今回は結構長くなる。なにせ2日間の出来事を追っているから。ただでさえ長ったらしい拙ブログが、さらに長ったらしくなるのだけど、香港は一つの岐路に立っていると思う方は、どうぞご辛抱いただき、最後までお目を通していただければ幸い。
林鄭月娥行政長官、北京に辞意突き返される
まず、7月15日の夜、新界の香港最大のニュータウン、沙田(Sha Tin)で年輕人(若者)と警察隊が激しく衝突している時間帯に、各メディアが一斉に『フィナンシャル・タイムズ』の報道を引用し、「林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が北京に数度辞意を表明するも、北京は『自分の蒔いた種は自分で刈り取れ』と言わんばかりに、固くこれを拒否」という旨のニュースを流した。これにより、香港市民の多くが要求する「林鄭下台(林鄭行政長官辞任)」は、遠のいたと思われる。
かくのごとく、全ては北京次第で動くのだ。「一国両制」も「港人自港」も「高度自治」もあったもんじゃない。これが「香港返還」の正体だ。
さて、前回のデモの稿で「規模は縮小しながらも、「対警察、対特区政府」にシフトを移して今後もデモ活動は継続されるだろうと思う」と記したが、とんでもない。見通しが甘かった。今までの香港とはまったく違う状況になってしまっている。そしてデモはますます拡大する一方だ。
上記は7月12日以降に予定されている「示威活動日程表」。「中国銀行の窓口業務をマヒさせる運動」とか「銀髪族(シルバー世代)沈黙のデモ行進」とか色々な「企画もの」も考案されている。多分、この状況は8月も継続されると思うが、これまた前回も記したが、「ええ加減、デモに疲れへんか?」と聞きたい。
運び屋は出て行け!「光復上水」
まあ、疲れないようにするためか、デモは香港島から九龍半島、さらには中国との境界に接する新界にまで拡大しているから、もはや全港遊行、示威行動である。
まず7月13日(土)、深圳との境界一つ手前の駅、上水(Sheung Shui)で「光復上水(上水を取り戻せ)」なるデモが開催された。日用品などを大量に買い漁って中国本土で転売する業者、すなわち「運び屋」への抗議デモで、3万人(呼びかけ人発表、警察発表ピーク時で4千人)が参加した。香港で「水貨」と言われるこの転売行為、随分前から問題になっていた。日本製紙おむつ、日本製粉ミルク、ヤクルト、歯磨き粉、歯ブラシ…。とにかく日用品が上水から消えてしまうほどで、特区政府も多少は手を打ったが、一向に収まらない。そのうち、上水ではこうした「水貨客」をターゲットとしたドラッグストアや宝飾店が増え、地元民ご用達の食堂などが次々と姿を消すという状況に。この流れは、次第に香港全域に拡大し、やがて、不動産物件買い占め、産院のベッド占拠など「イナゴの大群が香港を荒す」と言われる状況を生み出してゆくきっかけのひとつでもあった。
そこで、「本土派」や「港獨派」の若者を中心に、これまでも激しい抗議活動が行われてきた、という経緯。
そしてこの日、何度目かの「光復上水」である。
毎度のことながら、届け出られていたデモ自体は平和裏に終わる。が、それからだ。一部のデモ隊が立ち去らず、結局、排除に動き出した警官隊と衝突する。そして逮捕者も出る、双方に負傷者も出る。まったくもって不毛な戦いである。
対峙するだけならまだしも、鉄パイプや雨傘を警官隊に投げつける「居残りデモ隊」。時に、こうした投擲物は報道関係者や一般市民を直撃するから、警察も対応をエスカレートせざるを得ない。この警察の行動を世間は「行き過ぎた暴力行為」と非難するが、違うやろ、それ!ってところだ。
警察に追い詰められてパニック状態になった若者が、歩道橋から飛び降りを試みるも、警官隊に阻止され、って言うか救出され一命を取り留める。その後、逮捕されるが誤認逮捕のため、釈放。デモ隊も極限状態なら、警察も極限状態である。こうなると、双方ともに抑制が効かなくなるから危険だ。とにかくこういうのが毎週、香港各地で繰り広げられているのだ。これはもう林鄭行政長官が辞任したところで、何も解決しないだろう。それもあって、中央政府は「辞任は自分でケツ拭いてからね」と言うことなのだろうけど…。
今回の「光復上水」は逃亡犯条例改正への抗議=反送中とは違うテーマで開催されたが、折からの「反送中」ムーブメントの高まりの後押しを受ける形で、最終的には「反送中」から派生した「警察への不満、怒り」が、衝突を生み出すことになった。この最悪な流れ、いつ、だれが、どういう形で終息させるんやろ? 解放軍? あり得ないな、それは…(と願っておきたい)。
暴力蔓延 激戰沙田
「暴力蔓延 激戰沙田」は、7月15日付『東方日報』1面トップの大見出しである。まさにその通り。前日は、香港各メディアがライヴでネット中継するデモ後の警民衝突の様子にくぎ付けとなってしまった。せっかくの3連休中日、どうしてくれるんだ!
