<前作では、それほど目立っていなかった古天樂(ルイス・クー)だが、今作では完全に主役>
「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」も、いよいよ最後の1本。結局、4本のうち3本を「塚口サンサン劇場」で観ることに。ちょっと遠いけど、その分、昼からの上映時間だったので、寝過ごす心配はない(笑)。この日は、先週観た『黑社會』の続編となる『黑社會以和爲貴』。もうねえ、タイトル見ただけでダークな世界が想像できる。ポスターも黒い。その中に赤がうまくあしらわれており、「血」を意識する。この「血」は単に暴力による流血もあれば、組織を継承するという意味での「血」、血縁の「血」など様々。しかし「和を以て貴しとなす」って、聖徳太子かよ(笑)。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
黑社會以和爲貴 邦題:エレクション 死の報復
港題『黑社會以和爲貴』 英題『Election 2』
邦題『エレクション 死の報復』
公開年 2006年 製作地 香港
言語:広東語
香港電影分級制度本片屬於第Ⅲ級,18歲以上人士收看(=18禁)
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):杜琪峯(ジョニー・トー)
監制(製作):羅守耀(デニス・ロー)、杜琪峯
動作指導(アクション指導):凌振幫(リン・チュンポン)
編劇(脚本):游乃海(ヤン・カイホイ)、葉天成(イップ・ティンシン)
配樂(音楽):羅大佑(ロー・ターユー)
攝影(撮影監督):鄭兆強(チャン・シウキョン)
剪接(編集):羅永昌(ロー・ウィンチョン)、張家傑(ジェフ・チョン)
領銜主演(主演):任達華(サイモン・ヤム)、古天樂(ルイス・クー)、張家輝(ニック・チョン)、林家棟(ラム・カートン)、林雪(ラム・シュー)、張兆輝(エディ・チョン)
演出(出演):王天林(ウォン・ティンラム)、鄭浩南(マーク・チェン)、譚炳文(タム・ピンマン)、徐忠信(アラン・チョイ)、安志傑(アンディ・オン)、尤勇(ユウ・ヨン)、李日昇(ジョナサン・リー)
今回知ったんだが、なんと国内で劇場初上映らしい。前作観たら、こっちも観たいって人、たくさんいただろうに。DVD出てるからいいやろ、という話じゃなく、こういうのはちゃんと続いて掛けてほしいと思う。色々とご事情もあったんだろうけど。そんなわけで、香港公開から18年の歳月を経て、ようやく日本国内の劇場公開が実現という次第。
《作品概要》
あれから2年が経ち、再び会長選挙の時期がやって来た。長老たちが支持する実業家ジミーは会長の座に興味はなかったが、事業拡大のためには権力が必要だと気づき立候補を決意する。一方、権力の魅力に憑りつかれた現会長ロクは、掟を破ってまで再選を狙おうとしていた。両者の血で血を洗う抗争は、日ごとに激化していき…。<引用:「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」公式サイト>
映画を観て思い出すのは1992年、当時の中国公安部長、陶駟駒による「黑社會也有愛国的」の発言である。かなり短縮されて「つまみ食い」的に広まってしまった面もあったけど、「黒社会もまた愛国者」という発言を警察トップがしたというのは驚きであったが、すでに祖国回帰5年前に中央は黒社会が回帰後の香港社会にとって必要悪と見ていたということだろう。もっと言えば「香港黒社会の命運はこっちが握ってますよ」という意味で、本作の主人公で黒社会組織「和聯勝」の会長となるジミー(演:古天樂/ルイス・クー)は、しっかりと首根っこを本土側に抑え込まれていることに気付くのである。
副題の<黑社會都有愛国的=黒社会は皆、愛国的>は、もちろんこ陶駟駒発言から来ているし、この作品が前作とは違い、大陸では公開しないことを前提に製作された内容になっている点では、小生がかねがね言っている「香港の監督の、香港人のための、香港俳優を使った、香港で撮った、広東語の映画」なのがいい。杜琪峯(ジョニー・トー)が国内市場に妥協せず、香港の監督としての気概を遺憾なく発揮した作品である。もっともこの当時(2006年)は、こういうことをしても、中央から特に何も言われなかった時代ってのもあるよな。
