【毒書の時間】『馬場戦記 第1巻 世界進出編』 流 智美

<ジャイアント馬場と言えば、32文ロケット砲! この打点の高さを見よ! 145キロの巨体でこんなに跳べる脚力を見よ! 足の筋肉を見よ! ほんと、これほど説得力ある技はないね(相手はライバルの一人、ゴリラ・モンスーン)>


令和7年最初の読書は、我が永遠のヒーロー、ジャイアント馬場関連の1冊から。

アントニオ猪木逝去の後、今回の『馬場戦記』の著者、流智美(ながれ・ともみ)による『猪木戦記 第1巻~3巻、0巻』が発行された。元プロレスマニアの小生としては、全巻揃えても不思議ではない4冊なんだが、何分、猪木にはあまり興味のない人間なんで、全部立ち読みで済ませた(笑)。今回、1999年1月逝去の馬場の25回忌の年に、『馬場戦記』発行となった。なにせ、馬場の全盛時代にプロレスを知った小生。あの当時の馬場がどれほど強くて人気があったかを記憶する世代。テレビの視聴率は、『日本プロレス中継』『ザ・ガードマン』『ザ・ヒットパレード』が激しくトップを争っていた時代。つまり、ジャイアント馬場は、当時のトップスターたちと互角の勝負をしていたのだ。その馬場に胸ときめかせたちびっ子ファンの一人である小生が、この本を買わないわけにはいかんだろ(笑)。

そりゃねもう、歯医者や散髪屋にあった週刊少年漫画雑誌の表紙は、王・長嶋、大鵬、馬場のローテーションでしたよ。つまりは、ON、大鵬と並ぶ少年たちのヒーローだったわけだ。今回の第1巻は、その前の馬場のストーリー。プロ野球に別れを告げ、力道山に入門するあたりから。

『馬場戦記 第1巻 世界進出編』 流 智美

ベースボール・マガジン社 ¥1,980
2024年10月31日 第1版第1刷発行
令和7年1月11日読了
※価格は令和7年1月15日時点税込

いやもう、アナタねぇ、何がびっくりかって、絶大なる猪木信者で反馬場派の急先鋒とでも言うべき流智美が「馬場本」を書こうとは、プロレスファンの誰が想像したでありましょうか!ってやつでしてね。徹頭徹尾先祖代々過去帳一切の「馬場派」である小生としては、実に憎々しい奴なわけでして(笑)。

前シリーズの『猪木戦記』は、そんな著者の「猪木愛」のなせる著書だったわけだが、果たして『馬場戦記』も「馬場愛」に満ちたものになるんだろうか…。小生は結構心配しながらページを開いたわけだが…。

その前に改めて『馬場戦記』とは?

大好評『猪木戦記』に続くプロレス戦記シリーズ第2弾。没25年!誰も知らないジャイアント馬場がここに在る!
日米のプロレス界に巨大な足跡を残したジャイアント馬場の「偉大さ」とはどのようなものだったのか?プロレス史研究の第一人者である流智美氏が独自の情報源・視点から、プロレスラー・馬場の闘いの歴史をマニアックな視点で克明に追い、知られざる歴史を掘り起こす。初公開写真、多数掲載!<全3巻>

サブタイトルに「新しい視点でたどるジャイアント馬場物語」とあり、それこそ「馬場批判」に満ち溢れた内容だったりして…、なんて思っていたんだが、実際には、かなり好意的な、と言うよりも、あくまでジャーナリスティックにデビューからわずか9か月という異例のスピードで渡米し、瞬く間に全米にドルの雨を降らすトップレスラーの仲間入りを果たした馬場を書いている。初めて見た写真や新聞記事も多く、それだけでもかなり資料性の高い一冊に仕上がっていた。そこはプロレスマスコミの老舗、ベースボール・マガジン社が発行した本というのもあるだろう。

猪木の新日本プロレスを中継するテレビ朝日の『ワールドプロレスリング』の解説を長く務めた、東スポの櫻井康雄の回想を引用した箇所が多い点にも注目したい。『ワールド~』の解説者ということで、どうしても猪木一派と見られてしまう櫻井氏だが、実は若いころから馬場が心を開いて話す数少ないメディア人の一人だった。そんな櫻井氏の回想は、やはり貴重なものが多く、馬場がポロっとこぼした胸の内など、なるほど、これまで知られていなかったことも、多々書かれており、非常に興味深い。

