【睇戲】『在りし日の歌』(中題=地久天長)


色んなこと、特にエンターテインメント関係を辛抱する日々も、ようやく終わるのではないかと、映画の上映再開にちょいと心落ち着く日々ではあるが、どうなるかはわからんことで、用心するには越したことはない。

と、用心せよと偉そうに言いながらも、「上映してますよ」と聞けばホイホイ行ってしまうのだから、世話のないことだ(笑)。これで野球が数を制限しながらも、客を入れ始めたり、歌舞伎や文楽、演芸場が公演を始めたら、もうとどめは利かない。そうやって「ウイルスとの共存」だの「新しい生活様式」とやらが始まってゆくんでありましょう。

で、この日観たのは中国映画『在りし日の歌』。本来ならシネ・リーブル梅田で4月から公開のところ、公開がずれ込んで系列のテアトル梅田での公開となった。個人的にはこっちのほうが便利な場所なんでいいんですけどね(笑)。

在りし日の歌 中題=地久天長

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

中題 『地久天長』 英題 『So Long, My Son』
邦題 『在りし日の歌』
公開年 2019年 製作地 中国
言語 標準中国語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):王小師(ワン・シャオシュアイ)

領銜主演(主演):王景春(ワン・ジンチュン)、咏梅(ヨン・メイ)
主演(出演):齊溪(チー・シー)、王源(ワン・ユェン)、杜江(ドゥー・ジャン)、艾麗婭(アイ・リーヤ―)、徐程(シュー・チョン)、李菁菁(リー・ジンジン)、趙燕國彰(チャオ・イエングオジャン)

1980年代から2010年代、30年間の二つの家族をめぐる激流のような物語。いくつかのテーマ、社会背景があり、いずれも非常に重たいものを感じる。大方の流れは予習済みだったが、「いきなりこの場面から始まるのか!」と少々驚いたことで、「この作品は難敵だな」と改めて気分を引き締めてスクリーンと向き合う。

<あらすじ>
国有企業の工場に勤める劉耀軍(=ヤオジュン/演・王景春)と王麗云(=リーユン/演・咏梅)夫婦は、ひとり息子の劉星(=シンシン)と幸せに暮らしていた。同僚の沈英明(=インミン/演・齊溪)と李海燕(=ハイイエン/演・艾麗婭)夫婦には、偶然同じ年の同じ日に生まれた息子、沈浩(=ハオ)がいた。両親たちは、お互いそれぞれの子の義理の父母としての契りを交わし、息子たちは兄弟のように成長していく。そんな折、リーユンは第二子を妊娠。だが、「一人っ子政策」が進む当時の中国では二人目を産むことはできなかった。さらに、リーユンは手術時の事故で二度と妊娠できない身体になってしまう。ある日、ハオは川で遊ぼうとシンを誘うが、泳げないシンは頑なに拒む。やがて、日が沈みかけた頃、大人たちが必死の様子で川にやってくる。ハオは、体を震わせながら真っ青な表情で大人たちのその姿を見ていた……。<引用:Movie Walker

心を許しあえる二つの家族だったが…
主食がご飯ではなく、饅頭(まんとう)であることから、舞台は北方だとわかる。優しい両親のもとですくすくと育っていたシンシンだったのに…

【甘口評】
3時間5分。長い作品だったが、釘付けになった(実は一度おしっこに行ったけどw)。帰宅してパンフをパラパラとめくると、いくつものシーンが蘇り、「もう一度観たい」と思わせられる。ここ数年で観た大陸作品では最高と言えるんじゃなかろうかと。

全編の「ここ」というところで流れる、中国人ならだれでも知っている『友誼地久天長』の悲し気なバイオリンの物悲しい音色。日本では『蛍の光』で誰もが知っているこの曲、隣国では「変わることのない友情」の歌として歌われる(もちろん歌詞も違う)。そこには、友と乗り越えて幾多の苦難がある。この作品では、子供の死、文革、改革開放政策、一人っ子政策が織り込まれ、苦悩する二組の家族、夫婦の姿を借りて、それら多くの人民が共有する「乗り越えてきた」苦難が描かれている。

ショッキングな場面は、リーユンが強制的に堕胎させられるシーン。計画生育部門の長となっていたハイイエンに病院へ強制連行させられ、手術室へ送り込まれるシーン。農村部なら「黒孩子」と言われる無戸籍の子として、極秘に生むこともできたかもしれないが、戸籍がないということは、子供にはあまりにも大きな不幸を背負わせることでもある…。余談ながら、このときのハイイエンのメークや態度が「いかにも」な按配で、艾麗婭の演技力とメークさんはじめ裏方の技量の高さを感じた。

そしてこの堕胎の数年後に、愛息の死という不幸がヤオジュンとリーユンに襲い掛かる。このシンシンの溺死事故は、インミン、ハイイエン夫婦とシンシンの溺死の引き金となった息子ハオを長年苦悩させることにもなる。このわだかまり、溝がなくなるのは30年の後のこととなる。

こうした様々な出来事を時代を行きつ戻りつしながら描いてゆく手法は、下手すれば観る者を混乱させてしまう危険も孕んでいると思うが、タイミングよく時代が切り替わり、さも記憶の中を行ったり来たりしているような感じで進めてゆく手法が、3時間5分を一度もダレさせることなくスクリーンに釘付けにすることに成功していた。平日の真昼間にもかかわらず、思いのほか入りもよく、その誰もがしっかり堪能し、自分の物語を振り返るような感覚で観ていたのではないだろうか。それほどの力を感じた作品だった。

【辛口評】
雪の降り積もる北方の町から、陽光が降り注ぐ福建の名もなき漁村で暮らすことを選んだヤオジュンとリーユンの夫婦に、シンシンの代わりとなる息子がいた。パンフによれば孤児院から引き取った子ということだが、そこの辺のことも映像で描いてくれたら唐突感がなかったのに、とちょいと不満に感じた。大したことではないんだけど…。

さて、シンシンの代わりとして養子に迎えた息子、グレて飛び出してしまうのだが、家を出るときに物陰から見守る母に向けて叩頭するシーンが印象深い。おじちゃん、ちょっとウルウルしてしまったよ(笑)。

この養子としてのシンシンを演じた王源(ワン・ユェン)は、中国のトップアイドルグループ「TFBOYS」のメンバー。TFBOYSと言えば、『少年の君』で周冬雨(ジョウ・ドンユー)の相手役として熱演し、各映画賞の新人賞総なめした易烊千璽(ジャクソン・イー)と同じ。『少年の君』のときにも触れたけど、中国のアイドルに少女たちが求めるのは、「いかに優等生、模範的青年」であるかということ。この王源もそういう意味では大した子で、ユニセフ親善大使に任命されており、『TIME』に「2017年最も影響力のあるティーン30人」の一人に選ばれているような、まさに「模範的優等生」。先般、ジャニーズ事務所を「退所」したT氏とは雲泥の差だな(笑)。

ざっくりとでもいいから、この作品の各時代背景の事柄は理解していたほうが、ぐっと作品に入り込めるのは間違いないけど、まっさらな人でもそれなりには感動できるラストが用意されているので、そこは心配ない。あとは3時間5分を辛抱できるよう、鑑賞前には忘れずにトイレに行っておくように。特に中高年はね(笑)。

【正式電影預告】《地久天長》SO LONG MY SON

(令和2年6月2日 テアトル梅田)


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