【睇戲】盜月者

<やっとこさの『盜月者』(泣)。繰り返しますが、決してMIRROR迷じゃないです(笑)。ところで、後ろの警備員さんはなんていう役者さん?>


「大阪アジアン映画祭」は終わった。父の入院生活のこともあり、しばし映画はお預けとしたいところだったが、もう何度も見逃してしまっているこの1本だけは、なんとしても観ておきたい。思えば、昨年の大阪アジアン映画祭でチケット瞬殺に泣いた日から、1年が経過した。今、ようやく盗人たちにお会いできる。いや~、待ったねぇ…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

盜月者 邦題:盗月者 トウゲツシャ

港題『盜月者』 英題『The Moon Thieves』
邦題『盗月者 トウゲツシャ』
公開年:2024年 製作地:香港
言語:広東語、英語、日本語 上映時間:108分
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):袁劍偉(ユエン・キムワイ)
監製(製作):袁劍偉、邵劍秋(ジェイソン・シウ)、彭立威(レイ・パン)
編劇(脚本):袁劍偉、陳健鴻(ロナルド・チャン)、凌偉駿(ライアン・リン)
攝影指導(撮影監督):譚家豪(カール・タム)
動作指導(アクション監督):鄧瑞華(ジョニー・タン)
剪接(編集):黃海(ウォン・ホイ) 美術指導(美術監督):利國林(ビリー・リー)
服裝指導(衣裳デザイナー):陳子晴(セブン・ドス・サントス)
視覚特效總監(視覚効果):吳家龍(ン・カーロン)
音響設計及混音(音響設計・ミキシング):姚俊軒(イウ・チュンヒン)
原創音樂(オリジナル楽曲):波多野裕介

領銜主演(主演):呂爵安(イーダン・ルイ)、盧瀚霆(アンソン・ロー)、張繼聰(ルイス・チョン)、白只(マイケル・ニン)
主演(出演):袁富華(ベン・ユェン)、郭鋒(サミュエル・クォッ)、張松枝(デオン・チャン)、邵美君(ルナ・ショウ)、蘇振維(ソー・チュンワイ)、田邊和也、朝井大智、笠原竜司、山本修夢、結城さなえ
特別演出(特別出演):姜濤(ギョン・トウ)

《作品概要》

アンティーク時計の修理に天才的な能力を持つ時計修理工のマー(イーダン・ルイ)は、老舗時計店の二代目店主であり裏では盗難時計売買の顔を持つロイ(ギョン・トウ)に自身が修理した時計を偽造販売したことがばれ、ある高級時計の窃取を強要される。狙いは、死後50年後に日本で発見され、東京・銀座の時計店に保管された、画家ピカソ愛用の3つの時計。集められたチームは、リーダーのタイツァー(ルイス・チョン)、爆薬の専門家マリオ(マイケル・ニン)、鍵師のヤウ(アンソン・ロー)、そしてマー。彼らはオークションが開催される東京へと飛び、下調べをして銀座の時計店に侵入したが……<引用:映画『盗月者 トウゲツシャ』公式サイト

2024年の農暦新年(旧正月)の「賀歳片(正月映画)」。まあそれらしく、ポスターは赤い(笑)。そしてトップアイドルユニット「MIRROR」のメンバーが出演して、顔見世興行のような感じ(笑)。内容は…。正直なところ「それほどでもない」「可もなく不可もなく」というところ。実際、香港でも「大ヒット」ということでもなかったようだが、出演者が出演者だけに、賀歳片としては充分合格点というところか。この時期、海外作品も含めて競合が多いからね、頭一つ抜け出るのは並大抵じゃないと思う。

ちなみに「興収はHK$2,834万で、2024年の香港映画の中で第5位の成績」と、ChatGPTが教えてくれたんだが、MIRRORから3人出演している割には、少ないんじゃないのかなと…。

ま、中身は想像してた通りでした。なるほど興収の数字はウソつかない(笑)。

だからと言って「早よ終われ!おもんないぞ!」ってわけでなく、そこそこ楽しめたので、そのあたりをざっと記していこうと思う。

本作は、2010年に東京・銀座で実際に起きた高級腕時計の窃盗事件に着想を得ている。なので、大部分は東京で撮影されている。で、「見どころは?」と聞かれたら、そりゃまあ、MIRRORから、呂爵安(イーダン・ルイ)、盧瀚霆(アンソン・ロー)、姜濤(ギョン・トウ)の3人が出演しているってことだろう。それぞれの役どころは以下の通り。

