『ブラインド・マッサージ』
(中題=推拿)
1997年の香港返還あたりから2003年のSARS禍あたりまで、香港のお隣の深圳は、「盲人按摩」が花盛りで、腰痛持ちの小生も毎週のように利用していた。もっとも、マッサージ後に、夜の深圳の街に繰り出して、朝まで遊んで帰るというのが目的だったわけだが(笑)。
そのSARS以降、夜はおろか昼間も深圳に行くことがめっきり減ってしまった(要は飽きたのだ)が、風のうわさでは盲人按摩もずいぶん減ったと聞いていた。それはすなわち「返還バブル」だったのだ。そんな時代背景もちらちら見える本作は、世界中の映画賞を総なめした名作であり問題作であり衝撃作である、ということだが、さてさて。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
中題 『推拿』
英題 『BLIND MASSAGE』
邦題 『ブラインド・マッサージ』
大陸公開年 2014年
香港、台湾公開年 2015年
製作地 中国
言語 標準中国語
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督): 婁燁(ロウ・イエ)
領銜主演(主演):郭晓冬(日本では郭小冬と表記=グオ・シャオトン)、秦昊(チン・ハオ)、梅婷(メイ・ティン)、黄轩(黄軒=ホァン・シュアン)、张磊(張磊=チャン・レイ)、黄璐(ホアン・ルー)
【甘口評】
まず最初に、「中国もよくこれだけ濡れ場の多い映画を検閲通したな」と。濡れ場の多さでいけば、池松壮亮が主演でも不思議でないほどだ(笑)。で、これがまたそれなりにエロい。
実際の障碍者である张磊が、複数の男優相手にこのシーンを体当たりで演じる。ちなみに金馬奨で新人演技賞を受賞した彼女だが、現在はプロのマッサージ師だと聞く。彼女をはじめ多くのキャストが、実際の視覚障碍者である。台本は点字で覚えたという。彼ら彼女らが恐らくそうであるように、映画が描く視覚障碍者たちもまた先天性の者もあれば、中途失明者もいる。
これという起伏のない展開で、借金取りに追われてなお、能天気な弟を持つ王大夫(郭晓冬)が自らの体を刃で傷つけ、借金取りを追い返すシーンは唯一と言っていい圧巻の展開。ここは盲人按摩とは別切り口で婁燁に炙り出してほしい中国の問題が潜んでいるので、改めて何らかの形で世界に向けて問いかけてほしい点である。
「さすが婁燁、うまいな~」と思わせるのは、後半の小马(黄轩)から「見える世界」の映像。観客にいろんな想像をさせる。「頭を打って少し見えるようになったのか?」とか「いや、こいつ元々うっすら見えていたんだろう」とか「中途失明者だから『こういう感じだろうな』って想像はできるってことを言いたいんだろ?」とか…。もし「元々うっすら見えていた」とするなら、小马はチンピラに袋叩きされて頭を強打することもなかっただろうけど。小生の観方としては、舞台となった南京の盲人推拿中心で一番若い小马が、ラストあたりでささやかな(一時的なものだったかもしれないが)幸福な日々を手に入れかけていることに、救われた気分になった。
【辛口評】
特になし。
[電影預告]《推拿》(Blind Massage)
(平成29年2月8日 シネマート心斎橋)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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