胸が熱くなる光景ではないか! 香港最大のニュータウン、沙田の高層団地の谷間をデモ隊が埋め尽くしている。これまでに見たことのない光景だ。
こうした「届け出が承認された」デモは毎回、平和裏に始まり、平和裏に進み、平和裏に終わる。日本の報道を見ていると、その後の「居残りデモ隊」による、警察との対峙や衝突ばかりがクローズアップされているが、デモ自体は、何事もなく粛々と行われているのである。そこを日本の皆さんには、理解していただきたいのだ。
小生が毎年農暦新年に初詣に訪れていた車公廟が集合地点。続々と人が集結している。車公には何度も窮地を救っていただいた。今回も、車公のご加護のもと、何事も起きませぬように…。との祈りも空しく、事が起きてしまう。車公の御神意を以てしても、この困難を乗り切ることができないのか、今の香港は…。そう思うと、非常に切ない、悔しい、腹立たしい…。
悪法撤回、林鄭長官の辞任要求に加え、「学生は暴動を起こしていない」「警察の暴力の徹底譴責」が叫ばれる。もし小生が、このデモに参加していても、この二つのコールは叫ばないだろう。一連の年輕人=若者を中心とした警察との衝突は、暴動とみなされても仕方ない部分があった。その暴発を抑えるために警察の取った行動に何ら間違いはないと、思ってきたからだ。ここは、香港市民の間でも、意見の分かれるところで、ネットの書き込みを見ていても、それがわかる。
こうして、届け出られたデモが粛々と進行する一方で、デモが終わるか終わらないかといううちに、「居残り」を決め込んだ一群が、道路の封鎖を始める。ここで最初の警官隊との衝突が勃発する。
午後5時ごろ、幹線道路の交差点で衝突が起きた。衝突と言っても、この場合は居残りデモ隊による道路の不法占拠、届け出無しの不法集会の排除であり、一方的に警察を責めることはできない。しかし、警察の排除の方法も、デモの度にエスカレートしており、「もう少しやり方あるんとちゃうの?」と、全面警察支持の小生でさえ疑問に思える点も多い。たとえば、「戦争でも始まるのか」と思えるほどの過度の重装備も、デモ側の敵愾心を煽る一因になっていると思う。一方で、そこまでしないと身を守れないほど、デモ側の暴力もエスカレートしている。
その結果、こうやってレンガを警官隊に投げつける輩も出てくるから、結局、警察も一層暴力的になってしまうという悪循環が、毎週のように繰り返されているのだ。
警官隊は「藍旗」と呼ばれる青いゲーフラを上げて警告する。「警察からの警告だ。この集会とデモは違法行為である。即刻退去せぬ場合は武力行使するかもよ」と。以前ご紹介した、黄、赤、黒、橙のゲーフラの前段階である。まずはやんわりと…。まあ、旗の色はどうでもいい。
さて、この先が大変だったのだ。
街頭での衝突、対峙が繰り返されたがーそれとて大混乱だったのだが、その後に起きる乱戦の序章に過ぎなかったー居残りデモ隊の多くは、沙田のランドマーク「新城市廣場=ニュータウン・プラザ」へと、退散する。一息ついて、館内と直結するMTR沙田駅やバスターミナルから、引き上げようと考えていた者が大半だったはずだ。館内は、買い物客や食事中のファミリーも多い。警察もここで衝突を引き起こすようなことはしないだろうと、居残りデモ隊の大半は考えていた。小生もそう思っていた。そもそも居残りデモ隊自体が、この場所で警察と衝突しようなんて、毛頭思っていなかったはずだ。