呂爵安(イーダン・ルイ)
物語の中心となる気弱な天才時計修理工、馬文舜(マー)を好演。アンティーク腕時計の愛好家。

香港大学卒の呂爵安。就職先は引く手あまただったろうに…。それだけにこういういで立ちが板についている

盧瀚霆(アンソン・ロー)
複雑な過去を背負い、窃盗団チームに参加するミステリアスな青年、李錦佑(ヤウ)。母親(紅姐 演:邵美君/ルナ・ショウ)は元・鍵師。

姜濤(ギョン・トウ)
萊寶行という時計店の二代目。冷酷非情な黒幕、萊叔(ロイ)という、これまでのイメージを覆す悪役に挑戦。

姜濤に悪人は似合わなかった、というのは小生の正直な感想

上の画像のは萊叔が二代目店主として経営する萊寶行。実店舗を使って撮影された。場所は「究極の下町」、小生の愛すべき街、深水埗(Sham Shui Po)。老舗時計店の「廣生鐘錶行」で行われた。そうそう、昔の香港の時計屋さんって、こんな雰囲気だった。パンフではオーナーさんが時計について熱く語っている。ロケ地巡礼にはもってこいの場所だな。好きな人は行くんだろうね(笑)。

超辛口批評になって、ファンからは大顰蹙を買うかもしれないけど、そこを敢えて覚悟で言うと…。

この映画の致命的な欠点は、萊叔に姜濤を起用したことだ。彼の少年のような勇ましさは、なんとも微笑ましいが、それ故に威圧感も権威もまったく感じられなく、かなり虚ろな悪役となっている。呂爵安と盧瀚霆が適役だと感じたのに、もったいないキャスティングだと思った。ああ、言うてしもた…。姜濤ファンの皆さん、ごめん!

アクションはまずまずだったw。アクション監督の鄧瑞華(ジョニー・タン)がいい仕事をしていたのが随所に感じられた

さて、映画については「『オーシャンズ11』のようなハリウッドのクライム映画を彷彿とさせる、チームによる緻密な計画と二転三転するスリリングな展開…」こんな感想をあちらこちらで見かけた。はは~ん、そうなんや。しかるに、小生はその『オーシャンズ11』とやらを観たことないばかりか、今回初めてそのタイトルを知った。ということで、そんなことを語られても、余計にわからなくなるだけなので、そういう意見もありましたよ~、っていう紹介まで(笑)。

窃盗の話を大賊(演:張繼聰/ルイス・チョン)と李錦佑に持ち掛ける萊叔。なるほど、権威がないね…。だからこそ、父の名前、萊叔をそのまま名乗ってるんだろう

大体やね、呂爵安が演じる馬文舜(マー)が、修理した時計を偽造販売したことが、裏の顔を持つ萊叔(ロイ)にばれてしまったからあかんねん。そんなヘマしなけりゃ、世の中は一応は平和に進んだはずや…(笑)。まあ、物語の発端ってのは大体そういうものではあるけど(笑)。

馬文舜は、ヴィンテージ時計取引に関する抜け目のない知識で、萊叔より数歩先を行くことができているが、まさか萊叔の怒りを買うことになろうとは、想像だにしていなかっただろう。下の画像の表情を見ても、そんな感じだ。呂爵安の出演作を観たのは、これが三作目だが、こういう表情づくりが上手い演者だなと毎回思う。若いのにねぇ。MIRROR迷じゃないけど、若干、呂爵安推しですww。

「こいつの腕、ぶった切ってしまいましょか!」「ひぇ~~!お助けを~!」って状況w。「まあ、待てや。俺に考えがある」と萊叔。という感じのシーン

「日本でピカソ愛用の3つの時計を盗んできてね」と、萊叔。これに巻き込まれて窃盗団として日本に向かうのが、盧瀚霆の演じる李錦佑、張繼聰(ルイス・チョン)演じる大賊(タイツァー)、白只(マイケル・ニン)演じる渠王(マリオ)。リーダー格は窃盗の経験豊富な大賊。それぞれが特技を生かして盗みを働くという展開。チームワークばっちりかと言うと、まあ見かけはそうかも知れんが、それぞれが胸の内に苦悩と打算と疑念を秘めていて、そこが見え隠れして物語を面白くしている。