さて映画。「和聯勝」のルールとして、会長は1期限りというのがあって、前作で会長の座に就いた樂少(ロク=演:任達華/サイモン・ヤム)も「これにてお役御免」となるはずだが、いざ権力を手にすると、なかなかそういう気になれない様子。前作ではジミーに次期会長を約束するも、ジミー自身はその気はない。実業家として成功している彼は、本土での事業拡大にまい進する。
次期会長選にあたっては、樂少の配下となった東莞仔(演:林家棟/ラム・カートン)と飛機(演:張家輝/ニック・チョン)も、自分は組織に多大な貢献をしているから次期会長に適任だ、と息巻く。この二人は確かに前作で樂少のために体を張ったけど、しょせんは小者だと思うが…。
本作の主人公として抜群の存在感のジミー 。ひたすら金を稼いで金持ちになりたいので、組織のトップに立ってトラブルに巻き込まれるのは真っ平御免という気持ち。前作でも明らかだったように、選挙のキャスチングボードを握るのは「叔父輩(長老グループ)」。叔父輩は「巨大化した組織の運営には金が必要」との意見でほぼ一致しており、ジミーを次期会長に推す。ジミーはそんな叔父輩とも距離を取るようになる。
ジミーは有力な出資者、郭生(演:莫醒麟/モク・シンルン)を引き連れ、物流センター開発予定地の視察で深圳に行く。多くの本土の役人が迎え、すべてが順調に進んでいるかに見えたが…。ジミーは同行の師爺蘇(演:張兆輝/エディ・チョン)とともに、公安に捕らえられる。しかし、この師爺蘇は曲者だな。そもそもは樂少の配下でありながら「金の臭い」をかぎつけて、現状はジミーの取り巻きの一人で、次期会長にジミーを推す一人。世渡り上手と言えばそうなんだが、樂少から人が離れ始めることを予感させる。
広東省公安廳副廳長の石(シー=演:尤勇/ユウ・ヨン)は「今後、観光で本土に来るのは構わないが、ビジネスは許されない」と言う。ジミーは非常に不満を抱き、敵対組織「新記」の許生(演:張武孝/アルバート・チョン)は、なぜそれが許されるのかと尋ねる。石副廳長は「彼は新記のトップであとともに、愛国者でもある」。要するに「愛国者であり組織のトップであるなら大陸でビジネスOKよ」ということだ。ジミーは「俺だって愛国者になれる!組織の会長にも!」と憤慨する。石副廳長は「まあ、よく考えるんだな」と答え、ジミーたちを釈放した。ジミーは大陸ビジネスと引き換えに、「愛国者」であることを約束させられる、ってことか…。別に黒社会人士でなくとも、大陸で手広くビジネスを展開する香港企業は、総じて「愛国者」ではあるわな。当たり前っちゃ、当たり前で、そんなのは返還以前からのことでもあるので、驚きはないけど。
樂少は自分の再選を支持してもらうよう、叔父輩連中を説得したいと考えているが、叔父輩の一人、串爆(演:譚炳文/タム・ピンマン)は、ジミーが選挙に出馬しなくても問題はないが、実際のところは、出てこないと決着は難しいやろな、と忠告する。そのジミーは、なんとしても深圳の物流センター計画を実現して大金を稼ぎたいとの思いは強まる一方である。釈放されて香港に戻ったジミーは遂に会長選立候補を決意し、やがて樂少に対して反旗を翻し、ここに二人の争いが幕を開ける。
樂少は飛機を次期会長選で支持すると見せかけ、ジミーの殺害を依頼し、東莞仔を自分と協力するよう説得し、ジミーの経済的支援者の郭生を誘拐して会長選の出馬を放棄させろと脅迫した。棺桶に詰め込まれる郭生…。香港の棺桶は、家具にでもできそうなごっつい木材で作られる。あれは中々焼け落ちそうにないで…(笑)。
樂少は叔父輩のリーダー格、鄧伯(演:王天林/ウォン・ティンラム)にも支援を求めたが、鄧伯は「引退する時は、名誉をもって引退しなければならない。さすれば、未来永劫、尊敬されるだろう」と警告し、「ワシはジミーを支持するで」とも言う。冷静沈着さが買われて会長の座に就いたはずの樂少だが、この鄧伯の態度にムカッときたのだろう、鄧伯を階段から突き落とす…。螺旋階段を転げ落ちる鄧伯は転落死する。ロケ地は西營盤の西區社區中心。
ジミーはプロの殺し屋、阿武(演:鄭浩南/マーク・チェン)を雇う。久し振りに見るな、鄭浩南。こういう黒社会ものとか怪しい作品には欠かせない顔。