ところが警官隊は駅方面への通路を封鎖し、続々と館内へ進入してくる。追い詰められ、退路を断たれた形の居残りデモ隊は、ある者はパニック状態に、また、ある者は激情し、警官隊へ雨傘やペットボトルなどを投げつける。警官へ暴力を振るう者も出てくる。こうなると、もはや収拾がつかなくなる。たちまち、双方で暴力の応酬となってしまう。ネットのLIVE中継で見ていたが、修羅場以外のなんでもなかった。台湾のテレビ局「三立新聞台」の映像を貼っておくので、見ておいていただきたい。
この修羅場は、警察の明らかな作戦ミスだ。狭い場所に約千人の居残りデモ隊を追い詰めてしまったために起きた惨劇だ。日本のメディアでは「デモ隊がショッピングセンターを占拠し…」なんていう、すっとこどっこいな報道が多々見受けられたが、嘘八百もいいところだ。現場で体張って取材せず、ほとんど映像を見ただけのいい加減なニュース流すから、一連のデモが「若者の反乱」としてしか日本に伝わらないのだ。北京に対して「No!」の声を上げている多くの香港市民に、あまりにも失礼ではないか。
ご参考までに、小生が最も信頼を置いている香港メディア『香港01』では、「いかにしてニュータウン・プラザは修羅場と化したか」という特集を組んでいる。中文ではあるが、Googleの間抜けな翻訳機能でも使ってざっと流れをつかんでみてください。警察の作戦ミスがはっきりしますから。
この日の新城市廣場では、警・民合わせて負傷者は28人にも上り、危篤2人、重体4人という大惨事である(いずれも7/15午前零時時点)。なお、警・民の内訳は公表されていないが、デモ隊に袋叩きにされた警官や、指を噛みちぎられた警官など、デモ隊のみならず、警察側も大ダメージを負っている。双方命がけになってきている。なぜ、香港人同士でここまで憎悪むき出しで血を流し合わねばならなくなったのだ…。
この乱闘だけで逮捕者も40人を超えている。どこのメディアか失念したが、「警察はデモの度に『暴徒』を作り出している」という指摘があった。この日の騒ぎを見た限りは、そう言われても仕方ない。警察は、違法者はきちんと取り締まって、必要ならば力づくでも逮捕するべきだとは思う。それが警察の職務だ。しかし、今の状況では、それすら世間の厳しい批判を浴びてしまう。ある意味、機能不全に陥っている。警察が警察として機能しない、これは法治社会において、この上もない不幸だ。この不幸の原因を突き詰めれば、結局「香港返還」に行きついてしまうのではないかと思う。あんなこと、なければよかったのに。何ひとつ香港の得することはなかった。不幸になってゆくばかりではないか…。
いつも締めくくりに「返還とはこういうことよ」と記しているが、そう言ってしまうには、あまりにも悲しく腹立たしい現実が、いま、繰り広げられている。重ねて申すが、林鄭月娥行政長官が辞めたところで、もはやこれという効果もないだろう。それっぽちのことでは、済まない状況になってしまった。嗚呼、香港よ…。
*支離滅裂になってしまったが、香港を愛する故と、ご寛容のほどを。
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。