そもそも、萊叔が大賊と渠王を仲間に指名したのは、二人は父の代からの萊叔一派だから。その点については、古いメンバーを消していきたいという萊叔の企みがあって、この窃盗計画に乗じて、始末してまおうとしているのでは、という疑念を大賊と渠王は常に抱きながら、ミッションにあたる。

「下見」のために、香港の富豪になりすましてターゲットとなる銀座の時計店を訪れた盧瀚霆(アンソン・ロー)が演じる李錦佑(ヤウ)。不思議に思ったのは、こういう衣裳はいつの間に調達したんだろう?(笑)。てなことを考え出すと、不思議だらけになるから考えないようにしたww

李錦佑を連れて、ターゲットの時計店を訪れた馬文舜。店内を見渡していると…。幸か不幸か、馬文舜はとんでもない代物を発見してしまう。アポロ11号による人類最初の月面着陸時に共に月へ行った「ムーンウォッチの43番」である。萊叔にバレた偽造時計は実は「ムーンウォッチの43番」だったのだ。馬文舜は萊叔からのミッションよりも、これを手に入れることに心が大きく傾いてしまう。これがまた、物語をこじれさせて面白くしてゆく大きなポイント。ムーンウォッチは、本来のターゲットであるピカソの3つの時計と共に保管されていた…。うまいこと話が展開する(笑)。

アポロ11号の月面着陸、覚えてるよ。小生は幼稚園年長さんだったけど、朝起きたら母親が人類初の月面着陸のことを教えてくれたし、幼稚園でも先生が教えてくれた。そして数か月後、その時に持ち帰った「月の石」が大阪万博で展示された。

まあ、万博はさておき。

香港のスターの皆さんが、東京の夜の街で「今夜、何食う?」と相談する実にクールな一コマw

4人が東京で落ち着く先が、なんかもう前時代もいいところの渋~い宿なのか下宿なのか…。民泊とかマンスリーマンションとかじゃないという、このチョイスは監督の発案なのか? これはよいですな。

こたつに入って作戦会議というシーンも、映画の舞台の大半が日本という本作ならではだろう。大学時代の友人の下宿を思い出す部屋だ

大きな山場の一つは、下水管から壁を爆破するシーン。堅牢な保管装備から盗み出すため、下水道管から壁を爆破して金庫のあるVIPルームへたどり着くというプラン。ここで才能を発揮するのが、白只(マイケル・ニン)演じる渠王(マリオ)。「渠」の名がつく通り、下水管作業はお手のものである上、現在は映画撮影の現場で爆破シーンを担当と、実に話がよくできている(笑)。

下水管のシーンは香港でセットを組んで撮影された。なかなかよくできたセット

金庫のあるVIPルームへたどり着いた4人。古風な金庫にピカソ愛用時計は保管されている。クルクルとダイヤルを回して開錠するのではなく、50音の押しボタンを5回(だったと思う)押して開錠という、外国人には極めてハードルが高い金庫。まあ日本人でもハードル高いと思うけどw。さすがやね、鍵師の血をひく李錦佑(ヤウ)。苦労しつつも、コトンと開けてしまう。

ここでいくつかの計画に狂いが生じてしまう…。映画が面白くなるのはここらあたりからだろう。計画に予期せぬ問題が発生し、綿密な準備にもかかわらず、ヤクザに追われる身となってしまう…。

4人が東京でのアジト代わりにしていた、前出のせせこましい下宿屋でのアクションシーンは、結構見応えがあった。武術班の技量がうかがえるシーンだった。しかしまあ、香港では萊叔に脅され、日本ではヤクザに追われと、挟み撃ちされてしまう4人。程度の差はあっても、4人とも「なんでこんなことに…」と思っている。要するに「巻き込まれ系」「巻き添え系」な4人。と言うか、ムーンウォッチをめぐる「馬文舜の冒険」に3人が巻き込まれてしまったのか(笑)。

時計を分解して、また組み立てて…。この作業は馬文舜の独壇場。なぜ分解? それは映画を観てのお楽しみに!

