【毒書の時間】『おやごころ』 畠中 恵

<神田明神の権現造の社殿。シリーズの主人公、麻之助の高橋家は神田の町名主。ここも度々、物語の舞台になるけど、麻之助たちから漂う空気感は、この神田じゃない…。じゃ、どの神田? わかってつかぁさい! (筆者撮影)>


どうやら、この一冊が今年最後の一冊ということになりそう。

再三申し上げておる通り、我が家も色々とありまして、なかなか落ち着いて読書というムードではない…、ってのが年末まで続いてしまって…。まあ、これも小生自身の気の持ちようなのかもしれないけど。

ということで、令和7年の掉尾を飾るは『まんまこと』シリーズ第9弾となる『おやごころ』。2010年5月の「読書メーター」の感想が「長く付き合って行けそうな作者と、登場人物たち。なんといっても、読後感が心地よい。」というめっちゃあっさりしたもの。だがしかしだ。その後は、その通りになっているのには、もう笑うしかないですな(笑)。

『おやごころ』 畠中 恵

文春文庫 ¥836
2025年4月10日 第1刷
令和7年12月24日読了
※価格は令和7年12月25日時点税込

表紙絵は元気に生まれてきた子をあやす麻之助だろう。いい顔をしている。前作の『いわいごと』で、麻之助の家、高橋家と同業の町名主、西森家の娘、お和歌と夫婦になった麻さん、今作ではいよいよ父親となる。

第4話の『麻之助走る』では、お和歌が子を宿したことで、居てもたってもおられず、支配町を走り回る麻さんの様子から始まる。単に嬉しさからというわけじゃなく、この辺は、それこそ長いお付き合いをしてきた読者なら、麻さんの走り回る気持ちもよくわかるだろう。「今度こそ、妻子共に無事の出産であってくれ」。その思いが「走り回る」という行動になるのが、なんとも麻さんらしい。「解説」にもそんなことが書いてあったけど、こういう感覚は、自分がもはや高橋家の支配町の住人の一人という感覚と言うか、錯覚と言うか…。作者の筆力で完全に物語世界に引きずり込まれいるということだろう。怖い、怖い(笑)。その感覚に陥るのが楽しくて、このシリーズをずっと読んできたわけだな。もうねぇ、「麻さん」とか言ってる時点で術中にはまってるよ、お前さん(笑)。

高橋家は神田の町名主ということで、家庭のもめごとや町内の諍いなど、事件性のない「お困りごと」を裁くのがお仕事。と言いながら、結構シリアスな問題、要するに「こいつは奉行所の範疇」という案件も持ち込まれることも多い。そういうのも、麻さんは上手いこと町名主の案件として事を収める。ある意味「名裁き」ぶりを発揮する。そういうお話、結構スカッとするんだが、今作はどの案件の内容も、事件の解決ぶりも低調だったなぁという感じ。「よ!麻之助!このお気楽者がやるね!さっすが跡取り息子!」と喝采を送りたくなるような場面はなかったかなぁ…。毎回、1本か2本はそういう案件なんだけど、今回はやっぱり、麻さんとお和歌さんに、男児が生まれ、母子ともに無事というのが、メーンの話になるのかな。

スカッとするわけじゃないが、『終わったこと』が剣呑なシーンで締めくくられているのが、好みだな。「今度。団子でも食べに行こうか」みたいな呑気な終わり方は、このシリーズらしくていいけど、『終わったこと』みたいな剣呑なシーン、「麻さん危機一髪!」みたいなシーン、だけど捕方の足音からして、助かるな、みたいな締めはスリルがあって良いね。

この時代、出産で命を落とす母親、生まれてすぐ死んでしまう赤児は相当多かったと聞く。麻さんも経験済みだ。そんな中で、母子ともに無事というのが、どれだけ尊いことか…。麻さんも両親も身に染みているだろう。生まれてきたお坊ちゃん、麻さんの父親、宗右衛門さんとお和歌さんの父親、金吾さんから一文字ずつもらって「宗吾」と決まった、とは支配町の連中のうわさ話で、アタシもちょいと小耳にはさんだもんでね(笑)。

まあ「お気楽者」とか言われながらも、麻さん、支配町から愛されてるから、子供ができたってことで、町中で宴会になってにぎやかなことこの上ない。良き光景。俺も一杯飲ませてくれ~(笑)。

ま、そんなこんなの「麻さん、父親になる」のシリーズ第9弾でありました。

10弾も単行本で絶賛発売中!

 

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