【睇戲】『ベトナムの怪しい彼女』(越題=Em Là Bà Nội Của Anh)<海外プレミア上映>

第11回大阪アジアン映画祭
特集企画《ニューアクション! サウスイースト》

〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉

『ベトナムの怪しい彼女』
(越題=Em Là Bà Nội Của Anh)<海外プレミア上映>

posterこれぞアジアン映画祭!ベトナム映画を初めて観る。ベトナムにだって映画はある。当たり前だが。小生らの世代は、ベトナムと言えばベトナム戦争のイメージがあまりにも強い。サイゴンとかハノイとか、ベトコンとか、北爆とか、B52爆撃機とか…。今のホーチミンはサイゴンだったよな…。って具合に、小学生の頭にどんどん刷り込まれてゆく地名や人名、単語。今なおもって、そのイメージが先行しているのだから、この戦争の傷跡ってまだまだ癒えないんだろう、現地では。

今年の大阪アジアン映画祭では、〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉として実にベトナム映画が6作品上映される。これ全部観てやっとベトナム映画の現状をわずかに垣間見ることができるというところだろうけど、そこまでは手が回らない。そんなわけで、所詮は「いちげんさん」。どこまで楽しめるか…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

em-la-ba-noi-cua-anh-phim-hai-cuoi-ra-nuoc-mat-dang-xem越題 『Em Là Bà Nội Của Anh』
英題 『Sweet 20』
邦題
 『ベトナムの怪しい彼女』

現地公開年 2015年
製作地 ベトナム
言語 ベトナム語

評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:ファン・ザー・ニャット・リン

主要キャスト:ミウ・レ、ゴー・キエン・フィー、フア・ヴィー・ヴァン、ハリー・ウォン、ミン・ドゥック

現地では昨年12月の公開。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を引き離し、興行成績トップを独走したという超ヒット作品。いや~、世界は広い。実に広い。あのスター・ウォーズさえ追い抜かせないヒット作が存在する国があるのだ。まだまだ世界を見て歩かなければならないね、ほんとそう思う。

作品はタイトルから察しがつくように、韓国の大ヒット作『怪しい女』のベトナム版。この『怪しい女』は、中国、日本でもリメイクされている。このベトナム版は韓国のCJエンタテインメント国内企業と共同制作したもので、この大阪アジアン映画祭が海外初上映となった。

リメイク版ではあるが、「(オリジナルや他国のリメイク版と)同じと思われないよう、『ベトナム映画』を作ってほしいと言われた」と、上映後にステージに上がったファン・ザー・ニャット・リンは言う。そんな経緯から、ベトナム文化を非常に意識した出来上がりとなっているらしい。そう言われてしまうと、トランジットでホーチミン、ハノイにそれぞれわずかな時間だけ空港内に滞在しただけで、知識と言ってもベトナム戦争と女性の美しい民族衣装「アオザイ」以外に何もない小生にとって、お手上げもいいところ。ここらが、まったくと言っていいほど予備知識のない国の文化に触れる難しさであり、一方で楽しみでもある。

オリジナルやその他のリメイク版を観ていないので、はっきりと言えないけど、筋自体はオリジナルの展開を大きく損なってはいないだろうと思われる。いたって単純明快な筋立てである。70歳の毒舌ばあさんに嫁が精神的にまいってしまい、ついにダウン。自分のせいなのかと少しショックを受けたおばあさんが、ひょんなことで20歳に若返って…。

20歳に若返っても、口の悪さや「老人的振る舞い」は変わりなく、若い女優も役作りに苦心惨憺した跡が見受けられて、その奮闘に好感が持てる。その毒舌ばあさんの話言葉だが、70歳と20歳で、南北の方言を使い分けているという。ここらもベトナムの観客にとっては「心憎い演出」になるのだそうで、大ヒットの要因の一つなのだろう。「ベトナム映画を作ってほしい」と言われたことに対し、忠実にそれを実践していった監督の実直な態度も感じられる。

「この役者さんたちは、ベトナムではどの程度に売れている方たちなのか?」という客席からの質問に対し監督は、「どの人もよく知られた人たちだけど…。正直、大スターというほどではありません」と真面目に答えてしまう(笑)。いやいや、イイ人だ。特に若返った20歳の主人公とその孫の男子のコンビは、「以前に同じコンビで撮った作品が大ゴケした経緯もあって、チケットの売れ行きを心配していた」とも(笑)。

見知らぬ国の見知らぬ街の風景の中で繰り広げられる、涙あり人情ありコメディありのストーリーが、ベトナムの人たちにとっては懐かしくてたまらない歌手の歌にのって描かれてゆく。「へ~、あっちの女の人って、こんな色の口紅を好むのか~」とか「こんな風な家に住んでるのか~」など、映画の筋以外のところでも見どころや発見が多く、飽きることのない127分間であった。

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Q&Aでは、時間の許す限り、懇切丁寧に客席からの質問に答えてくれたファン・ザー・ニャット・リン監督。思わずサイン会で「初めて観たベトナム映画が、あなたのこの作品でよかったと思っています!」なんて言っちゃったよ、俺。あ、もちろん通訳さんを介して(笑)。
ただ、この作品、先に記したように韓国版のリメイクであり韓国との合作である。純然たるベトナム映画というものをやはり何本か観てみないことには、ベトナム映画のなんたるかを語るには到底及ぶべくもない。そういう意味では、今回のアジアン映画祭は大チャンスだったのだが…。なかなか世の中、自分の思うに任せませんな…。

EM LÀ BÀ NỘI CỦA ANH – Teaser Trailer

(平成28年3月13日 ABCホール)



 


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