峯と江志強(ビル・コン)という超大物が製作総指揮、張學友(ジャッキー・チュン)、岑建勲(ジョン・シャム)、葉徳嫻(デニー・イップ)、金燕玲(エレイン・ジン)、盧海鵬(ロー・ホイパン)といった人気、実力超一級のベテラン陣が脇をきっちり固め、さらに「無報酬出演」しているのを見ても、力の入れようがうかがわれる。

上映前に開催された「HONG KONG NIGHT」で挨拶した、香港特区政府駐東京経済貿易代表部の黄碧兒(サリー・ウォン)首席代表は、「今も香港は映画の街です! だからど~たらこ~たら」と、いけしゃぁしゃぁと述べていたけど、こういう現象を見るに、「新しい世代の育成が急務」という香港映画界の苦しい現状を垣間見ることもできると思うんだけど…。

ACSPoster2_01_1387248091港題 『一個複雜故事』
英題 『A Complicated Story』
邦題 『ある複雑なお話』
製作年 2013年
製作地 香港
言語 広東語

評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督): 周冠威(キウィ・チョウ)

領銜主演(主演):朱芷瑩(チョウ・チーイン)、車婉婉(ステファニー・チェ)
友情演出(友情出演):張學友(ジャッキー・チュン)
特別介紹(イチ押し出演者):子義(ズー・イー)
主演(出演): 盧海鵬(ロー・ホイパン)、應采兒(チェリー・イン)、葉徳嫻(デニー・イップ)、金燕玲(エレイン・ジン)、李歐梵、岑建勲(ジョン・シャム)、劉天蘭(ティナ・リュウ)

ハナシは、「代理出産」をめぐるあれやこれやで、これまた「越境」に続く「社会派作品」なんだなと思ってたら、よくよく観てみると、そういうわけでもない。もちろん、女性の立場で観た場合は全く違う見解であるのは了解はしているけど…。

登場人物がそれぞれに複雑な人たちなんだ、これが。香港で学ぶ大陸女子大生(朱芷瑩)。故郷には重病の兄がいる。兄の治療費のためにと、莫大な報酬と引き換えに代理母になることを依頼され引き受ける。これ、「恋人未満友達以上」の関係っぽい男朋友(子義)には内緒だったんだけど…。この「恋人未満友達以上」の男朋友を演じた子義っていう俳優、まだ青臭い演技するけど、博多華丸に激似なので演技以上に印象に残る(笑)。最近観た「毒戦」や「盲探」にも出てたのね、気付かなかったわ、ごめんね~~。

代理出産はあえなく「途中キャンセル」となり、女子大生も堕胎を迫られるのだけど、そこへ子供の父を名乗る資産家の御曹司(張學友)が現れる…。

【甘口評】
「学生映画」である。一口で言えば。が、スタッフやキャストの豪華さ、その人たちの「さすが!」な仕事っぷりが、「学生映画」臭さを一掃してあまりあるから、感服してしまう。たとえば代理母を引き受けた女子大生役の朱芷瑩。「彼女を落としてみせる!」と言い切った資産家の御曹司(張學友)に「すごい女だ…」なんて思わせてしまう、芯の強い、強情な、ある意味「けったいな」性格を見事に演じきっていることに、感心。ズバリ適役だった。―まあ、女子大生の性格の背景にはもうひとつ物語もあったりするわけだけど…。

車婉婉がイイ。一見冷徹な弁護士だが、やはりその複雑な内面の物語の表現が非常に上手く、このところ小生の車婉婉の評価は急上昇なのだ。

人生を悟っている海の家(なのかなんか知らんがw)の「大家姐」がかっこいいなあ~って思ってたら、これがアナタ、葉徳嫻(デニー・イップ)でして、彼女の配置もピリッと効いていた。

一貫した主人公は代理母を引き受けた女子大生だが、あえて3つのパートに分けて、3人の「複雑」な物語を見せるという手法で、映画を見るという行為と共に「本を読む」という行為も同時進行しているように感じさせる。昔の喧騒渦巻く香港の映画館では決して生まれてこなかった作風だろう。こういうところに、長編初チャレンジの周冠威監督の非凡さが見られ、次の作品に期待を持たせる一作であった。

【辛口評】
タイトルとして、この「複雑」というのがよかったのか…? と疑問を持つ程、「複雑」の二文字に身構えるほどの「複雑さ」はなかった。この映画をあくまで「複雑」というキーワードにこだわって観ようと言うなら、頭の中から「複雑」の二文字をまず消し去らなければならいという、「観る姿勢が複雑」な映画なんだから、ややこしい(苦笑)。

「複雑」に何を期待するかは人それぞれだろうけど、とりあえず冒頭から「代理出産」という重いテーマが掲げられたわけで、そこへの踏み込みが「ああ、そりゃそうなるわな」というあっさりな展開だったのが意外であり、「なんやそれ…」だった。朱芷瑩はよくやったが、張學友と車婉婉、出番は少なかったが葉徳嫻の圧倒的な存在感の前には、色が薄くなってしまったのはなんとも気の毒。で、「甘口評」の冒頭の「『学生映画』である。一口で言えば」に結論が行きつくという皮肉な評価に。

この作品、舒琪の『一個複雜故事』が原作。周冠威はその原作を剪定して映画に仕上げたと言う。原作を読むと、全く違う評価になったのかもしれないし、どこをどう剪定したのかがわかれば「なるほど」と思ったこともあったかもしれないが…。

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上映後の質疑応答。右端が周冠威監督、中央に車婉婉

上映後の質疑応答については、いずれ映画祭のサイトで詳しく報じられるだろうから、そっちを期待してもらうとして。

「張學友らベテランを迎えての初の長編作でしたが…」

という観客の質問に対し、周冠威は

「最初、張學友のオフィスを訪ねたとき、彼は一瞬『え、こんな若造が監督?』みたいな表情を見せましたよ」

と笑う、場内も笑う。

「でも、いざ映画のミーティングが始まると、『で、監督はここどう思うの?』って、ボクを監督って呼ぶんですョ。仕事が始まれば、年齢やキャリアに関係なく、イーブンの関係で進めてくれました。これはカンゲキでした」

この発言に、香港を感じたし、香港が懐かしく思えた。こういう環境だから、若い人はやりがいがあるし、力のある人はグングン伸びるし、何よりも仕事に対する「責任感」が違ってくる(責任感が辞書にない人が多いのも香港だけどwww)。

[電影預告] 《一個複雜故事》A Complicated Story 1月16日 萬語千言 <現地予告版>

最後は映画のハナシから逸れてしまったけど…。
「これから」というポジションにある3人の監督による3作品を観て、香港映画の現状を知り、将来に思いを馳せることができたのはよかった。いずれも星3つ以上の評価だったことに、将来に大いに期待が持てた。どうぞ、皆さまも香港映画をご贔屓願いますョ!

以下、無用のことながら。

「HONG KONG NIGHT」では、久々に目の前の人間が「ナマ」の広東語をしゃべっていることが、とてもうれしかった。在住中はあんなにやかましくって、騒々しくって、ウザくって、聞きたくもなかった広東語なのに不思議なもんだ。こんな極めて出鱈目な広東語使いの小生でも、ステージでゲストたちがしゃべっていることを8割以上理解できるんだから、やっぱり語学って「慣れ」だな~、と思った次第。もう日常的には使うこともないけどね(笑)。

(平成26年3月14日 ABCホールにて)



 


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