【大結局! アナタの知らないマカオ】『花の咲かない果実』(濠題=無花果)【睇戲】

大結局! アナタの知らないマカオ
『花の咲かない果実』(濠題=無花果)

「アナタの知らないマカオ」シリーズもどこまで続くやら…。
ということで、一応今回で一区切りとなりそうなので、香港の連続ドラマの最終回によくあるように「大結局」としてみましたよ~ん。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

好評上映の連続となった「マカオ映画祭」もこの日で最終上映。あいにくの雨となったが、熱心な「マカオ映画ファン」がつめかける。
本日上映、映画祭の掉尾を飾る作品は『花の咲かない果実』。原題は『無花果』。なぜ「いちじく」なのかは、ラスト近辺に種明かしがある。

あらかじめ断っておくと、この映画祭では3本の作品を観たが、この『花の咲かない果実』が最もレベルの高い作品だった。「こんな作品が撮れるんですか? マカオで?」という疑問というか驚きがあったが、その種明かしももちろん、上映後のリム・カーワイ監督の解説で聞ける。

1378089_423090104457285_1320383557_n濠題 『無花果』
英題
 『A Fig』
邦題 『花の咲かない果実』
製作年 2012年
製作地 マカオ、香港
言語 広東語

評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):崔允信(ビンセント・チュイ)

主演(出演):李俊妮(ジェニー・リー)、劉漪琳(エリーズ・ラオ)、盧鎮業(ロー・ジャンイップ=小野)、鍾家誠(カーソン・チュン)

特別演出(特別出演):布朗晴、陳建德、盧曉藍(スティファニー・ロー)

香港インディー・シーンの旗手、崔允信

今回が日本初紹介となる崔允信監督の最新作。オール・ロケをマカオで敢行(あ、一部香港ロケもあったけど)。同監督は本映画祭の主催団体のひとつ、自主制作映画集団・配給集団「影意志(イム・イー・チー)」設立の呼びかけ人の一人で、香港インディペンデント映画界の中心人物とのこと。

脚本が呂筱華(ロイ・シウワー)ということで、納得。これといった起伏のない、登場人物の日々や家族の不倫などを描いただけのストーリーなのに、この迫り来るもの…。これ、許鞍華(アン・ホイ)監督の『天水圍的日與夜(邦題:生きていく日々)』の感覚にも通じる。そう、『天水圍的日與夜』も脚本が呂筱華。彼女は『天水圍的日與夜』で香港電影金像奨の脚本賞を受賞しており、この手の路線は「呂筱華もの」として確立されていくのかも…。

■夫と娘の3人のごく平凡な日々を送っていたカー。ある朝、娘がベッドで急死していた。気丈に振る舞いながらも、やはり精神的なダメージは大きく、思い立ったように故郷のマカオへ戻り、洗濯屋でアルバイト生活を始める。娘の死以外にも、夫とのすれ違いも理由か…。

磅洗、唔該!

ああ、めっちゃ懐かしいフレーズ。香港の「洗衣店=洗濯屋」は便利な存在。この作品に出てくるように、洗濯機が故障したり、量が多かったり、乾くのに日数がかかりそうなときには、「洗濯屋へ迷わずGo!」なのだ。「磅」とはポンドの意味で「1ポンドあたりいくら」という「量り洗い」のサービス。「乾洗(ドライクリーニング)」とは違い、水洗いなのでうまくいけばその日のうちにピックアップできる。コインランドリーがない香港では欠かせない存在。どうやらマカオもそうらしい…。

映画の中の店は、立ち退きを迫られている超古風な店。店の大将もああいう感じの人が多かったね、香港も(笑)。なんか洗濯機を置くスペースが無い部屋に住んでいた頃に通っていた店を思い出して、胸アツ&ホロリだった。

■洗濯機の故障がきっかけで店に通うようになった若い女性客マンと、カーの関係…。「ええ!そうなるのか!」と僕自身はちょっと驚きがあったけど、タイトルが暗示してるもんね、そこは…。カンの鋭い人は二人の出会いの時点で気づいたのかな(笑)。

そういえば、マンはピックアップした洗濯物の香りをいつも楽しみにしていた。あれねえ、店によって芳香剤やら柔軟剤やらの匂いが違うのよね~。中には「便所にぶら下がっている安モノ芳香剤のような下品で強烈な香り」に仕上げる店もあって、そういう店は近所であってもパス!

■マンの家庭も父親の不倫という問題を抱えている。弟は全方位に気を遣いながらも悩みはマンよりも深い。大学構内で手首にナイフを入れようとしたときに、携帯が鳴り…。上に添付したポスター写真の下半分の場面までの展開が印象的だし、とくにこの写真の場面がよかった。もう一度観たい場面。

若き才能、盧鎮業

マンの弟役の盧鎮業(ロー・ジャンイップ)、通称「小野」。「おの」ちゃいます、「しういぇ」と言います。香港流イケメン。日本にもファンがいるそうな。役者と同時に映画監督としても活躍する香港のインディペンデント映画界の将来を背負って立つような逸材。まだまだ若いもんな…。羨ましい(笑)。

■この「おの君」じゃなく「しういぇ」こと盧鎮業、父親の寝室で激しく父の不倫を叱責する場面、途中でメードさんがドアを閉めたので表情がわからなかったが、聞えてくる声の勢いからして迫真の演技だった(はず)。監督としての期待も大きいが、俳優としても期待したい。

観る者を引き込む呂筱華の脚本

全体に画がきれい。カメラワークも良し。各登場人物の物語のつなぎ方や展開の仕方も文句なし。音楽もいいし。

ストーリー自体は、最初の方でも言ったけど、ほとんど起伏が無いし、さらにはマカオが舞台である必要もないし…。なのにぐっと引き込まれる。そしてやっぱりこの作品には、マカオが適していたんだなとも感じる場面も多々。これがラマ島じゃ、ちょいと気が抜ける(笑)。

勝手な想像だけど、呂筱華の脚本って、撮影スタッフにいい仕事をさせる何かが秘められてるんじゃないかと思う。『天水圍的日與夜』しかり…。監督やキャストの名前で売ることがほとんどの香港映画だけど、脚本家の名前で売る映画があってもいいわな。呂筱華は間違いなくその一人だろう。

《無花果》電影預告Fig movie trailer:2013年11月7日澳門永樂戲院公映 In Cinema Alegria Macau 7th Nov, 2013=澳門永楽映画館公開予告フィルム



1週間にわたる「マカオ映画祭」は終了。上映作品を全て観られたわけではないけど、マカオ映画界の現状というものが、うっすらとは理解できたつもり。商業主義に乗らない自主制作作品ということで、たとえ単館公開ですら日本では難しいものがあるが、こうやって集中的に年に1回でもマカオの作品に触れる機会があれば、「広東語映画ファン」としては嬉しいと思う。そんなわけで、2回目の開催に大いに期待!

(平成26年6月6日 プラネット・プラス・ワンにて鑑賞)


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  1. ピンバック: 【睇戲】『中英街一号』(港題=中英街1號)<ワールドプレミア上映> | どがちゃがHONG KONG、OSAKA
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