「まえがき」にこんな一節があった。

第1巻の本書は、1968年から71年にかけて『少年キング』で連載された人気漫画『ジャイアント台風』(原作・高森朝雄=梶原一騎、画・辻なおき)を、私なりの方法論で再構築してみた。

ああ、なるほど。本文中にもあったが、海外のプロレス情報を入手するのが困難だった時代。やってもいない試合を国内メディアが勝手に「あったこと」にして、堂々と紙面に「試合結果」としてご丁寧に試合詳報まで載せていた時代。そんな時代にあって『ジャイアント台風』で描かれていた、1963年ごろの馬場の全米をまたにかけた活躍ぶりは、プロレスファンにとっては「ほー、こりゃすごい!」という内容だったわけで、それを櫻井氏の証言や、著者自身の丁寧な歴史の掘り起こしによって仕上げたのが、この第1巻というところだろう。しかしねえ『ジャイアント台風』のヒットというのは、70年代の馬場人気に拍車をかけたね、あれはたしかに面白かった!

そしてこの本もまた、実に面白い。概ね、小生が生まれたころのジャイアント馬場、アメリカのプロレスマーケット、力道山と日本プロレスのことがよ~くわかる。何と言っても、豊富な写真や当時の新聞記事の数々は、老眼の目をこすりながら必死で読む価値のあるものばかり。写真を見れば一目瞭然、ほんと、この時代の馬場は惚れ惚れする肉体である。

アメリカ人でさへ驚く巨体に加え、野球で鍛えた強靭な足腰と類まれな運動神経は、何よりの武器。そこへフレッド・アトキンスというアメリカでの師匠に恵まれ、おまけにグレート東郷のマネジメントも生き、「天文学的な」契約金を提示されるに至る。また、当時の世界チャンピオン、バディ・ロジャースと何度も胸を合わせ、その試合スタイルをつぶさに見ていたことで、「アメリカンプロレス」を吸収していったことは、馬場のスケールの大きな試合を形成するのに大きく寄与した。後年、アメリカ修業時代を語るとき、馬場は必ずロジャースのことを語った。それだけ多大な影響を受けたのだろう。

力道山はそんな愛弟子を見て、自分の後継者と確信を持つ一方で、馬場に対する嫉妬心も抱いていたはず。力道山に貸した金(弟子から借りるな!w)が戻ってこないをはじめ、カネを巡って力道山との間にすきま風が吹き始める…。そして力道山の死をアメリカで知る馬場。すでに心はアメリカ定着に傾いていた馬場だが、東郷、日プロの馬場の取り合いが激化する中、結局、帰国を余儀なくされる…。この辺の「運命のいたずら」的展開は、小説になってもおかしくない流れだ。そりゃ『ジャイアント台風』がヒットするはずだ。

「ほほ~」と思ったのは、正力松太郎の号令のもと、日本テレビが力道死後、馬場に「終身保証」を約束したということ。この一件は、まず力道山の後継として馬場が日テレにとって欠かせない番組コンテンツだと目されていたこと。後の「馬場時代」の到来を見れば、判断に間違いはなかったことがわかる。やがてこの流れは、馬場独立~全日本プロレス旗揚げ~馬場死去~三沢らの離脱とノア旗揚げ~日テレによる全日本プロレス中継終了とつながっていくのだから、日テレはこの時の約束を十分果たしたというわけだ。おもしろいなあと思う、この展開。

まだまだ色々と書きたいことてんこ盛りなんだが、あまり長くなっても皆さまご退屈。ということで、この辺で止めておきましょう(笑)。

さて、この後、第2巻(多分、馬場時代、猪木とのBIコンビ、日プロ離脱)、第3巻(多分、全日本旗上げ、NWA加盟、3度のNWA世界戴冠)と続くんだろうと思うけど、時代が下がるに従い、資料や著者自身が見た試合も多くなるし、何よりも読者の多くが「目撃」した試合、出来事が一挙に増えるので、第1巻以上に楽しみである。いつ出るんかな、次は…。

こちらも興味があれば…


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