筋書きを追うのはこの辺にしておこう。

本作は袁劍偉(ユエン・キムワイ)監督の3作目となる。前2作では、監督が自身のスタイルと商業映画を融合させることに苦労していたようだ。小生自身は前2作を観ていないので何とも言えないが、2作の予告片を観た限りでは、そう感じる。しかし本作では、その融合が上手くいったのではないだろうか。監督独自のスタイルを色濃くにじませながらも、作品全体との調和も取れているようで、少なくとも前2作から感じられた退廃的な作風は払拭されたと思われる。ただ、それは彼の意図した方向性なのかどうかは不明だが…。後半のアクションシーンも見せ場こそわずかだったが、観客の満足いく域には達している。波多野裕介の音楽も、随所で効果を発揮しているが、何と言ってもエンディングに羅文の『心裡有個謎』が使われていて、オールド香港歌謡マニアには嬉しい限りだ。このチョイス、センスあるなぁと思った。

張繼聰(ルイス・チョン)演じる大賊(タイツァー)と姜濤(ギョン・トウ)演じる萊叔(ロイ)

俳優陣では、異なる個性を持つ俳優たちの掛け合いが巧みに描かれている。中でも、張繼聰(ルイス・チョン)演じる大賊(タイツァー)は、作品全体の鍵を握る存在だ。冒頭では彼の凶暴さが描かれるが、その後、人間味あふれる一面や仲間への思いやりが描かれ、落ち着いた演技が光る。近年、多くの出演機会を得ている白只(マイケル・ニン)は、この渠王(マリオ)という役柄を非常に大切にしているようだ。彼自身も抱える苦悩があり、それも作品の中で明らかにされている。

商店街を歩く白只(マイケル・ニン)演じる渠王(マリオ)と呂爵安(イーダン・ルイ)演じる馬文舜(マー)。それぞれが事情や欲望を抱えている…。しかし着替えの数よ、どんだけ服持って来てんねん、それとも現地調達か?

そしてMIRRORの3人。呂爵安(イーダン・ルイ)、盧瀚霆(アンソン・ロー)は『過時·過節(邦:香港ファミリー)』以来、再び同じ舞台に立ち、息の合ったところを見せた。二人の演技は、窃盗団のプロ意識を際立たせた。同時に、二人とも状況に直面する際の臆病さも、上手に表現していた。それだけに前述の繰り返しになるが姜濤(ギョン・トウ)のミスキャストは悔やまれる。別の役どころ設定して、呂爵安、盧瀚霆とうまく融合させたほうがよかったように思うが…。

以上の5人の主人公際立たせるべく、脇役に袁富華(ベン・ユェン)、郭鋒(サミュエル・クォッ)、張松枝(デオン・チャン)、邵美君(ルナ・ショウ)など多くのベテラン俳優も出演。さらには日本側の悪役として、田邊和也朝井大智笠原竜司ら日本の実力派も多数出演し、それぞれが個性的な役柄を演じている。

個人的に、というか日本人ならツボったと思うが、ラーメン屋で4人がラーメンすするシーンはなんだか嬉しいし、釣り堀と簡易郵便局が後半の物語の大きなキーとなるのが面白く思った。釣り堀とか簡易郵便局なんて、誰のアイデアなんだよ(笑)。

登場人物は、誰もがそれぞれの事情や欲望を抱え、完璧な善人は一人もいない。窃盗団のメンバーそれぞれが持つ背景や、彼らを脅かす悪、そして日本の裏社会の人間たちが、互いの利益のために駆け引きを繰り広げる。賀歳片(旧正月映画)らしからぬ単純な勧善懲悪ではない物語だからこそ、キャラクターたちの人間的な弱さや葛藤が際立ち、深い余韻を残してくれる。主要キャラに女性が一人もおらず、故に色恋沙汰のストーリーもまったく存在しないという、アイドル出演作としては珍しい筋立てになっている。

小生的には賀歳片はゲラゲラおかしいものが好きだなので、評価としては★3つと、待ち望んだ作品ながら、ちょっと辛口評価になってしまった。

■ 受賞など ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

○第43屆香港電影金像獎(4月27日受賞者発表)
1部門でノミネート

■ 終極預告 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

(令和7年4月3日 シネ・ヌーヴォ)

「ムーンウォッチ」がベースとのこと!これであなたも「盗月者」になれる!


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