浪曲
第27回 浪曲錬声会
まあ浪曲は好きですよ。幼いころ、なんば花月や角座で浪曲が出てくるのが苦痛以外のなんでもなかったのにね…。要するに、「語り芸」聴いて脳内で光景を想像する力がまだ備わってなかったということだな。
「好きですよ」とは言え、行っても年に2,3回。あとは落語会の色もんで聴く程度だから、回数は知れている。これ以上機会を増やすと、必ずどこかにその出費のしわ寄せがくるわけで、そんなんしたらアタシ、破産してしまいますがな、いやこれ正味の話が。ま、けち臭いハナシではあるが、そんな塩梅なんであるから仕方ない(笑)。
早いもんで、今年もまた錬声会の頃となった。そして運よく、今年もまた1部も2部もチケットが取れたのである。たっぷり聴かせていただきましょう。
【第一部】
『吉良仁吉』 京山幸太 曲師:藤初雪
『神田松』 浪花亭友歌 曲師:沢村さくら
『刃傷松の廊下』 真山隼人 曲師:沢村さくら/オペレーター:内田薫
『はばたけ千羽鶴』 三原佐知子 曲師:虹友美/オペレーター:鵜川せつ子
【第二部】
「瞼の母」より『番場の忠太郎』 真山隼人 曲師:沢村さくら/オペレーター:内田薫
『山内一豊の妻』 浪花亭友歌 曲師:沢村さくら
『首途の一里塚』 京山幸太 曲師:藤初雪
『母ちゃん死ぐのいやだ』 三原佐知子 曲師:虹友美/オペレーター:鵜川せつ子
第1部、正午開演。第2部終了が17時半。間に30分ほどの入れ替え時間があって正味5時間、浪曲漬の一日だった。まったく退屈はしなかった。頭の中で今浪曲師が語り、うなっている言葉を映像化して楽しむのであるから、退屈している暇もないというもんだ。
今回、「ほぉ~」と思ったのは、バンド演奏で口演する真山一門の隼人が、バンド演奏+三味線という形を聴かせてくれたこと。「『演歌浪曲』ではなく『歌謡浪曲』で聴いてもらいます」と言ってたが、小生にはその定義づけがいまいち曖昧に思えるが…。
とりわけ『刃傷松の廊下』はよかった。『忠太郎』もそうだったけど、振りが決まっていてカッコよかった。やっぱり三味線も入れたことで表現の幅がグッと広まったな。
浪曲の客席は、かなりフリーダムなお方が多く、小生の後ろのお客なんか一緒に歌ってたもんな(笑)。悪くはないだろう。普通にコンサートなんか行けば、歌手と一緒に歌っているでしょ、お客も。まあ、あれと同じだな。それだけ客を乗せてたってことかもな。
幸太は…。一瞬TMレボリューションが着物で出てきたのかと(笑)。まあ、若いうちは色々やってください。幸枝若一門ならではの二題。3年前のこの錬声会が初舞台。甘い評価をすれば、飛躍的に力を付けたというところか。現実には、ここから下(の入門者)がいないからね。下からの突き上げがないポジションというのは、モチベーションの維持が難しい。そこは浪界としても厳しい現実。
『首途(かどで)の一里塚』が、涙腺を刺激した。もっと練りこんで涙腺決壊に持ち込んでくれ。盲人の最高官位江戸総検校の位を持つ塙保己一と、天下の名奉行・根岸肥前守鎮衛とが、お互いの出世を誓い合った若き日、そして功成り名を遂げた日の再開を描く人情因縁話。
友歌は昨年に続き二度目の出演。上方の若手人気者二人と超ベテランに挑むという図式に意気込みを感じる。
第一部、二部どちらも夫婦の情愛ものだが、『神田松』は市井の家族愛、『山内一豊の妻』は夫婦愛だけでなく武家の妻としての千代の賢妻ぶりを、それぞれ描いている。夫婦ものと言っても色んな形、描き方があるもんだな~と。山内一豊の「大のろけ大会」寸前のところ、ってのがおもしろいし可愛らしい。このあたりは、女流だからこそ表現できる部分なのかなと思う。
佐知子師匠は、涙無くして聴けないお題二つでグイグイ攻めてきた。当然ながら若手3人との力量の差は歴然。まあこれは仕方ないが、佐知子師匠は「若い人たち、一生懸命練習して力つけてきています。応援を」と優しい。
オバマ大統領の広島訪問が決まった直後ということで、「この『はばたけ千羽鶴』の思いが通じたのかな? ま、そんなことはないでしょうけど」と言うが、いや~、オバマ大統領にはぜひとも聴いてほしいなあ。この曲で小学校の平和を考える授業に招かれることも多いとか。近々には、小生の出身校にもいらっしゃるとのこと。帰り際、「僕、xx小学校の出身ですねん」と言うと、「ぜひ来てちょうだい!」と固く手を握られたが、いかんせん平日の昼間では…。
ハンカチが手放せない二題で、第一部、第二部ともに公演をビシッと締めくくる圧巻の口演に、この日も感動。
お客がフリーダムなら、出演者もフリーダムというかアットホームな浪曲師の皆さん。お見送りに全員がロビーに出るのはもちろん、出演の無かった人も姿を見せてくれるサービス精神がうれしい。腰だったか足だったかを痛めた休演が続いていた幸枝若もちらっと姿を見せていたが、元気そうでなにより。
客席の高齢化が進むのは、いずこの芸界も同じだが、この日は数人だけど小生よりも明らかに若いお客の姿も見かけた。今度来た時には、倍に増えていたらいいな…。
(平成28年5月21日 日本橋国立文楽劇場小ホール)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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