【睇戲】『先に愛した人』(台題=誰先愛上他的)<国内プレミア上映>

第14回大阪アジアン映画祭
特集企画《台湾:電影ルネッサンス2019》

先に愛した人
台題=誰先愛上他的 <国内プレミア上映>

大阪アジアン映画祭、二本目は台湾からの話題作。昨今、婚姻の平等を求める動きが活発化している台湾。昨年11月24日には、民進党が歴史的大敗を喫した統一地方選と同時に、「同性婚の是非」「学校教育で同性愛について教えることの是非」などを問うLGBTに関する5項目の国民投票も実施された。結果は、LGBTの人たちには厳しい現実が待っていたわけだが、それでも、こういう議論が多くの国民の間で交わされる台湾は、世界的に見てもかなり先を進んでいる国ではないかと思われる。そんな空気の中、11月9日~11日の「台北週末票房(台北週末興行成績)」で、トップに輝いたのがこの日観た『先に愛した人』である。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

台題 『先に愛した人』
英題 『Dear EX 』
邦題 『誰先愛上他的』
公開年 2018年
製作地 台湾
言語 標準中国語

評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):徐誉庭(シュー・ユーティン)、許智彦(シュー・ツーイェン)

主演(主演):邱澤(ロイ・チウ)、謝盈萱(シェ・インシュエン)、陳如山(スパーク・チェン)、黄聖球(ジョセフ・ホアン)
聯合演出(出演):梁正群(ダニー・リャン)、楊麗音(ヤン・リーイン)、安哲(アン・チェ)、白癡公主(白痴姫)、陳昀萱、高雋雅(クローバー・カオ)、吳定謙、禾語辰、凱爾、周洺甫(チョウ・ミンフー)、鍾欣凌
別演出(特別出演):萬芳(ワン・ファン)、高愛倫

いや~、これはおもしろかった!

たとえ終演が午後11時を回っても、明日の仕事中居眠りが予想されても、このおもしろさの前には、没問題である。

早くも、今年のアジアン映画祭で最高の作品と評していいかも! ってくらい、気に入ったのだ。「同志片(ゲイムービー)」という側面だけで語るには、あまりにももったいない作品。なるほど、堂々の台北映画祭4部門、金馬奨3部門受賞作であると、納得の一品だ。

<作品解説>

台北電影奨でロイ・チウが主演男優賞を受賞したヒューマン・コメディ。死んだ父親の恋人だった自由気ままな若い男と、その事実を知らされ激怒するその妻、二人の間で戸惑う息子の人間模様を鮮やかな映像で描く。
引用:第14回大阪アジアン映画祭HP

主役の3人がとにかくいい。

病的なまでにヒステリックでエキセントリックな母親・劉三蓮を演じた謝盈萱(シェ・インシュエン)、その母親への敵愾心が積もり積もっている反抗期の高校生・宋呈希を演じた黄聖球(ジョセフ・ホアン)、この母子の夫であり父親・宋正遠の“同棲伴侶”だったやさぐれ舞台俳優の小王こと高裕傑を演じた邱澤(ロイ・チウ)の3人が作り出す世界に、一瞬にして引き込まれる。

邱澤ってのは、初めて出演作品を観たんだが、てっきり歌手だと思っていたら、結構、テレビドラマや映画にも出てるんだ、へ~ってところ。初めて観た作品が今作ということで、小生の中で彼のイメージは、「小王」として定着してしまったわけで、次に本来のイケメン路線での出演作を観たときに「ほ~、こんな役もこなすんや」となってしまうのであるから怖いもんだ。駄作でなくて、よかったよかった(笑)。

一見、3人のベクトルはまったく違った方向を向いているのだけど、3人は3人それぞれの形で、陳如山(スパーク・チェン)演じる宋正遠への思いを抱いている。それこそタイトル『誰先愛上他的』、直訳すれば「先に愛したのはだ~れだ?」ってもんだ。

夫婦愛、親子愛、同性愛…。その食い違いや合致点などを、明るく、楽しく、時にホロッとさせながら紡いでゆく徐誉庭(シュー・ユーティン)、許智彦(シュー・ツーイェン)の二人の監督の手腕に見事に踊らされてしまう。いや、踊らされていることを大いに楽しめたというところだろう。「もっと躍らせてくれ!」と、スクリーンに向かってアンコールしたいほどだった。

「老公、接電話!(ダ~リン、電話に出てぇ~!)」

という、陳如山演じる宋正遠の甘えた声による、小王の携帯呼び出し音には笑ったけど、これを聴かされた宋正遠の妻、劉三蓮の心中は…。

「ここ!」という場面で、上手にアニメ映像を重ねて、ゲイの亡き父やエキセントリックな母、父の元同棲人に対する宋呈希の思いを描く手法が、いかにも「高校生の落書き」っぽくて、効果的だった。また、このアニメーションが、鮮やかに映し出された台湾の街や小王の部屋に非常にマッチしていて、こういうことをやってくれる台湾映画の「奥行き」と言うか「懐の深さ」のようなものを感じた。「台湾映画、なかなかやるな!」ってところだ。当たり前だのことだが、台湾映画が、香港映画や大陸映画とは違う形での進化を遂げていることを実感できる作品と言えるのではと感じる。

色々な問いかけが仕込まれている作品ではあったが、総体的には、アニメ映像や色遣いの上手さが光る「おしゃれな映画」という印象だった。人気ラッパーの李英宏(DJ Didilong)が歌う主題歌『峇里島(=バリ島)』も、なかなかおしゃれな曲で、これがいまだに脳内エンドレス状態で、困っているのだ(笑)。

《峇里島》- 電影【誰先愛上他的】主題曲

第20屆臺北電影獎
「最優秀長編作品賞」受賞
「媒体推薦賞」受賞
「最優秀主演男優賞」受賞:邱澤(ロイ・チウ)
「最優秀主演女優賞」受賞:謝盈萱(シェ・インシュエン)
第55屆金馬獎
「最優秀主演女優賞」受賞:謝盈萱(シェ・インシュエン)
「最優秀主題歌賞」受賞:李英宏(DJ Didilong)『峇里島』
「最優秀映像編集賞」受賞:雷震卿
他5部門にノミネート

【誰先愛上他的】終極版預告

(平成31年3月11日 シネ・リーブル梅田)