【毒書の時間】『宇治拾遺物語』 町田康 (訳)

宇治と言えば、平等院鳳凰堂。そして『宇治拾遺物語』ということになる。「宇治」と付くからには宇治のハナシを集めたのかと言うと、そんな狭いエリアのネタだけではないってのが、これの面白いところ (photo AC)>


これまた年に何度か読みたくなる町田康。きっと好き嫌いがはっきり分かれる典型的な作家だろうなと思う。小生などは、年齢もほぼ同じだし、生まれ育った地域も近接しているし、演芸や上方の古典芸能好きという点も似通っているので、好みではある。ただ、時に「長ったらしい」とイラつくこともあるけど(笑)。大きな違いは、マチーダ先生はロッカーで、小生はロッカーでないという点。ロッカーはもちろん、荷物入れのことではない。ロックをすなる人という意味である。

マチーダ先生は『義経記』『古事記』など古典の「町田流」の現代語訳をこれまで書いており、いずれも好評を博しているようだ。ようだ、というのはもちろん読んでいないからだ。文庫本でも相当に分厚いので、見ただけで恐れおののいてしまうのだ(笑)。

で、今作は、かの『宇治拾遺物語』である。よく高校の古典の教科書に出てくる、あれである。国文学の世界では「説話集」とカテゴライズされている。なにより分厚くないのがいい(笑)。分厚くないということは、お値段もお手頃ということでもある。「ほな、いっぺん読みましょか」となった次第。

『宇治拾遺物語』 町田康 (訳)

河出文庫 ¥880
二〇二四年四月一〇日 初版印刷
二〇二四年四月二〇日 初版発行
令和6年6月6日読了
※価格は令和6年6月11日時点税込

宇治拾遺物語』はそもそも源俊賢(としたか)が避暑を過ごした平等院の南泉房で、通行人に語らせたおもろい話を書きとどめた『宇治大納言物語』からピックアップした話やら、後世の人が「これも入れとこ」と加えたおもろい話を拾い集めた=拾遺した説話集ってことになっているが、これはまだ研究の余地があるんじゃないかと、個人的には思っている。大学生の時なら、それこそ国文生だったわけだから、卒論にしていたかもしれないが、今はそんな暇も根性もない(笑)。

さて本書。池澤夏樹個人編集『日本文学全集』全30巻の中の『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』のうち、マチーダ先生が口語訳した『宇治拾遺物語』の文庫化である。

帯に「腹筋崩壊。煩悩切除。」と大書されているが、そこまでは…(笑)。しかしながら、さすが町田康。あの『宇治拾遺物語』を、こう読むか!と、口語訳より、マチーダ先生独特の思考回路に笑ってしまう。原文にはないけれど、原文の隙間に見え隠れする「きっとこんな風に思ってたんやろなあ」とか「こういう解釈をしてほしかったんちゃうの」やら「ここ、いきなり場面変わって説明不足やん!」みたいなことを、町田流で表現してくれるので、古文の時間に「まあおもろいちゅーたらそうやけど…」って具合に「な~んか足らんのよね」と感じていたことを、ズバズバと書いてくれるから楽しい。

まあねえ、まさか高校の古文の時間に「やりたい! やらせろ!」なんて訳文ができるわけないから、そこは授業中は辛抱して、登下校の際やご家庭で、この本を読めば、次の授業は楽しみが増えるんじゃないだろうか、世の高校生諸君よ!(笑)

改めて『宇治拾遺物語』をこうして眺めてみると、「こぶとりじいさん」「わらしべ長者」や「腰折れ雀(雀の恩返し、舌切り雀)」など民話として知られたものや、芥川龍之介の『芋粥』『』『地獄変』など近現代の文学作品に昇華した話なども多く、意外と身近な説話集であることがわかる。さらに、「下ネタ」の多いことにも笑ってしまう(そういうのをチョイスしたかとは思うけど)

それと、タイトルの訳文も素晴らしい! 思わず「新潮日本古典集成 宇治拾遺物語」広げたわ(笑)。

「中納言師時が僧侶の陰茎と陰嚢を検査した話(中納言師時、法師玉茎検知事)」「藤大納言が女に屁をこかれた(藤大納言忠家物言ふ女放屁の事)」「絵仏師の良秀は自分の家が焼けるのを見て爆笑した(絵仏師良秀、家の焼くるを見て悦ぶ事)」なんてのは、タイトル見ただけで、面白そう!って思うやん、思わんか?

解説で日本文学研究者で中世文学が守備範囲の小峯和明氏も言ってるが、本書にて口語訳されているのは、『宇治拾遺物語』の説話総数約200話の内のわずか33話にすぎない。もうこうなったマチーダ先生、全訳しましょ!なんなら、手伝いまっせ(笑)。

ちなみにこの全集、当代の売れっ子作家さんたちが、色々な古典作品をその人流に口語訳している。今後読んでみたいと興味を持ったのは、『竹取物語』(森見登美彦)、『堤中納言物語』(中島京子)、『春色梅児誉美』(島本理世)、『女殺油地獄』(桜庭一樹)、『菅原伝授手習鑑』(三浦しをん)、『義経千本桜』(いしいしんじ)あたりかな。また楽しみが増えた!

次はこれやな!


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