一方、叔父輩連中はジミーに警告する。ジミーの手下の阿力(演:安志傑/アンディ・オン)は潜入捜査官の疑いがあると。ジミーは阿力を容赦なく始末する…。突然出てきて、あっという間に消されてしまう阿力。お気に入り俳優だけに、この仕打ちはないやろ~と思いながら見ていたのだが、なんでここで唐突に潜入捜査官なんてのがクローズアップされたんだろう…。そこは謎であるな。
ジミーは樂少の手下を「粛清」するために、狂犬を飼う犬舎へ連れ込む。殺害した遺体をミンチにして狂犬に食わせるという残忍な行動に出る。いや~、このシーンはエグかったなぁ。ジミーの取り巻き連中もあまりのエグさにゲロってたし。冷酷なスナイパー、阿武でさえ腰を引くほどの残忍さ。会長になると決めてからのジミーはすごく血なまぐさくなった…。
さて東莞仔。我々にも見せない、見えないトラックの荷物室の中で、殺し屋の阿武と「血戦」を繰り広げた。果たして、荷室の扉が開くと、東莞仔は阿武を殺害していた…。血のべったりついた肉切り包丁を手にした東莞仔のうつろな表情が印象深い。この密室の暴力シーンを敢えて見せないことによって、逆に非情で残忍な暴力が繰り広げられていたかが想像できる。しかし、これで東莞仔が映画から消えてしまう。その先、東莞仔はどうなったのか、映画は教えてくれない。そこは消化不良。
犬舎のシーンも荷室のシーンも非常に暴力的なんだが、もっとも暴力的なシーンは樂少の息子にとって決して消されない、あの記憶ではないだろうか。そう、前作で樂少による大Dの殺害シーンである。学校が樂少の息子の交友関係に黒社会とのつながりが疑われるとして、親子面談を求めてきたのは、前作のラストシーンでの息子の表情を見れば、予感できるものであった。
茶餐廳でいかにも黒社会予備軍みたいな金毛仔たちに、半ばカツアゲ的に金を要求される樂少の息子。そこを樂少の手下たちが金毛仔たちをぶっ飛ばし、さらに樂少は息子に「なぜ、どうして」と詰め寄る。わ~っと叫んで逃げだす息子を追う樂少を手下たちが車に乗せて追っかけるが、途中で違う方向にハンドルを切る手下たち…。裏切りである。ジミーの配下に鞍替えした奴らだった。ハンマーで殴り倒される樂少は、そのまま帰らぬ人となった…。映画では描かれなかったが、その後の息子のことが気になる。多感な年代の息子、誰が引き取って育てるんだろう…。あの子には黒社会とは別の世界で生きてほしいと願うのだが…。
こうして、唯一の候補者としてジミーは新しい会長に選出された。
物流センターの開発や本土政府による各種優遇政策により、土地獲得に成功するが、石副廳長から新たな要求を突き付けられる。「隔年選挙制度を廃止して永久再選としてもらいたい」と。石副廳長はジミーが会長であり続けることが「香港の安定と繁栄につながる」として、会長を世襲制に変更し、子孫がその職を継承することまで要求する。ジミーは怒り、石副廳長を殴ったのは、自分が中国政府に完全にコントロールされており、自分自身ではどうするこもできない身である虚しさを悟ったからだろう。
折しも、香港では「全面普通選挙」を求め、民主派が大型デモを挙行するなど、そのムードが高まっていた時期である。ジミーの境遇に、香港の未来が投影されているようで、「さすが杜琪峯、先を見越してるな…」とか「結局、香港はそういう運命よな…」などと思ったものである。新聞の劇評なども、そういう論調が多かったように記憶する。そういう意味では、会長の地位の象徴「龍頭棍」の奪い合いに焦点が集まっていた前作とは、かなり趣の違った「香港の近未来を暗示する」かのような作品となっていたのではないだろうか。
ジミーは会長の地位の象徴「龍頭棍」を鄧伯の棺に入れ、鄧伯とともに埋葬した。それは以降、「和聯勝」のトップに立つ者は「龍頭棍」を必要としなくなった。ジミー一族だけが、トップに立ち続けるから…。
↓↓この予告編は、劇場公開版には結局収録されなかった映像も含まれており、なかなか貴重な映像となっている。
Election 2 – Theatrical Trailer
《受賞》
■第26屆香港電影金像獎
4部門でノミネート
■第13屆香港電影評論學會大獎
・最優秀作品賞:『黑社會以和爲貴』
他2部門でノミネート
■第7屆華語電影傳媒大獎
3部門でノミネート
(令和6年2月24日 塚口サンサン劇場)
もう一度、じっくり観直してみたい作品
|
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。