【毒書の時間】『女の樹林 下巻』 黒岩重吾

上巻を読み終えたら、さっさと下巻へ。間に別の本を挟んで「ちょっとクールダウンを」なんて思っていたら、結局何か月も後回しになってしまう、なんてことはこれまでも度々あったので、間髪入れず読むことだ。結末が気になるが、何十年も前に読んだ本だけに、段々とストーリーもよみがえるし、「最後はこうねるねん」というのも思い出したり。それでも「手が止まらなくなる」のは再読の面白いところだ。

『女の樹林 下巻』 黒岩重吾

角川文庫 ¥460
昭和50年4月15日 初刷発行
昭和54年8月30日 12版発行
令和7年11月28日読了
※価格は昭和54年8月30日12版発売時

これもやっぱり角川文庫のリニューアルに合わせて12版が発行されたということだろう。もちろん帯は捨てているが、某フリマサイトに出品されている本書の写真に帯が付いていた。これだけ古い本で帯まで付いて残っているのは、それだけで希少価値が高いと思うんだが、えらい安かった(笑)。『西成十字架通り』で記したが、TBS・MBS系TV全国ネット「黒岩重吾シリーズ」。その中でなんと7回連続の重厚さで放映されたようだ。観てるはずなんだが…。裏表紙の帯には「角川映画が贈る二大大作!」として『戦国自衛隊』と『復活の日』の宣伝。帯は残しておこうね…。

上巻で張り巡らされた伏線と緊張。下巻で一気に動き出すのかと思いきや、なかなか「回収」に移らない。何を焦らしてねんや、というところ。

黒岩作品と言って想起するのは、いわゆる「西成、飛田もの」で描かれる女の業(ごう)による泥沼の物語…。かもしれないが、本作は芦屋が舞台で、何不自由なく生活する姉妹の物語である。「こういうのも書くのね」と意外に思うだろうけど、「西成、飛田もの」は初期の頃の作品群。この作品の時代背景は、前回も記したが、1970年の大阪万博前夜と思われる。この頃に執筆された作品は実に多く、この先、ガラクタ山から引きずり出してくる黒岩本も、この時代背景の作品がかなりあるはず。

とは言え、そこはやっぱり黒岩重吾。女の業(ごう)による泥沼の物語になっている。そして、あの閉ざされた家の空気、湿って重たい姉妹を取り巻く人間関係、どうしようもない感情のからまり。逃げ場がない世界なのに、ページをめくる手が止まらない。“じっとり濃い”黒岩重吾の真髄が詰まった下巻だった。

上巻では、継母・京子の妊娠により、家督や会社の後継者が姉妹ではなくなる可能性が出てくる。堅実的な妹の梨江は「家を守るため」に結婚を考え、自由奔放な姉の須磨子は、新幹線で偶然出会ったカメラマンの高能との恋に揺れる。大体やね、本命の恋人である山城に会いに行く途中で出会った見ず知らずの男に恋心を抱くなんて、自由奔放にも程があるやろって、ハナシではあるんやけどね(笑)。そもそも、京子さんは、家や会社を乗っ取るために結婚したんかな? そこは明らかにされてなかったけど…。まあ、下心はあるんやろね。そこが霧の中みたいにぼやけてた。物語的には、それくらいの塩梅がよかったのかな?

さてそして下巻では、その京子さんの妊娠をきっかけに梨江が決行した大胆な「計画」が、姉妹間に深い亀裂を生む。こりゃあかんね、こういうのは。と、思うのは小生が須磨子と同じく「上の子」で、彼女にシンパシーを感じているかもしれないね。読者自身の立場や感性まで引っ張り出してくる のが本当に巧いなあと感じる。

大胆な計画により、さらに冷え込み、離反する二人の心…。時代的には日ソ冷戦みたいな(笑)。そこに父の会社の危機が重なり、戦前から築いた華やかな芦屋生活が崩壊の危機に陥る。そんな中、須磨子は高能との初めての旅に出発し、梨江は自分の選択の重さに苦しむ。家族の運命が交錯する中、姉妹の哀歓が美しく、切なく描かれる。

それにしても、姉妹の心理描写がすごいね。さっすが黒岩重吾。底辺の女たちの泥沼の物語を散々見てきているだけに、こういうのがめっちゃ上手い。その筆致は華麗でさえあり、女性の感情を細やかに捉えている。

家と会社の継承、父の後妻(=継母)の妊娠、姉妹の絆の危うさ…。今でいう「家族の再生」や「女性の選択」みたいなのがテーマで、時代を超えて共感できる部分もあるんじゃないかと。同時に社会派作家らしい鋭さも感じる。

結末は優しくて救いがあるけど、切なさが残る余韻がこれまた最高。はるか昔とは言え、一度読んでいるから、わかっちゃいたけど、「おお、お姉さん、そう来たか!」と。その決断、あっぱれですな、というわけで…。まあ、気になったら、ぜひ読んでほしい黒岩作品の一つ。古本屋では多分入手できないと思うけど、フリマサイトには安く出ているよ!

ところで、「樹林」なんだが。上巻の稿で記したのは、

ところで、『女の樹林』というタイトルの「樹林」だが、女たちの心が一本一本の木のように複雑に枝を伸ばし、絡み合っている様のことだろうか…。下巻ではさらに樹林の奥に踏み込んでいくことになるのだろうけど、富士山の樹海みたいに迷い込んだら出てこれない、みたいなことになりそうで、怖いなぁ(笑)。

だったが、樹海には踏み込まなかったけど、熱帯雨林をスコールに遭いながら歩き進める、って感じではあった。そして見つけた。「樹林」という言葉を本文中に。家を出る決意をした須磨子が、友人の直子の紹介で下見に行ったマンション。そこから見えるのは「中之島公園の樹林」…。ちょっとがっくりきたわ(笑)。

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